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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
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6. ドイツ海軍と緋村の災難

ドイツ海軍の登場です。

 ドイツ海軍司令部



 ドイツ海軍元帥エーリッヒ・レーダー元帥は、長官室にて朝のコーヒーを飲みながら書類に目を通していた。3月の再軍備宣言以来、ドイツ軍は軍備増強を行っていた。


 海軍も例外ではなく、ドイッチュラント級装甲艦の発展型であるシャルンホルスト級戦艦の建造が進んでおり、さらにフランスのダンケルク級戦艦等に対抗するべく、新型戦艦の設計も行われていた。(後のビスマルク級戦艦)


 しかし、陸軍や空軍に比べるとどうしても冷遇された扱いであり、現状ではフランスやイギリス海軍に対抗する事は難しいところであった。


「やはり、ベルサイユ条約が響いているな...」

 レーダー元帥は一人呟いた。第一次世界対戦後に結ばれたベルサイユ条約により、ドイツ海軍は艦艇を削減され、さらに二度の軍縮条約により、保有数を制限されたため、戦艦の建造はおよそ十五年のブランクがあった。事実シャルンホルスト級戦艦や新型戦艦も、第一次大戦で建造された戦艦をもとに設計を行っており、設計の古さはいかんともしえなかった。


「かつてのドイツ大艦隊の復活は...やはり無理なのだろうか...」

深いため息を吐きながらレーダー元帥は呟いた。

 その時、従兵が執務室へ入ってきた。


「レーダー元帥、日本の駐在武官がやってこられました。」

「日本の?分かった、通したまえ。」


やがて応接室に日本の海軍駐在武官が入っていった。

「レーダー元帥。今回は突然の来訪申し訳ございません。」

「いえいえ、お気になさらず。それでご用件は何ですかな?」

「ええ、今回は貴国の工作機械を大量に輸出してくださった感謝の気持ちとして、わが国の艦艇を貴国に輸出したいと思っております。」


「な、なんですとッ!?本当ですか?」

「はい、わが国の青葉型重巡洋艦の二隻と、球磨型軽巡洋艦の二隻を輸出します。」

 レーダーは驚きのあまりしばらく呆然としていた。しかしすぐに気を取り直し、会話を再開した。


「私個人としてはとても嬉しい限りです。主砲や高角砲などはわが国の物を載せるなどしましょう。」

「ありがとうございます。」


 この数か月後、キール軍港に日本の艦艇が到着した。

「これがアオバ型か。」

 キール軍港にて到着を待っていたレーダー元帥は青葉を見ながらそう言った。


「こんな良い船を送ってくれるとは、日本もなかなかやるな。」

「ええ、乗組員も気に入ってるようです。」

「改装が終わり次第、すぐに訓練に移ろう。一日でも早くモノにせねばならん。」

「了解しました。」


 レーダー元帥が艦艇輸出に喜んでいたころ、緋村はというと......

「うーしんどい。」

「無理しすぎなんですよ先輩」


 緋村は日ごろの無理が出たのか、風邪をひいてしまった。

「頭痛い、鼻水出まくる、もうしんどい。」

「まあ、休暇だと思ってしっかり休んでください。薫さんも今日は女学校も休みですし、ゆっくりしてください。」

「分かったよ。おめえも早く言ったらどうだ?時間間に合うか?」

「あ!じゃ、じゃあ行ってきます」

「まったく...」


 村田が神谷家を出た後、緋村はそばに置いてあった新聞を読みはじめた。

新聞には軍の募集などの記事のほかに、京浜工業地帯の開発の記事が載っていた。これは緋村たちが岡田首相との会談にて緋村が提案したものであった。これは工業力を上げるためと、昭和十九年の東南海地震に備えての物である。


(着々と成果は出てるな。元気になったらもっと頑張らにゃあならんな。)


新聞を読み終え、昼食に渡された粥を食べ終え、小説を読んでいると、薫がやってきた。

「緋村さん、体の調子はどうですか?」

「ええ、だいぶ熱も引いたんでもう大丈夫ですよ。」

「すみませんけど手伝ってくれませんか?」

「ええですよ。」


「ちょっとあそこにある鍋を取ってほしいんですけど...」

 そう言って薫は棚の上にある鍋を指さす。

「お安い御用です。」

 そう言って緋村は近くの台の上に乗って鍋を取ろうとする。しかし、あと一歩という所でなかなか届かない。

「くそ、あと少し、あと少しで...」


 その時、ぐっと手を伸ばしたとたん、緋村はバランスを崩して倒れてしまった。

「うわあっ!!」

「きゃあああ!!」


 しかも運悪く薫のいる方向に倒れてしまった。

「いってて...薫さん、大丈夫ですか?」


 緋村はちょうど薫の上乗りになる状態になっていた。ざっと見たところ薫にけがは無さそうだった。

「は、はい...大丈夫なんですが...その...手を...」


「手?」

そう言って手の方を見ると、その手には薫の胸をしっかり掴んでいた。


「うああああすいません!!すいません!!」

「い、いえ...」


 薫は恥ずかしそうな顔をしながら答えた。

「本当にすいません!!」

「あの、気にしなくていいですから、頭を上げてください。」


 床に頭がめり込みそうなほど深い土下座していた緋村は、その言葉を聞いてようやく頭を上げた。

「あの、許してくれるんですか。」

「許すも何も、事故なんですからしかたありませんよ。私も風邪をひいてる緋村さんに頼んだのも悪いんですし。」


 そう言ってにっこりとほほ笑んだ薫は、この時の緋村にとってはまさに菩薩様のようであった。

「ありがとうございます...」


 涙ながらにそう言った緋村を、薫がなだめるのに一時間以上かかったという。


 





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