22話 世界からの希薄
「あの『蛇擬き』が僕達に気付かれず、先制攻撃をしかけてきた時からおかしいと思っていたんだよ」
レベル9999の鋭敏な感覚、さらにレベル7777のガンナーであるスズの気配察知を潜り抜けて、約150m前後まで接近したこと自体異常だ。
本来ありえない。
さらに綺麗に抉れたクレーターや、『奈落』でも防御力が高いナズナの手足を消失させたり、壁をすり抜けたりなど……色々ヒントを見せられたら予想も付くというものだ。
「あの人造神話級兵器の能力が、『世界からの希薄』なら、大凡の説明がつく。僕達があそこまで接近に気づけなかったのも、黒い長方形の壁をすり抜ける際も、自身の存在を『世界から希薄』にしたからで、その力を攻撃に転用することで地面を『世界から極限まで希薄化』、つまり『消し飛ばした』から、あれだけ綺麗にクレーターが出来たんだろうね」
タネが分かれば対処は容易い。
「『世界からの希薄』は強力な能力ではあるが、連続では使えない。だから黒い長方形の壁をすり抜けた直後、攻撃魔術を当てることが出来たんだ。もし永続的に『世界からの希薄』が可能なら常に姿を消して、攻撃し続ければいい訳だしね」
「な、なるほど……確かにそれなら筋が通るわい」
ダガン含むドワーフ種達が僕の考察に唸り声をあげて、議論すら始める。
ちなみに他に弱点をあげるなら、攻撃時は『世界からの希薄』は使えない点や、同格の武器、防具が相手の際は干渉して防ぐことが出来ないなどがある。
どれだけ強力な能力を持つ神話級でも無敵ではない。
ナズナが持つ大剣プロメテウスも強力な力を持っているが、いくつもの制約があり、万能ではない。それを理解する僕だからこそ気づけたという部分が大きかった。
神話級に触れた事がないダガン達ではまず気づけなかっただろう。
「さすがライト様、慧眼です」
「ケケケケ! ご主人さまの前では例え神話級でも、その能力を暴かれるというわけですね!」
「!」
『素晴ラシイデス、らいと様、トノ事デス』
ドワーフ種達が議論する横で、メイ達が賛辞を送る。
僕は彼女達の言葉に微苦笑を漏らす。
皆、気を抜いているがまだ戦いは終わっていないんだけど……。
とはいえタネが分かった手品に驚くことはもうない。
「爆豪火炎、解放」
『蛇擬き』がナズナの攻撃に耐えきれず、再び黒い長方形の壁を通り抜け逃げようとするが、直後再び僕が妨害をして足止めをする。
その隙を逃すナズナではない。
『摂理をねじ曲げて、最大限に重くなれ! プロメテウス!」
摂理に干渉し大剣が見た目以上の重さを得る。
何トン、何十トンまで膨れあがったかは分からないが、5人のナズナが強力な腕力で大剣を叩き込むのだ。
質量×速度の単純な攻撃だが、効果は絶大だ。
『ギャャァアァアァッッ!』
『蛇擬き』は断末魔の雄叫びをあげて、全身に大剣を浴びてバラバラに千切れ飛ぶ。
むしろ威力が強すぎて黒い粒が混じった灰色地面が耐えきれず、音を立てて陥没。埃と振動、衝撃音だけならまだしも、超高速で破片が飛び散る。
メラが咄嗟に音と衝撃などでその場に尻餅を突いて議論していたドワーフ種達を守るため両腕でガード。
メラの中で最も硬度が高いドラゴンの皮膚で防御するが、
「ケケケケケ! 破片が食い込んで地味に痛いんだけど……」
黒い粒が混じった灰色破片がドラゴンの鱗を突破。
いくつも食い込む。
僕達なら回避は余裕だが、並の冒険者ならこの破片だけで肉塊に変わり死亡していただろう。
(ナズナは確かに強いんだけど……手加減を知らないからなぁ……)
『白の騎士団』団長とナズナが戦った際も、エリーが作り出した『巨塔』内部で戦った。
結果は圧勝で、エリーの魔力で保護していなければ、『巨塔』は内側から爆砕し、団長ハーディーは情報を抜き取る前に死亡していただろう。
今回は何が起きるか分からないため最高戦力のナズナを連れてきていた。それ自体は正解だったが、贅沢が言えるならもう少し手加減を覚えてくれるとありがたい。
あともう一つ、ナズナには大きな欠点がある。
その欠点とは……。
舞い上がった煙から、ぴょんと1人に戻ったナズナが姿を現す。
大剣プロメテウスを片手に満面の笑顔で、子犬のように走り寄ってくる。
「ご主人様、勝ったよ! 褒めて、褒め――」
笑顔で走り寄ってくるナズナ目掛けて、僕は手にしている神葬グングニールを構えて全力で投擲!
僕の投擲姿にナズナの笑顔が硬直する。
その彼女の笑顔の脇を通り過ぎて――『ぐしゃり』とナズナが最初に切断した敵の左の蛇腕頭部を砕く。
『ギャァアアッアッァアァッッ!』
蛇腕頭部から最後の断末魔が響く。
『蛇擬き』の左の蛇腕頭部が切り離された後、溜めに溜めていた白色砲弾ごと砕いたが、神葬グングニールは傷一つなく自動的に僕の手に戻ってくる。
いくら封印を施していても伊達に創世級ではない。
これぐらいでは傷一つ付かないのは当然である。
どうやら『蛇擬き』はわざと腕を切られて、いざという時の奇襲用として死んだふりをしていたらしい。
本当にゴーレムのような兵器とは思えないほど抜け目がない。
(まったく……。ナズナは確かに強いけど、強すぎて油断し過ぎる所があるからなぁ……)
こればっかりはいくら口で説明しても理解するのは難しいだろう。
だからと言って、先程の攻撃を放置した場合、ナズナの上半身が消し飛んでいる可能性すらあった。
故に見逃すことができず、僕が手を出したのである。
僕は手の内に戻ってきた神葬グングニールの感触を確かめながら、一応ナズナに釘を刺す。
「ナズナ、君が強いのは分かるけど、最後まで油断しちゃ駄目だよ? 敵だってもう死ぬだけとは言っても、道連れを作ろうとか一矢報いようとしてくるだろうし、切り札を残すタイプとかは何をしてくるか分からないんだから」
「…………」
「……ナズナ?」
僕が注意しても、ナズナは笑顔のまま固まって動かなくなる。
数秒後、その笑顔が泣き顔に変わってしまう。
「い、今、ご主人様のぐ、グングニールがあたいの顔の横をびゅって! びゅってぇぇぇ!」
「ご、ごめんね。でもあれはナズナを助けるためであって!」
どうやら神葬グングニールが至近を通り攻撃があたる可能性に驚いて、泣き出してしまったらしい。
いや、実際、ナズナを助けるために動いたんだけど……グングニールの威力を知っているナズナは、当たらないと分かっていても驚きすぎてしまったのだろうか?
泣き出した彼女を落ち着かせるため、僕は暫しの間ナズナの頬を両手で撫でたり、頭を撫でたりして彼女が落ち着くまで甘やかしたのだった。
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