番外編 ナズナの1日 後編
今日は『番外編 ナズナの1日 後編』を昼12時、『番外編 メイド達の主張』を17時にアップする予定です(本話は『番外編 ナズナの1日 後編』)。
メイからお駄賃をもらったナズナは、早速売店に寄るとお菓子を購入する。
売店にはライトの恩恵『無限ガチャ』から出たNカード食品などが並んでいる。レアリティの低いNカード食品などを売店に並べ、皆が購入できる仕組みを作っているのだ。
そうでもしないとNカードが溜まる一方という理由もある。
通貨は『奈落』地下独自のモノで、偽金作りをしていた者達が作りすぎたせいで現在暇になったため、新しく与えた仕事の一つだ。
購入したお菓子は彼女が好きなどら焼き。
チョコやクッキー、甘じょっぱいお菓子などを色々食べたが、ナズナ的にはどら焼きが一番好みだった。
彼女は食堂へ移動し、一緒に購入した紙パック牛乳と一緒に食べる。
美味しく食べ終えると、次の見回り先の訓練場へと向かうが――。
「アオユキじゃん、こんな所で何をしているんだ?」
「……にゃー」
廊下を移動中、同僚の1人である『SUR、天才モンスターテイマーアオユキ レベル9999』を見かける。
ナズナは友好的な態度で声をかけるが、アオユキは『面倒臭い奴に会っちゃったな……』
と言いたげな表情、声音をしていた。
だがそんな細かいことにナズナが気付く筈もなく、遠慮なく声をかける。
「ご主人様から『奈落』地上周辺の森林調査を頼まれていたんじゃないのか? あっ、もしかしてもう終わったのかよ!? アオユキ、仕事が早すぎるだろ!」
「にゃ~」
「……『にゃ~』って言われてもあたいはご主人様じゃないから、何を言っているか分からないぞ」
別にライトもアオユキの猫語を理解している訳ではない。
なんとなく声音や口調、雰囲気で察しているだけだ。
だがそんな細かい気遣いをナズナに求めるだけ無駄である。
ナズナは頭を捻り、森林調査をしている筈のアオユキが『奈落』地下の廊下を歩いている理由を捻り出す。
「うーん、あっ! もしかして地上の森でアオユキでも勝てないモンスターが出て、救援を求めに来たのか? ならあたいに任せろ!」
ナズナは笑顔で断言する。
「アオユキはあたいより先に召喚されたけど、強さも見た目もあたいの方が年上っぽいからな。遠慮せずドンドン頼っていいんだぞ!」
「…………」
アオユキが『無限ガチャ』から排出されたのは、メイに続いて2番目だ。
しかしナズナの指摘通り、2人が並び『どちらが年下か』と問われたら身長、胸囲差などを含めて、アオユキの方が年下と判断を下されるのも事実である。
内面を含めた場合は……言わずもがなだが。
アオユキはナズナの勘違い発言に疲労感を覚えつつ、手にある地図を掲げる。
「――否。敵など居ない。地図が一部完成したからメイに届ける最中」
「なんだそうだったのか。最初からそう言えばいいのに、アオユキは変わってるよな!」
バンバンと背中を叩きながら、ナズナが楽しげに笑う。
アオユキ的には背中が痛いし、何が面白いのかも分からない。
別にアオユキはナズナを嫌っている訳ではない。
馬鹿過ぎて『主の手足となるLV9999がこれでいいのか?』とも疑問を抱いたが、この明るさは天性のモノだ。
ムードメーカーとして一定の評価はしている。
しかしナズナは犬属性で、アオユキは猫属性のため根本的にソリが合わないだけだ。
アオユキはそれを自覚し、そしてもちろんナズナは未だに気付いていない。
「にゃ」
用件は済んだと言いたげにアオユキはするりとナズナの範囲から逃れる。
まさに猫の所作だ。
ナズナはその背に向かって『頑張れよ』と前向きな言葉をかける。
彼女はアオユキとソリが合っていないことにまったく気付いていない。むしろ『見た目が年下で、あたいより弱いから護ってやらないとな』とさえ考えていた。
真っ直ぐな善意がナズナの美点ではあるが、アオユキと根本的にソリが合わない原因でもあった。
ナズナはアオユキとの会話を終えると、予定通り訓練場へと見回りに向かう。
綺麗に整えられており高級そうな調度品も置かれた廊下が途切れ、元のダンジョンらしいゴツゴツとした場所に出る。
開発ミスで残っている訳ではない。
訓練場としてあえて手を入れず残した場所である。
ちょうど空間が歪み魔女帽子が姿を現す。
途端にナズナには珍しく顔をしかめた。
訓練場は他の部屋より圧倒的に広いためスペースに余裕がある。そのため外から『奈落』地下に移動する際は、転移場所として利用されることが多いのだ。
だからナズナも散歩――見回りポイントとして注意している。
「げェ、エリー。視察だか、工事だかで外に出ていったんじゃなかったのかよ」
「ナズナのオチビじゃありませんの。その仕事が一旦区切りがついたので、戻って来たに決まっているじゃないですか。本当にナズナはお馬鹿ですわね」
「あたいは馬鹿じゃねぇ!」
ナズナとエリーは、排出されたカード時期が最も近い。
それ故か顔を合わせるとよくこうしてじゃれ合う。アオユキとは違って『喧嘩するほど仲が良い』という関係である。
ある意味、『奈落』地下の名物と言えるだろう。
エリーはさらにナズナをからかうため、取っておきの話を聞かせる。
「お馬鹿なナズナと違って、わたくしだから任された『サーシャ復讐計画』の準備も順調で、つい先日なんてライト神様に進捗をお伝えするため2人っきりでお茶をご一緒したんですのよ! どうです羨ましいでしょ?」
「おおぉッ! マジか、羨ましい! あたいも機会があればご主人様と一緒にお茶したいぜ!」
「……それだけですの?」
「? それ以外何があるっていうんだ?」
エリー的にはナズナがもっと悔しがり、その姿をからかう予定だったが、素直に羨ましがられ肩透かしを喰らう。
たまに彼女の純粋さにしっぺ返しをくらい、逆にやりこめられてしまうが、やっているナズナ本人はその事実にまったく気付いていない。
今回も逆にやりこめられ、エリーが黙ってしまう。
ナズナは彼女の心情など理解できるはずもなく、勝手に話題を進める。
「早く『サーシャ復讐計画』の実行を頼むぜ! エリーは魔術は得意だけど、近接戦闘が貧弱だからな。何か困ったことがあったら何でも言え、力になるからさ!」
「貴方というひとは……」
「?」
ナズナの真っ直ぐな気遣い発言に完全KOされ、エリーはそれ以上何も言えず黙り込む。ナズナは首を傾げるが、エリーは面倒臭そうに手を振り自身の作業をするため訓練場を後にする。
ナズナはそんな彼女の背中を眺め首を傾げるが、答えは分からずただ首を捻り続けた。
結局、答えが分からなかったが、見回りを続けているとすぐに忘れてしまう。
これがナズナクオリティーだ。
☆ ☆ ☆
1日の仕事、見回りを終える。
食事を摂り、お風呂に入って、自室へと戻りベッドに潜り込む。
「今日も1日、ご主人様の命令通り皆と『奈落』を護れてよかったぜ!」
唯一、問題があるとするなら……。
「今日もご主人様に会えないのは寂しいな……。はぁ、早くちょー大好きなご主人様に会いたいな。ご許可さえもらえれば地上の奴らなんてあたいが全部ぶっとばすのに」
ライト本人や周囲からも止められているため我慢している。
しかしご主人様を悩ませる存在など、いつでも自分がぶっ飛ばしてやると心に決めているのだ。
「明日はご主人様に会えるといいな……」
そんな希望を抱きつつ、うとうととナズナが睡魔に負け始める。
「ごしゅじんさま……おやすみなさい……」
1日の締めくくりの言葉をむにゃむにゃと漏らし、ナズナは眠りへと落ちるのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
今日は『番外編 ナズナの1日 後編』を12時に、『番外編 メイド達の主張』を17時にアップする予定です!(本話は『番外編 ナズナの1日 後編』です)
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