9話 シックス公国
今日は9話を昼12時、10話を17時にアップする予定です(本話は9話)。
グレートブッシュウルフ、ブッシュウルフに襲われたが無事に撃退。
倒したモンスターの魔石を人種の冒険者であるエリオ達にも手伝ってもらい、回収することが出来た。
そんな彼から申し出を受ける。
「そろそろ日が暮れるので俺達はここで野営します。日が暮れてからの移動は危険ですから、ブッシュスネークやグレートブッシュウルフ、ブッシュウルフから助けてくださったお礼に是非、野営料理と粗末なテントになりますが泊まっていってください」
「ブッシュスネークはともかく、他2つは僕達が勝手にやったことですから」
「いえ、今朝のお礼もありますし、それに……」
キラキラと瞳を輝かせる妹を兄が横目に盗み見る。
「妹が是非、魔術についてお話をしたいと……なのでどうかお願いします」
「あははは……ならお言葉に甘えて」
妹のお願いに兄は弱い。
同じく妹を持つ身のためよく実感できた。
なので僕は素直に了承した。
彼らが持つテントを設営、落ちている石で簡易竈の手伝いをしつつ互いに自己紹介をすませる。
リーダーは赤髪のエリオ、そしてその妹の魔術師ミヤ。
2人の同郷で幼馴染みのお調子者っぽいギムラに、一番背の高いワーディだ。
魔術師×1に、盾に剣を持つ戦士×3というやや特殊なパーティーだった。
なぜ男子全員が盾に剣を持つ戦士なのか理由を尋ねると。
『騎士とか格好いいから!』と返答された。
これにはゴールドも『お、おう、そうか』と苦笑いしていた。
もう少しパーティーメンバーの役割や編成を考えた方が良い気がするが……。人様のパーティーに口を挟むのは基本御法度なので聞き流す。
ミヤが水を出し、鍋に干し肉、乾燥野菜、塩を入れて煮込む。
簡単な野営料理が出来る間に、要望通りミヤと魔術について話をした。
と言っても、『奈落』を支配しているという僕の素性をそのまま話すわけにはいかないので、作り上げた表向きの経歴を話しながらだが。
「ご両親が両方とも魔術師だったんですか。だからそんなに凄い才能を持っているんですね」
「ミヤちゃんこそ、その歳で立派に魔術を使っているじゃないか」
「ダークさんと比べたらわたしなんて比較になりませんよ。詠唱破棄どころか、戦術級魔術も使えませんから」
この世界の魔術は基本的に3つに分類される。
戦闘級、戦術級、戦略級――以上だ。
戦闘級から戦略級に行くにつれて基本的に範囲や威力が高くなっていく。
攻撃、防御、回復、支援含めてこの等級に分けられる。
レベルが上がれば、素養がある者は魔術を覚えることが出来る。
慣れた熟練者になると詠唱破棄が可能となるが、その域に達するのは本来並大抵の努力ではない。
また戦闘級、戦術級、戦略級の中でも下位、中位、上位と差がある。
僕が使用した『SR、ファイアーウォール』は、戦術級下位に分類される魔術だ。
またそれぞれの定義をあげておく。
・戦闘級
1人の魔術師がおこなう魔術のこと。
ファイアーアロー、アイスアローなどの攻撃。
人によって、覚える属性が偏ったり、数が多かったりする。
一般的に偏った方が、特化型として大成すると考えられている。
・戦術級
基本的に広範囲に影響を与える魔術のことを指す。
この戦術級を使えるかどうかが『1流』の壁とされている。
人種は大抵この壁を越えられない。
竜人種、エルフ種、魔人種は余裕で越えてくる。
・戦略級
空から隕石を降らせたり、津波を起こしたり、地震で地割れを起こすなど――戦術級以上に影響を与える魔術だ。
故に戦略級と呼称されている。
複数人数で詠唱し、魔力を合わせて放つことが可能だが、高等技術な上、コストが非常にかかるため人種、獣人種以外の他種国家でも滅多におこなえない魔術である。
(さらに僕の魔術の先生でもある『禁忌の魔女』エリーなら、戦略級のさらに上、極限級が使えるけど。これは知られていないクラスだから彼女にも地上で口にしない方が良いっていわれているんだよな)
極限級になると死者蘇生(多々条件あり)、女神の使いである天使召喚、異次元へと空間を繋げること等さえ出来るのだ。
魔術を極めた『禁忌の魔女』エリーでさえ、1日1回しか使えない。
故に極限級なのだ。
ちなみにこの極限級を使って僕はレベルを9999まで引き上げた。
(レベル上げは苦労したな……)とつい遠い目をしてしまう。
そんな僕を余所に、エリオが妹ミヤの頭を撫でて慰める。
「魔術のことは俺にはよく分からないけど、ミヤは公国にある魔術学校の推薦をもらったこともあるくらい才能があるんだ。きっとその戦術級もいつか使えるようになるから、落ち込むなよ」
「お、お兄ちゃん、頭を撫でないで、髪型が崩れちゃう」
兄のスキンシップを、ミヤは恥ずかしそうに身を捩った。
公国とは、6種が出資し代表して竜人種がトップに立ち、責任を持って運営する国家だ。
正式名称は『シックス公国』。略して公国だ。
この世界で最も繁栄した国の一つだ。
そして竜人種は自国を『ドラゴンニュート帝国』と呼んでいる。
公国は彼らにとって植民地扱いになっているため、ドラゴンニュート帝国を名乗っているのだ。
数年に1度、人種、獣人種、竜人種、エルフ種、ドワーフ種、魔人種の代表者が公国に集まり会議や取り決めなどをおこなっているらしい。
公国にある魔術学校は最高峰の一つである。
その学校に推薦がもらえるなんて、ミヤは本当に才能がある魔術師のようだ。
「けど両親が流行病で亡くなって、学費が払えなくなったから結局通えず元々通っていた魔術学校も辞めることになって……。兄妹や幼馴染みで集まって冒険者を始めたんです。俺の目標は冒険者で金を稼いでミヤを公国の魔術師学校に通わせることなんですよ」
ミヤは今年で13歳。
エリオ達は15歳だ。
幼い頃から勉強した方が魔術は身に付くと考えられている。
数年の出遅れは痛いが、決して覆すことが出来ない差ではない。
「おいおい、リーダー。俺ッチ達の夢は、だろ?」
「…………」
ギムラが笑みを零しツッコミ、ワーディは黙って頷く。
3人の答えにミヤは、
「わたしはみんなでこうして一緒に居られるだけで満足だよ。だから、お兄ちゃん達無理はしちゃ駄目だよ」
「分かっている。無茶はしないさ」
再び兄が妹の頭を撫でる。
今度は、ミヤは嫌がらず兄の手を受け入れていた。
しんみりした空気を変えるため、エリオが話を振ってくる。
「ちなみに、ダークさん達はどうして冒険者になったんですか?」
「うむ、主の両親に我輩もネムムも非常に世話になってな。しかし、火事でお二方が命を落とし主は顔に酷い火傷を負ってな……。その火傷を治すクスリ、ポーション探しと、主の見聞を広めるため我輩達は冒険者になったのだ」
ゴールドが立て板に水でつらつらと事前に決めていたストーリーを語った。
『SSR、道化師の仮面』には幻影と認識妨害効果がある。
その幻影の力で顔に酷い火傷を負っているように見せることが出来るのだ。
また仮面を被り、姿を偽っている理由にもした。
エリオの質問の後、お調子者のギムラが手を上げ主張する。
「はいはい! 俺ッチも質問いいッスか? ゴールドさんとネムムさんってもしかして恋人同士っすか?」
この質問にミヤが少女らしく恋バナに目を輝かせ、ワーディも無言で注目する。
ちなみに僕は12歳、ネムムは18歳、ゴールドが20代後半と説明している。
ネムムは彼の言葉に、苦虫を1万単位で噛み潰したような苦々しく心底嫌そうな顔をする。
「こんな趣味も頭も悪そうな金ぴか鎧に身を包む下品な男など、趣味ではない。絶対にありえん」
「わははははは! 我輩も悪いが貧乳には興味が無いからな! 我輩はもっと年上でゴールドが似合う熟女系が好みだぞ!」
「だ、誰が貧乳だ! 自分は普通だと言っているだろ!」
ネムムは顔を真っ赤にして、隣に座るゴールドの肩をゴスゴスと殴る。
彼女の反応は脇に置いて、ゴールドの返事に思わず感想を漏らす。
「へぇーゴールドの女性の好みってそうなんだ。知らなかったよ」
「ふむ、別に隠していた訳ではないが、あまり人様に言うことでも無いからな」
「ならネムムさん、俺ッチなんてどうですか!」
「お断りします。自分にはダーク様をお守りするという崇高な使命があるので」
この返答にミヤがさらに瞳を輝かせて隣り同士で座る僕とネムムを見つめる。
「年の差の恋愛ですね。素敵ですねぇ」
僕とネムムはそういう関係ではないのだが……。
否定するより早く、ゴールドが高笑いして手を顔の前で振る。
「わはははは! 無い無い。ネムムのような貧乳に主は勿体ないぞ!」
「だから! 自分は! 普通だと言っているだろうが! このキンキラがぁっ!」
この発言に完全に怒ったネムムが立ち上がると、ナイフを抜き柄の部分でゴールドの頭をガンガンと叩き出す。
しかし効果は無く『わははははははははははっ!』とゴールドは心底楽しそうに笑い声を上げ続けた。
むしろリーダー格のエリオがこの事態にオロオロとして、謝罪する。
「す、すみません、うちのパーティーメンバーが失礼なことを口にして!」
「い、いえ、気になさらないでください。むしろ、お騒がせしてすみません」
互いに謝りあっていると、ちょうど野営鍋が煮えたようだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
皆様のお陰で本作『無限ガチャ』が総合週間1位になりました!
読んで下さり、応援して下さった皆様、本当にありがとうございます!
これからも皆様のお声に応えるためにも頑張って書いていきたいと思いますので、今後とも何卒よろしくお願いします!
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さらに今日も2話を連続でアップします。
9話を12時に、10話を17時にアップしたのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は9話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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