愛犬と夢殿での再会
勢いで書いたので誤字、脱字があったらすみません。
“あの子が死んじゃったよ…。”
そう実家の母から朝早く連絡をもらったときは頭がまったく理解してくれなくて。棚の上に置いていた写真たてに入っている愛犬と自分の写真を見た。
実家が就職した会社が遠く、一人暮らしするために家を出て数年、一年に何度か帰省したときは毎回元気な姿を見せてくれた愛犬の姿が何度も思い出せる。
飼い始めた頃から大型犬の癖に雷が怖くて、いつも布団に潜り込んできてはベッドの殆どを占領し。普段も布団の上から乗って寝始め、その重さに苦しまれたこともある。
それでもあの子は大切な家族で、私がこの子が良いと親に必死にお願いした小学生時代。それからもう10年以上経っているのかと思い至れば、長生きしたんだなぁ…とか最後は看取ってあげたかったなぁ…なんて色んな感情が内心で複雑に絡み合い、涙なんて出なかった。
それでも心にポッカリと穴が開いたような虚無感にその日はやる気がまったく起きなくて、初めて仕事を休んでしまった。
休みの連絡をした時、今までこんな風に休んだことがなかったため、上司にとても心配されたが、そんな気遣いにも適当に対応してしまった気がする。
こんなにあの子が死んでしまったという現実が自分を駄目にしてしまうのかとベッドに横になりながら乾いた笑みを漏らす。それほどまでに大切だった存在が消えてしまった。そんな事実を頭では分かったとしていても、心がそんな現実を受け入れるのを拒み、痛みを苦しさを伝えてくる。
「会いたいよ…ライル…。」
掠れたような声で愛犬の名を呼びながら目を閉じる。今までの思い出を思い出しながらその意識はゆっくりと沈んでいったが、やはり涙は出なかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ウォンッ!」
「っ!!ライル!!」
聞き間違えるはずのない愛犬の低めの鳴き声に急いで瞼をあげると視界いっぱいに愛犬の顔があり、嬉しそうに尻尾を振っているのが見え、今いる部屋も見覚えのあるものだった。
「ライル…?ライル、だよね…?」
「クゥーン。」
まるでそうだよというように甘える声を出しながら全身を使ってすり寄ってくる愛犬の姿に愛しさが込み上げる。最後に会ったときももう老犬といってもいい年齢なのに元気なところは昔から相変わらずで、目の前の愛犬もその時とまったく変わらない。
遠慮のない重さにちょっと苦しいが、会えたことに比べればなんともなく、その大好きだった毛並みを存分に楽しむ。
長毛種ながらサラサラとした毛並みは毎日のブラッシングを家族皆で欠かさないからこそ体験できるもので特にブラッシング後すぐの毛並みが私は大好きだった。
そして、ふと気づく。愛犬の毛並みを撫でている手がいつもより小さな子供の手だということを。明らかに目線の高さが、愛犬の体に抱きついたときの面積の大きさが、自分が子供の頃と同じということを。
「あぁ…これは、夢なんだね…。」
そう実感してしまえば、今までの幸福感がゆっくりとなくなっていく。もうこんな風に愛犬には触れられることはないんだと。一緒に過ごせる時間はないのだと。
《違うよ。ここにいるボクはお姉ちゃんがずっと可愛がってくれたライルだよ。》
「え…。」
目の前でお座りをしている愛犬から確かに聞こえた声に固まる。
《ボク達の犬の神様にお願いしたんだ。お姉ちゃんに会わせてくださいって。会えないままボクがいなくなっちゃったらお姉ちゃん、きっと悲しむから、ボクと同じくらい寂しがり屋なお姉ちゃんだからって。そしたらこうして会わせてくれたんだ。》
すごいでしょうとでも言いたげに目を細め、尻尾を大きく振る愛犬。その姿がずっと側にいてくれた愛犬のよくする何気ない姿と重なり、今まで流れなかった涙が溢れる。何故喋れるのかなんて疑問はどうでも良かった。ただそこに会いたかった、本当に会いたかった愛する家族がいる、それだけで。
「ライル…会いたかった…ごめんね…最後は側に…いれなくて、ごめんね…。」
《泣かないでお姉ちゃん。ボクは幸せだったよ?お姉ちゃんの家族に飼ってもらえて。本当に楽しくて嬉しくて…本当に幸せな日々だった。だから、謝らないで?》
泣きながら抱きつき、謝る自分に困ったような声音の愛犬の言葉に涙でぐちゃぐちゃな顔をあげながらも精一杯の笑顔を浮かべる。
「うん…今まで家族でいてくれて、ありがとう。…大好きだよ、ライル…。」
《うん!ボクも大好きだよ、お姉ちゃん!》
本当に嬉しそうに笑ったように見えた愛犬の顔。ペロリと涙を舐めればその姿は光となって消え、周囲の実家の部屋だった景色も消え、真っ白な空間に自分だけが残った。
一人になった途端、漸く追いついた悲しみがやって来て、一人で声を出して泣いた。泣いて泣いて、そのまま疲れたように意識が沈んでいくのをなんとなく感じていたが、もう虚無感はなく、泣いたことによってスッキリとしたキモチだけが残った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「行ってくるね、ライル。」
棚の写真たてに入った愛犬の写真にそう声をかける。
母からの電話の後、眠りながら泣いていた自分の目は大変なことになっていたが、とても幸せな夢を見た気がする。内容はまったく覚えてはいないが、心がスッキリしていたからもしかしたら愛犬に会っていたのかもしれないなんて思う。
そんなことを写真を見ながら思っていると、ふと目に入った時計の時間に慌てて玄関へと行けば靴を履き、扉を開ける。
《いってらっしゃい!気をつけてね!!》
聞き覚えのあるような声にはっとして体が止まる。だが、すぐに笑みを浮かべ、部屋へと振り返った。
「行ってきます!」
そう言って出ていき、扉が閉まる。
彼女を見送るように玄関の前で毛並みの綺麗な大型犬が尻尾を振りながらお座りをしている姿が現れてはすぐに消えた。
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