12 輪廻転生
「う・・・うぅん・・・・・・んん・・・?」
眠っていた様だがどこか分からない。上半身を起こして周りを確認するものの自分の部屋でない事は確かだった。
「(なんかとてつも無く悪い夢を見た気がする・・・。なんだったんだかしら?)」
ーーガチャッ
部屋に入って来た人はギルベルトであった。そして悪い夢だと忘れていた事を思い出してしまい、ポロポロと涙がこぼれ落ち慌てて両手で顔を覆う。
「エミリヤっっ!!!」
泣き出したエミリヤにギルベルトが急いで駆け寄ると側に寄り添い背中を撫でる。
「も、申し訳ありませんっっ、急に泣いたりして・・・うぅっ」
「エミリヤ・・・。ーーーもしかしてなのだが・・・エミリヤは婚約者が私だと思っていたのだろうか・・・?」
顔を隠したまま咽び泣きながら頷く。ギルベルトは立ち上がりタオルを持ってくるとエミリヤに渡し横から優しく抱き締める。
「ーーそうであったのか・・・。思い違いをさせてしまったのだな・・・すまなかった」
「うぅ・・・、もう良いです・・・。ギルベルトさまがぁわるいわけじゃぁ・・・うぐっ・・・わたしがギルベルトさまの・・・つまになれる、と・・・ぜんぶわだじがわるいんでずぅぅぅっっっっっ!!うううぅ・・・」
「・・・君はそんなに私の事を想ってくれていたのか・・・それなのに私は・・・君に辛い思いをさせる選択をしてしまったのだな・・・」
「うぅぅぅ・・・げっこんできないならぁっっこれいじょうわだじに・・・やざじぐじないでぐだざいぃぃっっっっ!!!」
私の咽び泣く背中をギルベルトが優しく撫でてくれ段々落ち着いてくる。
「ーー君を傷付けてしまったが、エミリヤこれだけは今はっきりと伝えさせてくれ。
ーーー私は君の事が好きだ。一人の女性として愛している。君が誰を愛したとしても私が君を愛する事だけは許して欲しい。・・・私の生きる意味だけは奪わないで欲しいんだ」
「ギルベルト様以上に好きな人なんて現れるはずないじゃ無いですかぁ・・・うぅ・・・。」
「しかし、君と一緒に居られるならば息子を使ってでもと思ったのが余計であったな・・・。誰になんと言われても君を後妻として娶れば良かった・・・。すまない」
その言葉に顔を覆ったタオルをずらして目の下まで下げ、横から抱き締めているギルベルトの方へと顔を向けた。私の動きに気付いたギルベルトが私の顔を覗く。
「・・・何でそんなに、こんな小娘の事を想ってくれるんですか・・・?」
「君はこんな小娘なんかでは無いよ。純粋で優しく人を本気で愛する事が出来る私の愛するお姫様だ。君を想う理由か・・・。前世が関係あると言ったらどうする?」
「え!!じゃっじゃあ、私が暴漢に殺された時に駆けつけてくれたのって、やっぱりギルベルト様だったんですか!?」
「ん?暴漢?いや、私が君に出会った世界では君は隣国に嫁いで内乱によって背中を斬られ亡くなったと聞いた・・・。あの騎士が嘘を吐いた様子は無かったが・・・。」
「ーーもしかして私達何度か転生しているんでしょうか?舞踏会の日、あの部屋でギルベルト様に抱き締められた時初めて会った人なのにずっとこうしていたいって思ってしまって・・・私は惚れやすいのかな?って思っていたんです。でも、ずっと前から好きであったのなら理解できるなって」
「そうか・・・君も別の世界での記憶があるのか・・・。今度ゆっくり話を聞かせて欲しいのだが構わないだろうか?」
「それは勿論構いませんが・・・私がギルベルト様に会ったのは死ぬほんの少し前ですよ?」
「勿論それでも構わない。私の知らない君が存在する事が嫌でね。君の身も心も全てを知りたいんだ。」
私の瞼にギルベルトが口付けをした。恥ずかしくなって再び顔をタオルで覆い隠したが赤くなった耳は隠せていない。
「・・・あの・・・でも、私・・・ヴィルヘルム様?の婚約者なのですよね・・・。」
おずおずと再びタオルを下げてギルベルトを見る。
「そんな悲しそうな目をしないでくれ・・・。私の心を抉ってくれるな。その・・・ヴィルヘルムは誰とも婚姻を結ばない事と後継は養子を取れば良いと言っているから、婚姻の際はそれに関して私が誓約書を作ると言ってある。それと我が公爵家の使用人は私に忠義を尽くす者たちだ。私がエミリヤを愛している事は使用人全員知っている。それと、今回の表面的な婚約の事もな。」
今日はギルベルトに驚かされるばかりである。この部屋に通し紅茶などの用意をした執事も退室を命じられた時、ギルベルトが私に好意があると分かっていた上で2人きりにしたという事に気付き顔から火が出そうな程の羞恥心にかられた。
そんなエミリヤを知ってか知らでかギルベルトはそのまま話を続ける。
「因みに、ヴィルヘルムは私の想いも君の想いも全く知らない。まぁ・・・アイツは仕事以外で人間に関わりたく無い様だからこのまま知らなくても問題ないだろう。使用人達にもヴィルヘルムには伝えるなと言ってある。」
「そういうものなのですか?ギルベルト様が宜しければ私は構いませんが。んー・・・取り敢えずヴィルヘルム様とはギルベルト様の家族という関係性でのみ関われば宜しいのでしょうか?」
「あぁ。周囲に気付かれぬ最低限で構わぬよ。それから婚姻を結んだら本邸に移る前にこの屋敷に住んで貰うのだが、香水を調合している部屋がここにも欲しいなら予めどのくらいの大きさでどの部屋が良いか教えておいてくれ。細かい希望が無いなら君の今使っている香水の研究部屋と同じ作りで作らせよう」
「んー・・・欲しい香りが調合で出来ないって分かったしなー・・・本来の目的達成したし・・・。今の研究部屋はもう大きすぎるんで私の部屋くらいでなら欲しいかなー・・・うーん・・・。」
香水の事を考えついつい前世の口調が入るが、それをギルベルトは幸せそうな笑みを浮かべ聞いている。
「君の部屋位だな分かった。そろそろ帰宅する準備をした方がいいな・・・。」
私が気絶していた事もあり少し日が傾き始めていた。ギルベルトがベルを鳴らすと以前会った侍従が部屋に入って来る。
「スチュアート、エミリヤを送る馬車の手配を」
「ーー承知致しました」
「エミリヤ嬢、私の前でも主の名前呼んでも構いませんよ?是非呼んで差しあげてくださいね?」
侍従のスチュアートは明らかに口元が笑っている。そういえば先程この家の使用人達は公爵の想いを知っているとギルベルトが言っていたことを思い返す。
「スチュアート・・・貴様は・・・」
「ギルベルト様?」
「なんだいエミリヤ?」
スチュアートに笑われている事に不機嫌さを露わにしていたギルベルトだったが、私が名前を呼ぶと優しい顔に変わる。
その豹変ぶりにスチュアートが耐えきれず笑い出し、そんなスチュアートに再び不機嫌になるギルベルトとそれを諌めつつ私も笑ってしまう。ギルベルトがイグリール公爵となり与えられた今いる屋敷に来て初めて笑い声が屋敷で響いた。
それから家に帰ってから私は以前父親の説明を愛しい公爵様と婚約出来ると勘違いして、舞い上がって聞いていなかった婚約の詳細を父親に聞いた。婚約期間は半年と短く、私も早くギルベルトと一緒に暮らしたいのでそこは問題ない。婚約後は公爵夫人がいない為屋敷の管理について公爵が直接指導するとの事で、すぐに王都の公爵邸へ移って貰うという話だ。
「(嬉しいっっっっ!!!ギルベルト様に直接指導して貰えるなら頑張れるっ!!)」
私も現金なものでギルベルトから指導をして貰えると知り再び元気を取り戻したのだった。




