1話 魔人国マスター
「アアアッ、どうやらヨォ。竜人のマスター共がエルフ女王国近くにある『巨塔』とかいう国だか、集落にちょっかいを出しているらしいィ。あの無能共が言うには、『C』がその『巨塔』に居るのかもしれねとナァ」
大陸中で最も北にある国――魔人国。
その魔人国のとある場所、一室に見た目人種の者達が集まり、話をしていた。
最初に口を開いた彼らのリーダー格であるドレッドヘアーの引き締まった男が、ソファーにどかりと座り、無駄に足と腕を広げてふんぞり返りながら告げる。
彼の言葉に、左目の下にハートマークが描かれた少女が、金色の長い髪をアップに纏めて背もたれのないソファーに座り、足を組む。
彼女は肩ヒモの一部がずり落ちるのも気にせず、自身の爪をヤスリで磨きながら興味なさそうに相づちを打つ。
「ふーん、そうなんだ。あの頭の沸いたおめでたい奴らのことだから。どうせ、徒労に終わったんでしょうけど。ミキィ、あいつらのああいう無駄な頑張りを良しとする文化、きらぁーい。『C』様を殺すなんて、絶対に出来ないのにぃ。どうせなら、楽しく生きることを考えた方が建設的だと思うんだけどなぁ~」
『ふっ』と自身の爪先に息を飛ばし、爪の具合を彼女は熱心に確かめ始める。
まだ形に納得いっていないのか、再びヤスリをかけ始めた。
もう1人の男は椅子に座らず、仁王立ちで腰から下げている双剣を苛立しげに『カチカチ』抜き差ししている。
背丈は170cm前後。
鋭い瞳も威圧感があるが、なにより顔に大きく十字に斬られた刀傷が額から顎先まで走っていた。
そのせいで畏怖、威圧感が増している。
「ゴウ。話はそれで終わりか、なら己はレベル上げに行かせてもらうぞ」
「話はまだ終わっちゃいねヨォ。ダイゴ、少しは落ち着いて話を聞ケ。ここからが本題なんだからナァ」
ゴウと呼ばれたドレッドヘアのリーダー格の男は、ソファー背もたれから身を起こし楽しげに話をする。
「あの無能共が獣人連合を唆し、『巨塔』の奴等にぶつけたらしいが……戦場に立った獣人種が全滅したらしい」
「全滅? 三割程度の獣人種なんぞ己どころか、そこの悪趣味ビッチでも余裕だろ。話に上げるほどではないだろう」
「あぁ~酷い。ミキィのことビッチだなんてぇ。ミキィはただ可愛い女の子や男の子が大好きなだけなのにぃ」
ダイゴがミキの台詞に、心底気持ち悪そうに表情を歪めた。
「同性は趣味が合えば誰でも。男性は可愛らしい少年のみ。ただ体を重ねるだけならまだ理解できるが……好んだ相手を壊すのが趣味など、己は理解できん。悪趣味ビッチで十分だ」
「えぇ~どうして分からないのぉ? 可愛い女の子や男の子が苦しんだり、悲しんだり、青ざめたり、怯えたりする姿が可愛いのにぃ。最初は目一杯溶けるように甘やかして、ミキィ以外の存在を忘れさせて、最後に裏切ってあげると本当に可愛い絶望顔をするんだよぉ。本当に可愛くてその表情を見るたびにミキィのお腹、きゅんきゅんしちゃうんだぁ。あっ、でも他にも可愛くする方法はそれだけじゃなくて、最初から手足を拘束して身動きを取れなくした後、少しずつお腹を切り開いていくと可愛く命乞いするんだぁ。その命乞いする姿がもう可愛くて可愛くて! 人種って意外と死なないから、魔人国から貰った可愛い子のお腹を切った後、その中をくちゅくちゅ弄ってあげるとより可愛らしい表情と声で鳴いてくれて――」
「もういい! 貴様の趣味を聞いていると耳が腐る!」
ダイゴは大声をあげてミキの台詞を遮る。
彼は心底不快そうに彼女を見下す。
その視線にミキは可愛らしく片頬を膨らませ反論した。
「ぶぅー、ダイゴちゃん、ひどーい。そんな風に女の子に冷たいとモテないぞ。第一、ミキィの趣味が悪かったら、ダイゴちゃんだって趣味が悪いとミキィ思うなぁ。だってダイゴちゃんってレベルを上げるためなら女子供関係なく殺すじゃない。たまにミキィ好みの子まで殺すから、本当に最悪なんですけどぉ」
「貴様のような変態サディストに捕まるより、さっぱり死んだ方がマシだろ。それにレベルアップは全てに勝る」
ダイゴはミキから指摘を受けるも、ばっさりと斬って捨てた。
1人取り残されたゴウが、割って入る。
「……話を続けるゾォ? ダイゴは勘違いしているようだが、全滅判定という意味の『全滅』じゃなイ。戦場に立った獣人種、約2000匹が文字通り全員殺されたんだヨォ」
「2000を完全に抹殺? 己も場所を選び、時間をかければその程度の人数抹殺できるが……運良く生き残り、逃げ延びるモノも出る可能性がある。なのに、文字通り全滅とは……どれだけの戦力を出したんだ?」
「それが不明らしイ。どうやら、『巨塔』側がなんかのマジックアイテム……最低でも幻想級レベルのマジックアイテムを使い捨てて獣人種を囲い込みぶち殺したらしイィ」
「うわーやばーん。ミキィ、怖い」
ミキは両手を顔近くに寄せて棒台詞で怖がる。
態度はアレだが、外見は非常に可愛らしいため、一般的な男性が目にしたら保護欲を誘われるほど魅力的だった。
顔に十字の傷のあるダイゴは心底気色悪いモノを前にしたように舌打ちし、ゴウは気にせず話を続けた。
「竜人側マスター達は、その結果を鑑みて『巨塔』に『C』が存在、関わっている可能性が高いと踏むだろうナァ。実際、獣人種を相手に最低でも幻想級レベルのマジックアイテムを使い捨ててでも鏖殺するなんて馬鹿なマネ、『C』ぐらいしか出来ないだろうからナァ。まぁハズレの可能性がかなり高いが一応俺様達も念のため確認しておくべきだと考える訳ダァ。で、どちらが行ク?」
「……ゴウ自身が行く選択肢は無いのか?」
「アアァッ、どうして俺様がそんな面倒なマネをしなくちゃならないんダァ?」
「その台詞そっくり返すぞ。己はレベルアップで忙しいんだ。第一、それならなぜギラとドクがいない! アイツらに行かせればいいじゃないか!」
ダイゴが大声でこの場に居ない魔人国側マスター2人の名前をあげる。
ドレッドヘアーのゴウが溜息を漏らし指摘した。
「シリアルキラー、切り裂き魔のギラが調査の役に立つと本当に思うのカァ? ドクは何を言っても『人種の未来のためぇぇぇぇ』と叫び、今日も元気に人種を使って人体実験中だ。調査どころか、部屋から出てくる訳がないだろう」
「ぐぬッ……」
ゴウの指摘にダイゴが返答に窮して黙り込む。
ギラとドクは彼らといえど扱い辛い相手らしい。
ゴウがさらに畳みかける。
「第一ダイゴォ、最近、高レベルモンスターなんてダンジョンにもいないから四苦八苦しているんだロォ。どうせ暇なら『巨塔』調査ぐらいしろヨォ」
「断る!」
ダイゴが考えるまでもなく即断。
ドレッドヘアーのゴウが舌打ちして、ミキへと視線を向けた。
「ミキはどうダァ?」
「えぇ~、ミキィ、能力的に出来なくもないし、『C』様にミキィの理想のハーレムや理想の相手を作ってもらうお願いもしたいけど、無駄足になるって分かっている調査とか、めんどくさーい」
ミキが顔をしかめて拒否する。
この返答は予想通りだったゴウは、切り札を切った。
「……これはあくまで噂だが、『巨塔の魔女』はとんでもない美少女らしい。顔を見たことがある者は1人もいないが、雰囲気で分かるとか。あと『巨塔』の魔女に従うメイド達は全員がこの世の者とは思えないほど見目麗しいらしいゾォ」
「ミキィ、夢のため『C』様のため、仲間のために『巨塔』の調査がんばっちゃうぞ☆」
予想通りの返答に、ゴウは思わず微苦笑を漏らしてしまう。
能力的にこの中で最もミキが調査に適しているため、元々彼女に任せる予定だった。
とりあえず無事、彼女がやる気になってゴウは満足そうに頷く。
「ちょっと待て!」
しかし、部外者――その場に居て3人の強者の影に隠れるように黙って立っていた者。
ある意味一般人の男が、予想外にも反対の声をあげたのだ。
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