今日はなんの日(ショートショート77)
誕生日のお祝いに食事でもしようと、妻と娘の三人でショッピングモールにやってきた。
バッグ店の前で妻の目の色が変わる。
「あなた、ちょっとユミをお願いね」
妻はそそくさと店の中に入り、あれこれ手に取り品定めを始めた。
「パパ、あそこ!」
ユミがとなりのキッズ店を指さす。
妻はどうせしばらく出てこない。時間つぶしにユミの手を引いて、オレはキッズ店のオモチャ売り場に行った。
「わあー、かわいい」
ユミがウサギのヌイグルミを手に取った。
「ダメだよ。今日はユミの誕生日じゃないだろ」
「でも、これほしいもん」
ユミはウサギを抱きしめてはなそうとしない。
「ダメといったら、ダメだ」
オレは首を大きく横に振ってみせ、オモチャ売り場から離そうとユミの腕を引っぱった。
ユミは足をふんばって動かない。
それから、
「ユミね、パパのことが大好き」
オレの目を見て甘えた声を出す。
ほほえんで見つめる目がだれかのものとよく似ている。
そのときである。
「あなたー」
もうひとつ甘えた声がする。
振り向くと、妻が胸にバッグを抱いていた。
――まだメシも食ってないというのに……。
おもわずため息が出る。
二人とも、今日はなんの日だと思ってんだ。
オレの誕生日なんだぞ!