28話 『聖鎧の勇者』モザの過去
『聖鎧の勇者』モザは元冒険者だ。
人種は他種に比べて、能力に劣っている。
モザはそんな人種の中でも体格が小さいため、魔力は当然として、見た目通り腕力も体力等も低かった。
かといって彼自身、何か他者に勝る特技がある訳でもない。
結果、他種冒険者からだけではなく、人種冒険者達からも見下されてきた。
人種は他種から見下される存在だ。
モザはそんな人種の冒険者からも見下され、食い物にされ続けてきた。
「モザは力がないせいでまともに荷物も運べないんだから、正規金額を払う必要なんてないだろう」
「だな、せいぜい半分程度でいいだろう」
「むしろ、半分も払ってやるなんて俺達はなんて良い奴らなんだろうな。まぁ人種冒険者同士、助け合っていこうじゃないか、モザくん~」
「あははは……はい、それでいいです。自分は問題ありません。自分と仲良くしてくださってありがとうございます」
実際、モザは体格が小さいため、他者より少ない荷物しか持てなかった。
そのせいで正規料金以下の報酬を渡されるのが常だった。
冒険者ギルドに訴えるなり、反抗すればよいのだが……。
モザ自身に逆らう力はなく、ギルドに訴えても一時的に問題は解決するが、次に仕事が回ってくることも無くなる。
実際、荷物を一般冒険者と比べて持てないのは事実なのだから。
結果、モザは処世術――いや、生存技術としてへらへら笑って、おべっかをつかって、素直に引き下がるしかなかった。
(もちろん自分自身、これでいいとは思っていないが……。こんな厳しい世界で、なんの力もないのにどうすることもできないじゃないか……)
モザは元貧農の出だ。
実家が貧しすぎて口減らしとして、家を追い出されたため、街で糊口を凌ぐため冒険者をしている。
人種の村はほぼ全てが貧しい。それは極々ありふれた人種の生き方ともいえた。
モザは元農民だけあり、家畜内部にも順列があることを知っていた。
順列が上の家畜が、下をイジメることはよくある。
家畜内部でも順列があるように、他種から見下される人種にも覆せない順列があるのは当然の話だ。
(自分は一生、家畜の中でもイジメを受け、見下されて生きていくのか……)
モザは自分の将来、未来、人生に絶望しか感じなかった。
人種は差別されているのにさらにその中でも差別され、さらには現状を打破するための知恵も、力も、技術もない。
助けてくれる誰かもいないのだ。
むしろ無理をして抗っても、死ぬタイムリミットが近付くだけ。
現状を打破する手がない以上、無理に抗わず、絶望を受け入れ、そのうちくる死まで澱んだ人生を生きる方がまだ賢いとモザは考えていた。
『これが自分の人生だ』と。
――転機が訪れたのは、突然だった。
「め、女神様、勇者、『巨塔の魔女』を殺せ……ッ!?」
モザはいつも寝ている馬小屋で飛び起きる。
夢を視た。
夢で女神様の声が聞こえて、自分が勇者となって魔王である『巨塔の魔女』を討てとお告げを受けたのだ。
そのお告げが夢ではないことが、彼の側に鎮座している。
ボロボロの馬小屋には似つかわしくない立派な金属鎧。
この鎧こそ、彼も幼い頃、聞いた勇者物語に出てくる『風鎧』だと理解し、自身のステータスを確認するとレベル7000になっていた。
「じ、自分が本当に女神様に選ばれた勇者になるなんて……」
喜びで全身が震える。
目の前にある『風鎧』に触れると、鎧の知識なんて一切ないのに着ることが出来た。
まるで最初から自分のために作られたようにしっくりと纏うことが出来る。
もちろん魔術が組み込まれて、使用者の体格に合わせて伸縮する機能がついているのだが……。
今のモザにはそんなことはどうでもいい話だ。
自分は女神様によって救われ、偉大な勇者になったのだと『風鎧』を身に付けることでようやく実感し、歓喜が胸の、魂の底から湧き出てくる。
「女神様……ありがとうございます! 女神様! 女神様のため、勇者として必ずや魔王『巨塔の魔女』を討ってみせます!」
一通り喜びに打ち震え終える。
いつまでも馬小屋に篭もってはいられない。
まずは実際に能力を試すため、早速、街を出るため外へ向かう。
レベルのお陰か、鎧の効果か分からないが、徒歩で移動しても鎧を重いと感じることはなく、移動も非常にスムーズだった。
街に出て、草原へ移動すると、声をかけられる。
「モザじゃないか、なんだその立派な鎧は?」
「おいおいおい、そんな立派な鎧、どこから盗んできたんだよ!?」
「俺達はついているぜ。なぁモザ、俺達にその鎧を寄こせよ。もちろん、売り払った金額のいくらかはお情けで渡してやるからな」
いつもモザを食い物にする人種冒険者達と、運が良いのか悪いのか遭遇してしまったのだ。
彼らはモザが身に付けている『風鎧』を前に、目の色を変える。
『これだけ立派な鎧なら売ればどれだけの金額になるか』
彼らの頭の中は、鎧を売り払い得られるだろう金貨の額で一杯になる。
いつものモザなら生存戦略のためヘラヘラ笑って、媚びを売って『風鎧』を大人しく譲っていただろう。
しかし現在のモザはレベル7000で、伝説の勇者武具『風鎧』を身に纏っているのだ。
目の前の十把一絡げの人種冒険者の言葉に従う理由などはない。
「悪いけど、お断りしま――断る。長年のよしみで今回だけは見逃してあげるから、さっさと消えろ」
「……おい、モザ、誰に口を利いているのか分かっているのか?」
「このチビスケ、もしかして立派な鎧を身につけた程度で調子に乗っちゃってるんじゃないか?」
「ぶふははははは! だったら、とんだマヌケだぜ! ちょっと立派な鎧を盗んで身に付けたからって、自分が強くなったと勘違いするなんてよ! ……舐めやがって。このチビに教育してやろうぜ!」
当然、モザをいつも搾取していた冒険者達は、大人しく引き下がるはずもなく『自分達よりも弱者』と侮っている彼を嬲るため暴力をちらつかせる。
モザの変化した雰囲気、どうやって手に入れたか分からない立派な鎧――それらの変化に気付くほど彼らに知恵も経験もないのだ。
彼らにとってはあくまでいつも通りの家畜同士の軽いいざこざでしかない。
人種冒険者は拳を握りしめ、物理的にモザを見下ろしながら、ニタニタ笑いながら指の骨を鳴らす。
これから始まるのは弱者に対する暴力――イジメだ。
モザはあまりにも想像通りの展開に嗤ってしまう。
彼は『風鎧』の力を使いふわりと物理的に浮かび上がる。
『!?』
人種冒険者達の足が止まる。
今度はモザが『風鎧』の力で浮き上がったせいで、物理的に彼らを見下ろすことになった。
「ちょうどいい、オマエ達を使って自分――俺の実力、『風鎧』の力を試させてもらおうか」
いままでやられてきた暴力を、今度はモザが一方的に人種冒険者へとおこなう。
――当然、戦闘は一方的だった。
むしろただの虐殺である。
「た、助けてくれ! もう二度と関わらないし、このことは誰にも言わないか――」
最後の人種冒険者が命乞いするが、途中で台詞が途切れてしまう。
彼の首がモザの腕にあわせて飛び、地面へと落ちる。
残された胴体の首から勢いよく血が噴き出し、そのまま地面へと倒れた。
血はまだ動いていた心臓に合わせて噴き出していたが、すぐにその勢いは落ち着き緩慢になる。
草原には元人種冒険者だった者達のバラバラ死体が散らばっていた。
そんな狂気的場に居ながらも、モザは恐怖心を抱くどころか強い満足感、快楽、歓喜に打ち震える。
「あはははははは! なるほどイジメっていうのはこんなに楽しいものなのか! そりゃ家畜同士内部でもイジメがなくならないわけだ! こんな楽しくて、気持ちが良い遊び、やめられるわけないよッ!」
モザは涎を垂らさんばかりに興奮した笑い声をあげた。
今までずっとイジメられる側だった彼が初めて、『イジメ側』に回った瞬間だ。
「女神様の使命通り、魔王『巨塔の魔女』を討った後は、この力を使って今度は俺が、『聖鎧の勇者』として弱者をイジメようじゃないか! うん! そうしよう! 弱い者はイジメられるために存在する! それは今までの僕が証明しているッ! 弱者をイジメてその存在を消せば世界は綺麗になり少しはマシになるし、俺も気分が良くなる。まさに一石二鳥だな!」
彼は血生臭い平原で、狂ったように笑う。
「俺はもう二度とイジメられる最下層には落ちない――いや、もう二度と下層に落ちることはない。なぜなら俺は女神様に選ばれた勇者、人種より、全種より位の高い超人種なんだから! 俺は他種をイジメても許される存在なのだ! あはははははははははははははははははははは!」
こうして『聖鎧の勇者』モザが誕生したのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
4月に入ったばかりだからまだまだ寒いですね。
そして、近所の桜が咲いたと思ったら、もう殆ど散ってしまいました。
今年はなんとなく散るのが早いような気が……。
またこれからも頑張って書いていきますので、引き続き応援よろしくお願い致します!
次回アップは4月10日になります。
また最後に――【明鏡からのお願い】
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