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第一話 放課後残るって嫌だよね

雨が、降る。

空から降り注ぐ雫は大半のモノにとっては厄介で陰鬱なものだろう。

もちろん、それ以上に陰鬱なモノや、変わり者と呼ばれる一部のモノにとっては心地よいものである。

私はその後者であったりする。

雨が降ると、唐突であろうが、予測できたものであろうが、何故か心が浮き立つ。

濡れて帰る事すらも楽しみで、止む前に帰りたい。

神(がいるのかどうかはしらないが)の涙などと言われるが、だからどうしたと言いたい。

むしろざまーみ・・・・こほん。

ご愁傷様、と言ったところか。


雨で心浮き立つのに理由はないが、雨が好きなのには理由がある。

些細な違いだが、気にするな。

私が雨を好むのは、晴れが嫌いだからだ。

・・・・・理由になってないとか言うな。

だが、晴れは嫌いなんだ。

太陽なんて嫌いなんだ。

地球の命運勝手に握ってるんだ。

作者の友達は太陽の光を浴びると崩れるんだ。

・・・・・・・最後は関係ないか。


まあ、真面目に言えば、晴れの日にはあまりよい思い出がないから、とだけ言っておこう。

別にシリアスな話でも何でもないのだが。


「なーに黄昏れてんのかなぁ〜?」


ひょこりと茶髪の『美少女』に分類されるであろう少女が覗いてきた。

・・・・・・五月蝿い奴が来た。

どうせならおまえも太陽に燃やされてしまえ。

身勝手で不条理な存在の洗礼を受けるがいい。


「・・・・何かものすごくひどい事考えてない?」


半目でこちらを睨んできた。

迫力なんて、全然ないが。


「ああ」


否定する必要なんかない。

どうせこれには堪えん。


「いや、そこは否定しておけよ」


人影がまた窓に映り、私はようやく振り向いた。

染めてはいないという青みのかかった黒髪を肩あたりまで伸ばし、気だるそうに日本人らしい黒い目が垂れている。

がっしりとしているが、見苦しくない体格。

どうでもいいが、もてるらしい。

無愛想だが、心の広い奇妙な奴だ。

・・・・・・面倒くさい。


「・・・・・口にでてるぞ」


「問題ない」


「いや、めっちゃくちゃあるから」


・・・・・・・本当に、面倒くさい。

どうしてこいつは細かいところまで突っ込むかな。

言葉は人の自由だろう。


「・・・・いや、まあいいけどよ」


いいのか。


「で、結局何やってんだ?奏奈が言うみたいに黄昏れてたのかよ?」


「いや・・・・」


否定しかけて、口をつぐむ。

説明するのが、面倒くさい。

ただの暇つぶしに雨について長々と自分と語っていた、何ていっても理解を得るのは難しいような気がする。


これは小学校に上がる頃に気付いたのだが、私は所謂『暇つぶし』の方法が周りとかなり違う。

誰か特定の人物と無駄で中身のない会話を続けるよりも、自分自身や物言わぬモノに一方的に語りかける方が好ましい。

世間一般では『殻に閉じこもる』とか『独り言が多い』とかひどい時は『引きこもり』と称されるが、ほめ言葉として受け取るようにしている。

己と語り合う事の方が、楽しいし。

別に他人は必要ないと思っているわけではない(と願いたい)。

ただ、誰かと接するのは面倒くさいと感じている自分がいるだけで。


「・・・そうだな。黄昏れていた」


「冗談で言ったんだが。ってか、今絶対面倒くさいとかって説明はしょっただろ」


「まあな」


「認めんな」


ではどうしろと。


「・・・・ったく・・・・いや、別にいいけどな?おまえの考えてる事って突拍子ねぇから」


ふむ。

突拍子ない、か。

いい言葉だ。

今度使ってみよう。


「そーだよねぇ。センリって何考えてるかよくわかんないよね〜。同じ班になって一ヶ月は経つけど未だにキャラがよく分かんない」


復活した五月蝿い奴が会話に加わった。

・・・・悪かったな、分かりにくくて。

ただ単に説明不足なだけだろうが。


「だけど面白いよねぇっ〜!」


甘えるように体をすり寄せてきたクラスメイトを面倒くさい程奇妙な奴(私がそう感じているだけ)に返す。

別に彼の所有物というわけではないのだが、彼以外にそれをつき返す相手がいなかったもので。

突返された本人は面倒くさそうに受け止める。

こういうところを見ると、改めて彼が『できた』人間である事を再認識させられる。

普通、迷惑そうな素振りくらいはするだろう。

相変わらず・・・・と言ってもまだ一ヶ月そこらの付き合いだが・・・・彼は天然お人よしだな。

天然お人よしとはこの場合素でお人よしの事だ。

天然記念物でお人よし、でもいいが。

この時代、ここまで人がいい奴は東京には中々いない。


この見事なほどに面倒くさい二人、広弥奏奈きみやそうな幹谷信也みきたにしんやとの関係は、中学校という果てしなく面倒な義務にいる限り、やはり果てしなく付きまとう、『同じ班』というものだ。

中学は既に二年目だが、こうも積極的に話しかけてくる人物そうなは一年の時にはいなかったぞ。

正直言って、なれない。

迷惑というレベルは(たぶん)達していないと思われるが、苦手という意識は尽きない。

新学期になり、クラスが変わったそのはじめからこうも面倒な奴らと組む羽目になったのは不運だったとしか言いようが無い。

同じ班である以上、共同作業や連帯責任という名目で顔を付き合わせ、話し合う事がある。

授業中のみならず、放課後にも。

そして今現在、終わらない課題が机の上に放り出されている状況もまた、そういった類のもので。

本来なら、後二人いるのだが(この二人もまた、面倒くさい)、部活とやらでいない。

ふけるな、部活の前に仕事をやれ。

そして委員会の仕事まで他人に押し付けるな(一斑総員の意見)。

この件については、また今度詳しく説明しよう。

まあ、とにかく、今のこの状況で私の課題が終わっている以上、目の前で呑気に話し合う奏奈と信也が問題なわけで。

二人が終わらない限り、私も帰れないわけで。


「?どうしたの、センリ?」


「・・・・・・・・」


「・・・・・すまん」


無言で睨むと、信也は意味を察してくれた。

だが、困ったように紙を引き寄せるだけで、手をつけようとはしない。

そして何か期待するような顔でこちらを見てくる。

・・・・・・。

ちなみに奏奈は意味が分からなかったらしい。

ひたすらに小首をかしげている。

気付け。


「・・・・・」


「あー・・・・その、だな」


「・・・・・」


「・・・・センリ」


「・・・・・・」


次に続く言葉は予想が容易にできた。

ここまで来ると、奏奈も大体は理解した様子で、紙を引き寄せてこちらを期待の目で輝かせている。

・・・・・そんな目で見られても。


「学校一の成績優秀者のおまえを見込んで頼みたい事があるんだ「却下。自分でやれ」あう・・・・」


がくりと肩を落とす信也。

・・・・・そんなリアクションを取られてもな。

まあ・・・・待っているのに飽いたのもまた事実だが、信也と奏奈が真面目に課題に取り組もうとしているかどうかと言われると、すぐには頷けないのもまた事実である。

それに手伝うという行為自体面倒だ。


「そう言わずにねっ?お願い、教えてっ!」


「・・・・・・・」


答えずに、そっぽを向く。

面倒くさい。

どうして、この二人と同じ班なんかになったのだろうか。

雨が止む前に帰りたいのに。

だが課題を放課後やってしまわないと、明日私も困るという面倒くさい事実がある。


「後一問だけなんだ。頼むっ!」


いや、頭を下げられても。

・・・・・後一問、ねぇ?

確かに、見やれば後一問だった。

信也、

奏奈は、というと・・・・・・。

・・・・・何故だろう。

半分も解けていないのは。

たかが十問を一時間かけて半分も解けないのか、こいつは。

・・・・・面倒くさい。


「奏奈」


「は、はいっ!?」


低い声で唸ると、奏奈が慌てて姿勢を正した。

こいつは・・・・・。


「さっさと解け」


「はいっ!!」


一心不乱に問題に取り掛かり始めた。

まったく・・・・・。

奏奈はこれでも成績上位者だ。

やれば、できる。

やれば。

そこが一番の問題ではあるのだが。

・・・・・まあ、今ので十分以内には終わらせるだろうが。

で・・・・問題はこっちか。


「信也」


「あ、う、はい」


奏奈にとった態度のせいか、少しびくついていたが、気にしない事にした。


「どこが分からない?」


「・・・・・あ?・・・・・・・あ、ああ・・・・えっと」


教えてもらえるとは思わなかったのか、しばらく硬直してから信也はおずおずと課題を私に差し出す。

受け取った結果、本当に一問だけ埋まっていないところが。

・・・・・・・その知識を使った応用は解いてる癖に、基礎の問題がわからないって、どういう事だ。

まあ、いいか。

この信也が奇妙なのは今に始まった事じゃあない。


「だから口に出てるって」


「そうだな。で・・・・・・」


軽く流し、鉛筆を持って、丁寧に問題を解説してやる。

と、いうよりも応用を鉛筆で指してやっただけで気付いた。

・・・・頭が悪いわけではないのだが。

面倒くさい奴。


その後、十分後には帰宅する事ができた。

雨はまだ止んでおらず、信也と奏奈は憂鬱そうにしていたが、私(ちなみに帰宅部)は普通に帰らせていただいた。

厄介ごとに巻き込まれる前に、学校というエリアは抜け出すに限る。

雨に降ってる内に帰らねばならないしな。

・・・・・何か違うって?

気にするな。

それが私だ。


主人公の名前でました〜

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