番外編 ナズナの1日 前編
今日は29話を昼12時、番外編 ナズナの1日 前編を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は番外編 ナズナの1日 前編)。
『奈落』地下。
『SUR、真祖ヴァンパイア騎士ナズナ レベル9999』は、1人甲冑姿で大股で歩いていた。
赤い瞳に、長く伸ばした銀髪がその度に揺れる。
背が低いのに胸はとても大きく、一見すると深窓の令嬢のようだが、見た目とは反対に言動や行動は元気に溢れている少女だ。
「ご主人様の命令通り、ご主人様の居ない間、あたいが『奈落』をしっかり護ってやらないとな!」
正確には――戦闘能力だけなら『奈落』最強だが、いかんせんお馬鹿のため、地上に連れて行くにはいざという時の対応力が無く、内政仕事を任せるのも難しい。
決して彼女を貶めている訳ではない。
ナズナの明るさは『奈落』地下に住む皆が認めて、ムードメーカーとしては非常に買っている。
ただ人には向き不向きがあるだけだ。
結果、『ナズナには僕がいない間のダンジョンを護って欲しい。『奈落』最深部まで到達する者達は居ないと思うけど、念のため用心しておくに越したことはないからね』と頼まれたのである。
彼女は今日も『ちょー大好きなご主人様』のため、日課の『奈落地下見回り』と言う名の散歩をおこなう。
そんな彼女に掃除中の妖精メイドが声をかけてくる。
「ナズナ様、こんにちはー」
「ナズナさまはお散歩――いえ、見回り中ですかぁ?」
「おう、そうだぞ! 『奈落』地下の見回り中、ご主人様から申しつけられた大事な仕事中だぞ!」
偉いだろうと言いたげに、背丈のわりに大きな胸を張る。
主であるライトの意図を的確に読む妖精メイド達は、口々にもて囃す。
「流石ナズナ様です!」
「ナズナさまが見まわってくださるなら、あたし達も安心してお掃除ができますねぇ」
「さすナズ!」
「えへへ、そう褒めるなよ。あたいはご主人様に命令された仕事をしっかりこなしているだけだぞ~」
謙遜するが、褒められて口元がニヤニヤと緩む。
褒められて自身がライト、『奈落』地下に貢献できていると実感できて嬉しいようだ。
レベル500の妖精メイド達が、レベル9999のナズナを操作する。
「次はどこを見て回るとか決めているんですか?」
「いいや、決めてないけどなんでだ?」
「実は是非ナズナ様に見回って欲しい場所があるんですよぉ」
「とても重要な機密性の高い場所なので妖精メイド達では近付くことも許されなくて~」
「そんな場所、『奈落』にあったっけ? まぁいいや。んで、そこはどんな場所なんだ?」
妖精メイド達がニヤリと笑う。
「その場所は――」
ナズナは次の行く先を決められると、意気揚々と鼻歌交じりで向かう。
彼女が向かった場所とは……。
☆ ☆ ☆
妖精メイド達に教えられ次に向かった場所――部屋の扉をノックする。
暫くすると、扉が開き黒く長い髪を尻尾のように揺らす『SUR、探求者メイドのメイ レベル9999』が顔を出す。
「? ナズナですか。どうしたのですか、ご主人様の私室に来るなんて」
「見回りに来たんだぜ!」
メイの問いかけに明るい笑顔でナズナが答える。
直球ストレートな返答に、メイ自身、すぐに反応し切れず反射的に頭痛からこめかみを押さえそうになった。
反対にナズナは純粋な瞳で彼女に問う。
「メイこそご主人様の部屋で何をしてんだ? 今、ご主人様って地上で冒険者をやっているから居ないんだろ?」
「……主君が使用していないからと言って、掃除ひとつもせぬのは我がメイド道に反します。なのでお部屋の掃除や片づけなどをしていたのですよ。なのでナズナが中に入る必要はありませんよ」
「おおぉ、なるほどな、さすがメイだな!」
彼女の返答に満足そうに頷くが、すぐに新たな疑問を抱く。
「でも、気配的にご主人様のベッドでゴロゴロして、枕の匂いを嗅いでいたようだけど、そんなことしたら逆にシーツとかが皺にならないか?」
「…………」
今度こそ、メイはこめかみを押さえる。
彼女自身、レベル9999で最高戦力の一角だが、相手は同格で、『奈落』最強のナズナだ。
いくらメイが気配を消す努力をしても、彼女には通じない。
だがすぐにメイは気持ちを立て直し、普段通りの表情で断言する。
「ご心配なく、私が独自に開発したベッドメイキング方法ですので。秘技の類なので詳しくは教えられませんが」
「つまり家事専用の必殺技か! さすがご主人様に最初に召喚されたメイだな。家事にまで必殺技があるなんて!」
ナズナは彼女の返答を頭から信じ込み、感心したように何度も頷く。
メイはメイで再び頭が痛そうにこめかみを押さえた。
「? どうしたメイ、頭が痛いのか?」
「いえ、大丈夫です。ですがもう少し頭を使って欲しいと言いますか、落ち着いて考えることを覚えて欲しいと言いますか……」
「よく分からないが頭が痛いなら休めよ。あとご主人様の部屋を見回って欲しいと言ってきた妖精メイド達から伝言を預かってきたぞ」
「……ほう、伝言ですか」
メイはすっと目を細める。
ナズナは気付かず伝言を口にした。
「えーっと、『ご主人様の部屋掃除独占反対』、『我々にもご主人様の部屋掃除をする権利を』、『メイド長の掃除独占改善に清き1票を』、『爆発してどうぞ』『爆発爆破爆発』だって。最初のは働き過ぎはよくないって意味だろうけど、後半の『爆発云々』の意味は分かんないんだよなー。爆発系攻撃魔術を浴びて耐性を付けろってことか?」
「……これはメイド長を務める私と妖精メイド達との問題ですので、ナズナは気にする必要はありませんよ。なので訴えてきた妖精メイドの名前を教えてください。こちらで対処するので」
「分かったぜ! えっと――」
ナズナは律儀にライトの私室に嗾けた妖精メイド達の名前を告げる。
一通り聞き終えたメイは、アイテムボックスからお駄賃を取り出す。
「ご協力ありがとうございます。これは少ないですが、伝言のお礼です。見回りの休憩中にお菓子でも買って食べてください(意訳、もう聞きたいことは聞けたから、この場から立ち去れ)」
「ありがとうメイ! メイは良い奴だな! もし何か困ったことがあったり、あたいの力が必要な時は言ってくれよな。力になるから!」
ナズナは意訳に気付かず、素直に駄賃を受け取るとライトの私室を後にした。
彼女の背中が見えなくなると、残されたメイは早速、妖精メイド達と『お話し合い』をするため移動を開始したのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
今日は29話を12時に、番外編 ナズナの1日 前編を17時にアップしております!(本話は番外編 ナズナの1日 前編です)
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