後ろの正面……
かーごめ、かごめ♪
かーごのなーかのとーりぃは♪
いーつーいーつーでーやーる♪
よーあーけーのーばーんに♪
つーるとかーめがすーべった♪
うしろのしょうめんだーあれ♪
何処からか、懐かしいメロディが聞こえてくる。子供の頃、よくやったよな。皆で集まって、一人を取り囲んで。俺の時だけ、みんなわからなかったけど。
……それにしても、ここ、どこだ?
周りにはやたら背丈の高い木。もうすでに日は落ちて、足元もほとんど見えなくなっている。さっきまで、知ってる道だったはずなのに……
会社からの帰り道。いつものように上の奴らにぺこぺこする自分に嫌気がさして、俺は酒を飲みに行ったんだ。あまり飲まないで出てきたから、酔って道を間違えることなんてないはずだが。それに、家の近所にこんな場所があったはずがない。こんなに鬱蒼とした場所なんか。
かーごめ、かごめ♪
かーごのなーかのとーりぃは♪
いーつーいーつーでーやーる♪
よーあーけーのーばーんに♪
つーるとかーめがすーべった♪
うしろのしょうめんだーあれ♪
まただ。小さい女の子が歌っているようなそのメロディは、なぜか耳の奥に不快感を覚える。小さい時は嫌いじゃなかった筈なのに、今は少し恐怖を感じていた。そう、本能的に。
ずっとここにいては、いけない。
全身が強く脳に訴えている。それなのに、俺の足は歩みの幅を緩めようとしない。むしろ少しずつ速くなっている気がする。意思とは無関係に動く足は、奥へ、奥へと進んでいく。
奥へ、奥へ、このまま、ずうっと、奥へ……
かーごめ、かごめ♪
かーごのなーかのとーりぃは♪
いーつーいーつーでーやーる♪
よーあーけーのばーんに♪
つーるーつーるーすーべった♪
なーべのなーべのそーこぬけ♪
そーこーぬいてーたーもれ♪
目が、覚めた。どうやら少し眠っていて、夢を見ていたらしい。見慣れた壁や床が見える。この様子だと、家に帰ってきてすぐに寝たらしいな。スーツのままで、床に寝転がっていたから。いつもと同じ家に、いつもと同じ住人が戻る。そんな当たり前のことにびくびくしてるようじゃ、俺も怖がりになったな。
でも、言うなれば昔とあまり変わってないんだよな。昔は田舎のばあちゃん家が怖くて怖くて大変だったし。本当にさ、一人でいると何か音がしたりしたっけ。あれは怖かったな。ばあちゃんは「そりゃ、座敷童子だろうよ。きっとあんたと遊びたいのさ」なんて笑いながら言ってたけどよ、やっぱり怖かったんだよ。
何かが落ちるような音がするしさ、何か歌みたいなのが聞こえるしさ。
かーごめ、かごめ♪
かーごのなーかのとーりぃは♪
いーつもかーつもおなきゃぁる♪
よーうーかーのーばーんに……
……え?なんで、夢の中で聞いてた歌が家の中でも聞こえるんだ?
いや、そんなはずはない、今この家にいるのは俺だけだ、家を出るとき鍵を閉めたはずじゃないか、俺が住んでるこの家に、俺以外の奴がいていい筈がないんだ……
必死で自分に言い聞かせる。しかし、かごめかごめと歌う声はずっと続いている。耳をふさいでも、かすかに聞こえてくる。俺を不快にさせる声と、不快にさせるメロディで、俺を責めてくる。
やめてくれ……俺はその歌は聞きたくないんだ……あんな事件があったから……
籠目籠目
加護の中の鳥居は
いついつ出会う
夜明けの番人
つるっと壁が滑った
後ろの少年だあれ?
歌うように、そして同時に語りかけるように歌は進んでいく。まるで右耳には歌、左耳には朗読が聞こえているようだ。頭をガンガンさせるような声で。
≪かごめかごめ≫
……やめてくれ……俺はあれを思い出したくないんだよ……
≪籠の中の鳥は≫
あんなにみんなから好かれてた君が死んだことなんて……
≪いついつ出会う≫
それを俺が止められなかったなんて……
≪夜明けの番人≫
もうこれは聞きたくないんだ……
≪鶴と亀が滑った≫
君の好きだったこれは……
俺は二つの声に耐えることが出来ず、家を飛び出した。本当に、言葉通り、声の呪縛から逃げるようにして、家を出た。なぜか後ろから強くつかまれる感覚があったが、気にする時間などない。門を抜けたときにはその感覚は消えていた。
≪後ろの少年≫
まだ歌は終わっていない。そして、また意思とは無関係に体が動いた。今度は、首だった。
歌につられるようにして首が後ろを向く。
そこには、頭から血を流した幼い君がいた。血にまみれた何かをもって。
≪だあれ?≫
そしてそれは明らかに君の口から発せられたものであるということに気づいた。と同時におよそ君のものとは思えないおどろおどろしい声も聞いた。
「アノトキハ……ウシロヲムイテクレナカッタクセニ……」
かーごめ、かごめ♪
かーごのなーかのとーりぃは♪
いーつーいーつーでーやーる♪
よーあーけーのーばーんに♪
つーるとかーめがすーべった♪
うしろのしょうめん……
上の奴8割夢です。