夕飯
エリスは扉の前で聞き耳を立てていた。エリスの知らない話をお父さんがセイに話していたからである。
(そんな事があったなんて知らなかった。)
ー ガチャ!
「おとうさ〜ん!ご飯できたよ!セイさんと何話してたの?お母さんの話?」
エリスはエプロン姿で嬉しそうに話しかけてきた。
「死にかけてたところを行商人のお母さんに助けられて、一目惚れしたことばっかり話すんだから!」
エリスの笑顔で先程までの暗い空気が消し飛んだ。セイもバルドもその笑顔に癒されていた。
「ガッハッハ!バレたか!さぁ、飯でも食べるか。セイも一緒に来い。」
テーブルには様々な料理が並べられていた。リックは椅子に座り来るのを待っていたようだ。
「いつにも増して飯が豪華だな!これもセイのおかげだな。アッハッハハー!」
「リックくん、倒れたところを助けてくれてありがとう。」
「ほったらかしにしたら姉ちゃんに怒られるから。くん付けなんてしないでリックでいいよ。セイ兄。」
「リックだけずるーい!私のこともエリスって呼んで下さい。セイって呼んでもいい?」
「はい!じゃあ、リックにエリス、バルドさん今日はありがとうございます。俺のことについて話してもいいですか?」
「ダメだ!折角の飯が冷めちまう!話は飯の後だ。」
「そうですね!」
「「「いただきます!」」」
「いただきます。」
(この世界でもいただきますを言うのか。家族がいた頃が懐かしいなぁ。)
「ほら、セイ!ぼぉーとしてないでコレ食ってみろ。」
差し出されたのは日本でもお馴染みの肉じゃがに似ていた。セイはじゃがいものような物を一口食べて驚いた。母が作ってくれた肉じゃがの味そのものだったのだ。次にお肉を食べてみた。
(ん?このお肉は鶏肉のような味でパサパサ感が全くない。それに肉汁が溢れでる。)
「うますぎる!!」
心に思った事がそのまま口に出てしまった。それぐらい美味しかったのである。
「うまいか。それは肉じゃがと言ってな、ここの郷土料理なんだよ。ただ、その肉だけはウチの特別製だ。」
「ふふふ。セイ、ここが何牧場か覚えてる?」
「えっと、ウサギ牧場ですよね?・・・え。」
「気づいたか。その肉は牧場のウサギだ!うまいだろ?」
「とっても美味しいです。俺の故郷にも肉じゃががあったんです。とても懐かしい気持ちになりました。」
「そうかそれは良かった!エリスも腕を奮った甲斐があったな。」
「ふふふ、はい。たくさん作ったのでいっぱい食べて下さいね。」
次々とセイは料理を食べていった。どれもこれもが美味しく、久しぶりにお腹いっぱいになったのであった。
「ごちそうさまです。本当においしかったです!」
「それじゃー、片付けちゃおっか。お父さんは残り物をまとめておいて。リックは洗ったお皿を拭いて。」
「おう!」
「はぁーい。」
「あの、俺にも手伝わせて下さい!」
「んーそれじゃあ、一緒にお皿を洗いましょ。」
エリスの横に立ち、一緒にお皿を洗い始めた。
(エリスからとても良い匂いがする。27歳のおっさんが何をときめいているんだか。)
片付けも終わり、全員がテーブルに座ったところでセイは話し始めた。
「信じてもらえるか分からないけど、本当のことをお話しします。」
「俺の名前はセイ・星谷。27歳です。こことは違う世界で暮らしていました。今日の朝、ファミレス・・・ご飯屋さんで朝食を食べていたんです。その時、地震が起こり、天井が落ちてきて死んだと思いました。目を覚ますとウサギ牧場にいました。その後、エリスにウサギから助けてもらいました。」
「違う世界ってどういうことなの?」
「前の世界では、日本と呼ばれている島国に住んでいました。この世界みたいに『カード』というものは存在せず、物質について研究し作りあげてきた世界です。物をカード化することは出来ませんでした。ただ、カード化という考え方はありました。それはゲームの世界でです。」
「セイ兄、ゲームってなに?」
リックはワクワクした目でセイを見ていた。バルドとエリスは真剣な顔である。
「ゲームとは一種の遊びです。実際にはできないけど、ゲームの中ではできるというものです。」
「んー、難しいことは俺には分からん!で、その長方形の物はなんなんだ?」
「これは前の世界で使われていた遠くの人と連絡をするための道具です。この道具には色々な機能がありました。今はカードゲートワールド、CGWというゲームしか使えません。CGWはカードを使ってモンスターを倒したりするゲームです。」
「父ちゃん、遠くの人と話せるのは魔具みたいだね!」
「魔具ですか。それはどういった道具なんですか?」
「あー、魔具は遺跡とかで見つかる事が多い古代の遺物だ。今、魔具を作れるのはこの世界に数人もいないと思うぞ。遠話ができたり、物をカード化したり、合成したり、カードを何枚でも持てるデッキという魔具がある。」
「デッキ。CGWにもデッキという機能があります。その他にもカード化、合成、分解などがあります。」
(合成、分解だと?)
「セイ、その魔具は気軽に人に機能を教えちゃダメだぞ。命がいくつあっても足りなくなる。分解なんて聞いた事がない。エリス・リック、絶対に人に話すな。殺されるぞ。」
セイ・エリス・リックは唾を飲み込んだ。
「セイはすごい魔具を持っているのね。セイはこれからどうするの?」
「俺はこの世界に知り合いはいませ・・。」
「何言ってんだ!俺たちがいるだろ?」
「そうだよセイ兄。」
「そうね。」
「ありがとう。俺はこの世界について知りたいです。だから冒険者になって旅をしたいと思っています。」
「冒険者だって!父ちゃんみたいだね!」
「冒険者か〜、私も色んなものを見たいなー。」
「エリスは牧場とラソンにしか行ったことがないもんな。旅したいか?」
「うん。」
「そうか。じゃあ、セイとレントまで行って冒険者登録してみるか?その後は王都まで行って牧場に帰ってくればいい。帰ってきたら本当に旅をしたいのか、また聞かせてくれ。」
「わかったわ。セイのことは私が守るわ!」
エリスはやる気の満ちた顔で目をギラギラさせていた。
(あれ?エリスのキャラが変わったような。)
「父ちゃん!俺も旅したいよ!」
「リックはもう少し身長が伸びたらな!ガッハッハハー。」
「ちぇっ、わかったよ。」
(父ちゃんみたいに早くおっきくなりたいなー。)
「セイ。この世界のことは分からないことも多いだろう。旅の道中でエリスにでも聞いてくれ。」
「女の子と2人っきりで危なくはないのですか?盗賊被害があると聞きましたが。俺は弱いですよ?」
エリスがワクワクした顔でセイの顔を見ている。
「姉ちゃんはめっちゃ強いんだよ!」
「そーゆーことだ。エリスが小さい頃から俺と特訓してたから強いぞ。でも、危なくなったら逃げろよ。」
「わかってるわ、お父さん。」
「エリス、明日行けるように準備しておけ。寝る前にセイのヒゲ剃ってやれよ。」
2017/7/20:誰でもカードを魔具で合成できるように変更しました。