010.お兄ちゃん、弟を知る
さて、翌日。
ゆっくりと睡眠を取ったフィンと遅めの朝食を頂いた僕は、2人で再び自室へと戻って来ていた。
「さあ、何をしましょうか。フィン」
ニッコリと弟へと笑顔を向ける僕。
今日は僕もオフをもらった。
だから、フィンのやりたいことに1日中付き合ってあげることができる。
つまるところ、前世で、もし弟がいたらやりたかった、あれやこれやなんかができる良い機会かもしれない。
ゲームとかはさすがにこの世界ではやりようもないが、キャッチボールとかならワンチャン!!
「あ、あの、セレーネ様。本当に、お休みをもらってしまって良いのでしょうか……」
フィンの方はというと、どうにもそわそわと落ち着かない様子だ。
無理もない。今まで、あんなに無理をさせられていたのだから、いきなり休めと言われても、何をしたらよいのか、すぐには考えられないのだろう。
「お父様も仕事に向かいましたし、今更勉強しろ、と言われても、今日は家庭教師も来ませんわ。屋敷も庭も使い放題。こんな機会、なかなかありませんわよ」
僕がそう言ってやると、フィンは、ようやく安心したように、伏せていた目を僕の方へと向けた。
うわぁ、改めて可愛らしい顔立ちだなぁ。
さすがに若さか、一晩ゆっくり寝たおかげで、隈もすっかり消えている。
ボーっと顔を眺めていたら、その頬に少しずつ朱が差した。
「セ、セレーネ様……」
「ああ、ごめんなさい。つい」
こほん、と咳ばらいをすると、僕は改めてゆっくりと口を開く。
「とにかく今日は自由なのですわ!! フィンのやりたいことをやろうじゃありませんか!!」
そして、あわよくば、僕に弟とのあれやこれやを体験させてくれ。
「やりたいこと……」
「そうですわ。何でも構わないですわよ」
「僕がやりたいこと……」
「はぁ、フィンにこんな特技があったんですわね」
感心しながら、声をかける。
フィンの手元には、侍女達が用意してくれた布の端切れと糸と通した針が握られている。
つまるところ洋裁だ。
作っているのは、ちょうど胴体が手に掴めるくらいの人形。
ついさっき作り始めたばかりだというのに、どんどんとその姿が形になっていっている。
「母の手習いで始めたのですが、すっかり趣味になってしまって」
言いながらも、淀みなく手を動かすフィン。
そう長い時間もかからぬうちに、それは完成した。
「これは、もしかして、私ですの?」
「はい、セレーネ様を模して、作ってみました」
特徴的な、牡丹色の髪に、ビーズでできた碧い瞳。
若草色のドレスは、まさに僕の姿そのものだ。
「すごい! そっくりですわ!!」
「もしよろしければ、差し上げます……」
少しだけ、遠慮がちにそう言ったフィン。
もちろん、僕は満面の笑みで、受け取った。
「ありがとう!!」
そう伝えると、なぜだか、フィンの顔は真っ赤に染まっていた。
「こ、こんなもので、そんなに喜んでいただけるなんて……」
「あら、こんなものなんてレベルじゃありませんわ。私、大切にしますわね」
実際、この年齢で、これだけの人形が作れるのだから、たいしたものだ。
どことなく、愛嬌のある見た目のこの人形を見ていると、なんだか自然と笑顔になってくる。
「ねぇ、フィン。他にやりたいことはありませんの?」
「いえ、久々に針ができただけで自分には十分で……」
「まだまだ、時間はあるのですから。遠慮せず、やりたいことをやるべきですわ。私、手伝えることがあれば、何でもしますから」
「な、何でも……ですか……?」
フィンが、ごくりと唾を飲み込んだ。
「あら、やはり何かやりたいことがあるんではなくて?」
「あ、いえ、その……」
「ほら! 遠慮せずに!! ほらほら!!」
可愛い弟の頼みなら、お姉ちゃんなんでも聞いちゃうよ。
「で、でしたら……」
フィンは、キョロキョロの私の部屋を見回すと、巨大なクローゼットを指差した。
「セ、セレーネ様の服が着てみたいです……」
「ええ、そんなことで良ければ、喜んで!! …………って、えっ?」
どうやら、僕の義弟は、少し変わった趣味の持ち主なのかもしれない。
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