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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
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36. 珊瑚海の戦い 1



 ーー昭和十七年四月二十日 横須賀ーー


「今回の空襲は精神的にやられた...」

 横須賀の料亭で行われていた会合で、米内総理大臣はそう呟く。今回の空襲は陸海軍の戦闘機隊の活躍により、被害は史実よりも格段に少なかったが、それでも本土を空襲されたと言う事実は変わりなく、新聞社などは大々的に軍を非難していた。


「陸軍では今回の空襲を受け、本土防空のための戦闘機隊の強化を行う方針となっている。高射砲部隊も同様だ。」

 会合にいた東條陸軍大臣がそう答える。隣に座っていた杉野も大きく頷いた。


「しかし、海軍では今回の件でミッドウェー作戦が行われることになった...」

 山本海軍大臣がため息混じりにそう呟く。本来であれば空母部隊の艦載機の補充や搭乗員の急速を考え、七月以降に行われる予定であったが、今回の空襲により六月に繰り上げられたのであった。


「だが、弱音を言ってもしょうがない。今は目の前の事を片付けていくしかなかろう。」

 山本海相の言葉に米内総理がそう言った。


「ところで山本大臣。ポートモレスビー攻略の艦隊はどうなっているのでしょうか?」

 緋村が山本海相にそう訪ねる。


「うむ、第四艦隊の井上によると、五月の始めには作戦を開始させるらしい。それと、村田大尉が現在トラックに向かっている。」

「村田がですか?」

「ああ。五航戦の原は航空戦は苦手だからな。村田くんにはその補佐を行わせることになったのだよ。」

「成る程、そういうことですか。」

 山本海相の説明に、緋村は納得する。


「とにかく、防空隊の配備や電探の配備など、防空網の構築を進めるべきだな。」

 米内総理の言葉に全員が頷き、会合は深夜まで続いた。


 その後陸海軍は各地にレーダーを配備した早期警戒基地の整備や、陸海軍合同の防空組織が設立されることとなったのであった。







 ーー四月二十五日 トラック島ーー


「ここがトラックか...」

 移動の九七式飛行艇から降りた村田は、トラック島の風景を見ながらそう呟いた。トラック島泊地には空母『翔鶴』と『瑞鶴』、練習巡洋艦『鹿島』など多くの艦艇が停泊していた。


九七式飛行艇から降りた村田は『翔鶴』から迎えの内火艇に乗り込み、空母『翔鶴』へと乗り込んだ。

               

「報告します。村田達也大尉、本日付で第五航空戦隊に着任しました。」

「うむ、御苦労。」

 村田は空母『翔鶴』に乗り込んだ後、艦橋で第五航空戦隊司令の原忠一少将に着任の報告を行った。


「連合艦隊から派遣された士官と聞いていたが、思ったよりも若いな。」

「はい、よく言われます。」

 原少将の言葉に村田は苦笑いを浮かべる。


 原少将は兵学校の同期から『キングコング』と呼ばれるほど大柄な人物で、がっしりとした体格はまさに軍人といった雰囲気であった。


「今日からはこの五航戦の特務参謀として参加してもらう。十分に励んでくれたまえ。」

「了解しました。」

 そう言って村田は原少将に敬礼を行い、艦橋を後にした。







 村田が五航戦へ着任してから数日後、第五航空戦隊はMO攻略作戦のため、トラックを出発した。艦隊は機動部隊と攻略部隊の二つに別れ、第五航空戦隊と戦闘機のみを搭載した『祥鳳』の三隻中心とするMO機動部隊、攻略部隊を載せた輸送船団を中心としたMO攻略部隊という編成となっていた。


 攻略部隊には護衛として護衛空母の『白鷹』と『黒鷹』の二隻が護衛につき、艦隊護衛を行うこととなっていた。


「いよいよ米空母と決戦か...腕がなるな。」

 空母『瑞鶴』戦闘機隊に所属する土方歳郎大尉は、「瑞鶴」の飛行甲板でそう呟いた。飛行甲板では整備員たちが機体のチェック等を行い、来るべき戦闘に備えていた。


「土方大尉、どうしましたか?」

 土方は声をかけられた方に振り向くと、土方と同じ戦闘機隊員の岩本徹三一飛曹が立っていた。


「おう、岩本。アメさんと戦うのが楽しみなだけだ。」

「そうですか。」

 そう言って岩本は土方の隣に並び、会話を続けた。


「アメさんの腕前はどうですかねえ。」

「詳しくは分からん。だが、油断は禁物だな。」

「少なくともイギリスより手強いでしょうな。真珠湾のときは上手く行き過ぎでした。」

「確かにな。だが、俺たちは自分の全力を出して戦うだけだ。それ以外のことは気にするな。」

「そうですね。」

そう言って二人はまだ見ぬ敵を思い浮かべながら、二カリと笑った。土方たちがそう話しているうちにも、艦隊はポートモレスビーへ針路を向けたのであった。







 ーー五月四日 ツラギーー


 MO機動部隊がトラックを出発したころ、ツラギ攻略部隊はMO作戦支援のためツラギ島に上陸した。


 すでにほとんどの米兵は撤退していたため、わずかばかりの小競り合いが行われた以外はほぼ無傷で占領することができた。


 ツラギの海岸には特設水上機母艦から下ろされた零式水偵や零式観測機が配備され、その翼を休めていた。


「敵機動部隊が近づいているか...」

 ツラギ攻略部隊指揮官の志摩中将は、偵察機からの報告にそう呟いた。


「敵部隊の攻撃の備えはどうなっている?」

「トラックから派遣された護衛空母の『白鷹』が上空援護のため到着し、水上機隊や他の艦艇にも対空警戒をさせております。」

 志摩中将の問いに参謀がそう答える。ツラギ泊地には現在ところ睦月型駆逐艦二隻と敷接艦『沖島』等が停泊しており、防空能力は低かった。そのため、トラックから派遣された護衛空母と水上機隊によってカバーすることとなっていた。


「司令ッ!! 警戒中の水偵より入電ッ!! 敵攻撃隊が、ツラギへと向かっているとのことですッ!!」

「全艦対空戦闘用意ッ!!航空隊も出撃させろッ!!」

 通信兵からの報告に、志摩中将はそう命じる。「白鷹」の戦闘機隊や零式観測機が次々と発進し、敵攻撃隊に備える。他の艦艇も乗組員が配置につき、攻撃に備えた。


迎撃に上がった航空隊は高度を上げた後、敵攻撃隊を確認した。『白鷹』の零戦七機と九六艦戦五機、零式観測機五機の迎撃隊は、一斉に攻撃隊に襲い掛かった。


 敵攻撃隊もF4Fワイルドキャットの編隊が攻撃隊を守るべく迎撃隊に立ち向かっていった。ツラギ上空では激しいドッグファイトが繰り広げられ、真っ青な青空には幾つもの飛行機雲が描かれていた。


 迎撃隊が敵戦闘機隊との空戦が繰り広げられる中、迎撃隊を振り切った攻撃隊はツラギ攻略部隊へと向かった。


 攻略部隊の艦艇が一斉に十二.七センチ高角砲や二十五ミリ機銃で迎え撃つ。しかし、艦艇の必死の攻撃も空しく、攻略部隊は駆逐艦『菊月』大破と掃海艇二隻を失うという結果となった。







ーー第五航空戦隊旗艦『翔鶴』ーー


「ツラギが敵機動部隊の攻撃を受けたそうだ。」

 通信兵から受け取った電文を見た原少将は村田にそう伝える。


「やはり来ましたか...」

「これで第一段目は終了した。奴らの次の狙いは...」

「MO攻略部隊ですね...」

「おそらくそうだろう。」

 村田の言葉に原少将は答える。


「上陸部隊には護衛空母の二隻がついている。それに奮戦してもらうしかないな。」

「そうですね。」

 原少将の言葉に村田はそう答えた。


 日米両機動部隊の戦いが、行われようとしていた。


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