2話 竜人帝国で2
「獣人種を『巨塔』にぶつけましょう」
見た目王子様風のヒロがさらりと提案する。
ヒソミは細目を見開き驚き、カイザーは大胆な提案に感心したような声音を漏らす。
唯一、黒は表情を変えず、カイザーの影として控え続ける。
ヒロは一度、軽く咳払いしてから、
「なぜその作戦を思い付いたのか、分かり易く順を追って説明しますね」
彼の言葉に皆が無言で同意する。
ヒロはワンテンポ置いてから話を始めた。
「エルフ女王国近郊に『巨塔』という建物が出現し、『白の騎士団』が乗り込み全滅。その後、『巨塔の魔女』と名乗る少女が城に乗り込みエルフ女王に『人種絶対独立主義』を認めさせた。これほどの怪しい存在が現れたため、ボクたちは彼女らが『Cの隷下』等ではないかと疑い調査を開始した訳です」
世界に散らばったヒソミが作り出した『傀儡人形』たちによって情報を収集すると……気になる情報を発見する。
『白の騎士団』団員ではないにもかかわらず、一緒に『巨塔』に乗り込んだエルフ女性が居た。
名前はサーシャ。
彼女は『偽ますたー』を『奈落』で殺害した功績によって、伯爵家養女となり、副団長ミカエルとの婚約が決定していた。
さらにサーシャと同じく『偽ますたー』を殺害した功績で『獣人ウルフ種の次期トップ候補』となったガルーが『奈落』探索中に行方不明、ほぼ死亡が確定していた。
『偽ますたー』を殺害した関係者が短期間で2人も死亡している。
『偶然』と考えるにはやや出来すぎている話だ。
故に彼らは『巨塔』と『偽ますたー』事件に『何かあるのでは?』と考えていた。
「『偽マスター』として殺害されたと報告されている『ライト』という少年が実は『C』隷属の者等で、『巨塔』を建築し『巨塔の魔女』として『偽マスター』事件に関わった者たちを殺している、復讐していると考えた訳です」
「――だが報告では『巨塔の魔女』は完全に女で、報告にあった『ライト』は少年。魔術やマジックアイテムを使用して幻影で誤魔化すには、性別が違う上に身長や口調、話し方――さらにはドラゴンを多数従え、高度な攻撃魔術すら使用しているという話から、本人説は否定されていた筈だろ」
カイザーがつまらなそうに指摘する。
ヒロが黙って頷き、続きを口にした。
「『ライト』本人とは考え辛いが、まったく関係ないとも断言できない。ボク達のうち誰かが『巨塔』に乗り込む案も考えられたけど……下手に手を出して、せっかくの手がかりが姿を消したり、もしくは魔人種側に付いている『マスター』たちの計略の線もあるから下手に手を出せなかった。だから、次に襲われる可能性が高いドワーフ種ナーノに狙いを定めて罠を張ったんですよね」
竜人種側には彼らが付いている。
魔人側にはカイザー曰く『頭のイカれた破滅主義者』、『現実が見えていない自殺志願者』と呼ぶマスターたちが付いていた。
『巨塔』側がどれだけこちら側の状況を把握しているかは分からなかったが、国の戦力的にもドワーフ種に手を出す可能性が一番高いと皆が同意し、網を張ったのだ。
ヒソミが恩恵、『眷属作製』で自身のレベルすら分け与えてレベル5000の分身体を作り出し。
その分身体ヒソミに『禁忌の剣製造本』を持たせて、ドワーフ種ナーノに接触。
「『人種絶対独立主義』を宣言した『巨塔』、『巨塔の魔女』なら何かしら動きがあると思っていたら……」
「結果は当たりで、転移での逃走、念話での連絡も出来ず小生が力を入れて作った『小生』が殺された可能性が高いんですよね」
ヒソミの愚痴に近い台詞に、ヒロが頷く。
「ドワーフ種ナーノが姿を消していたら、彼を餌に誘い出す手はもう使えない。けど、『巨塔』と『巨塔の魔女』に何かがある、『C』隷属の者等の可能性が高まっている。でも、ボクたちが動いて逆に罠にはまったら目も当てられない……。欠員が出てそれで『P・A』が続行不可能になったら意味がないですから。――だから、より情報を得るため死んでも惜しくない『獣人連合国』を焚き付けて、『巨塔』と『巨塔の魔女』へぶつけて様子を見ようと思うんですよ」
ヒロが一通り説明を終えると、カイザーがぽつりと告げる。
「……当たり前だが、大勢死ぬぞ?」
「情報を得るための必要経費かなって。それに――」
ヒロは笑顔で断言した。
「いつだって生け贄は『人』か、『獣』かじゃないですか」
カイザーは同意も、否定もせず黙って瞳を細める。
一方、ヒソミは酷い頭痛を患ったように右手人差し指でぐりぐりとこめかみを押す。
「小生たちが積み上げてきた獣人種情報網に大ダメージを受けますが、確かにここが使い所ですかね~。下手に温存して、使い所を見誤っても意味がないですし」
「ですよね。情報が出そろって、罠の可能性が無く、『C』の隷属者等だった場合、攻め滅ぼしておきたいですから」
「……その場合、黒を貸してやろう。こいつを投入すれば、問題なく滅ぼせるだろうからな。その時は余がケツを蹴り飛ばしてでも動かしてやる」
「…………」
カイザーの背後に控える黒が、『側を離れるのが不満だ』と口にはしないが雰囲気でアピールする。
ヒロが可笑しそうに笑いつつ返答した。
「あははは、黒さんが協力してくれるならありがたいです。まぁ最悪、ボクが突撃して滅ぼしますから」
ヒロの台詞に、黒はカイザーの傍を離れる必要がない可能性を示唆され不満そうな雰囲気を引っ込める。
その露骨な落差に、カイザー以外のヒロ、ヒソミが苦笑いを漏らす。一通り苦笑いを漏らすと、ヒロが話を纏める。
「では『巨塔』に獣人連合国をぶつけるということで。一応、他2人にも話を通しておきますね」
「爆弾小僧はともかく、鮫野郎は絶対に文句など言わぬだろう」
「だからって話を通さないのも違うじゃないですか。報告、連絡、相談は組織運営の基本ですしね」
カイザーの指摘にヒロは柔らかい笑みでさらりと反論した。彼は反論に鼻息ひとつしてそれ以上は何も言わず黙り込む。
こうして巨塔vs獣人連合国の戦争が、各国が知らない所で勝手に決められたのだった。
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