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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
35/38

35. ドーリットル空襲

 ーー霞が関 海軍省ーー


「インド洋の方は上手くいったようだな。」

 霞が関にある海軍省の大臣室で山本五十六海軍大臣はそう呟く。大臣室には緋村と村田、そして連合艦隊司令長官の堀長官が座っていた。


 インド洋に進出した第一航空艦隊はコロンボ港の空襲を終えた後、トリンコマリーへの攻撃を行い、付近を航行していた空母『ハーミーズ』を艦爆隊のみで撃沈させた。第三航空戦隊もアッヅ環礁の攻撃を行い、燃料タンク等の艦艇施設を攻撃した。


 湾内に残っていた戦艦四隻やソマーヴィルの艦隊はマダガスカル方面へ撤退し、イギリス海軍はインド洋方面の制海権を完全に失った。


「第一航空艦隊にいる第五航空戦隊はトラックで十分な休養をとらせた後、ポートモレスビー攻略の艦隊と合流させることとなっている。後の艦隊は内地へ帰還させることになっている。」

 堀長官が山本にそう伝える。


「ふむ。となると、次は帝都空襲ということか...」

 堀長官の話を聞いた山本は、そう呟く。


「帝都空襲に関しては、横須賀、厚木、木更津の各基地から戦闘機隊を出撃させ、東京湾上空で迎え撃つことになっています。」


 山本の言葉に緋村がそう答える。この頃海軍は千葉県の勝浦と神奈川県の衣笠に試作のレーダーを配備させており、本土空襲に備えていた。また陸軍も高射砲部隊を関東に配備させるなど、できる限りの対策をとらせていた。


「アメリカは負け戦続きで士気が落ちている。士気をあげさせるために奴等は必ず来るだろう。」

「しかし、本当に来るまで安心はできません。」

「うむ、そうだな。」

 そう言って緋村達は海軍省から出ていった。そして、運命の四月十八日がやって来た。






 ーー四月十八日 小笠原諸島近海ーー


 この頃、アメリカのルーズベルト大統領は真珠湾攻撃の報復として日本本土爆撃を命じた。


 作戦はルーズベルト肝入りの作戦として進められ、空母『エンタープライズ』と十六機のB-25爆撃機を搭載した『ホーネット』の二隻によって行われることとなった。


 爆撃部隊指揮官であるジミー・ドーリットル中佐率いるBー25を載せた二隻の空母は、小笠原諸島近海にまで近づき、出撃の準備を進めていた。しかしそのとき、付近を航行していた哨戒船が、空母部隊を発見し、直ちにその情報を送った。





 ーー柱島泊地 戦艦『大和』ーー


「直ちにアメリカの機動部隊を叩くべきですッ!!」

 柱島泊地に停泊している戦艦『大和』の司令室で連合艦隊司令部の黒島参謀がそう叫ぶ。


「落ち着け黒島。すでに木更津基地から索敵機を飛ばして詳しい所在を探させている。」

「しかしそれでは不十分ですッ!!」

 堀長官が黒島に落ち着くように話すが、黒島はなおも堀長官に詰め寄る。


「しかし長官。山本海相や村田大尉の言った通り、陸上爆撃機を載せて出撃させたとなれば、すでに本土へ向かっているはずです。」

 宇垣参謀長が堀長官にそう言う。


「その点は心配要らんはずだ。陸海軍の各基地では防空演習として戦闘機隊が待機させられているらしい。これを向かわせればなんとかなるはずだ。」

 堀長官が宇垣参謀長にそう説明する。


「そうなりますと、横須賀や陸軍の航空隊に任せるしか無いようですな。」

 宇垣参謀長が堀長官の言葉にそう呟く。

「うむ。とにかく我々は、ここで大人しく報告を待っているしか無いということだ。」

 そう言って堀長官は、関東方面を開かれた地図を見て、そう言ったのであった。





 ーー同時刻 横須賀基地ーー


 この日、横須賀基地では関東全域の基地で行われていた防空演習のため、搭乗員達は飛行場の脇で待機し、戦闘機も即時出撃できるように並べられていた。


 そんな中、飛行場のサイレンが突如響き渡った。

『小笠原沖を航行中の哨戒艇より入電ッ!!敵機動部隊より発艦した爆撃機部隊が南方より接近中ッ!!戦闘機隊は直ちに出撃せよッ!!これは演習にあらずッ!!演習にあらずッ!!』


 搭乗員達は突然のことに驚いたが事態を把握すると大急ぎで近くの機体に向かって駆け込む。


「急げーッ!!早く乗り込めーッ!!」

 緋村も大急ぎで列線に並ぶ機体へ向かいながらそう叫ぶ。緋村は近くにあった零戦に乗り込み、暖気運転もそこそこに飛行場を飛び立った。


 飛行場上空である程度高度をとった後、緋村は離陸した十機とともに編隊を組み、東京湾の方角へと向かった。





 緋村を含む十一機の零戦が東京湾上空にたどり着いたころ、緋村はB-25十三機の編隊を確認した。緋村は機体を大きくバンクさせ、敵機発見を知らせる。すでにB-25には陸軍の九七式戦が攻撃を仕掛けており、零戦隊は同士討ちを避けるため、しばらく攻撃のタイミングを伺った。


 そして、九七式戦部隊が引き上げ始めたところを見計らい、零戦隊は一斉にB-25に向かって一斉に攻撃を開始した。


「全機突っ込めッ!! やつらを東京湾の藻屑にしてやれッ!!」

 編隊を率いていた小福田大尉の号令の下、一斉に攻撃を開始した。緋村は先頭の右を飛行している二番機に狙いを定め、急降下で攻撃を仕掛ける。Bー25からは防御機銃が一斉に放たれるが、緋村は臆することなく目標のBー25に狙いを定める。


 そして、距離およそ五十メートル程まで接近したとき、緋村はスロットルレバーについている機銃発射レバーを強く握った。


 緋村の放った機銃弾は左エンジンに命中し、エンジンから黒煙が吹き始めた。


 エンジンをやられたBー25は編隊から落伍し始め、別の零戦の攻撃によって止めを刺され海面に不時着した。


 気がつくと東京湾上空には木更津や厚木から出撃した零戦隊と、陸軍の戦闘機隊も攻撃を仕掛けており、十三機いたBー25は七機にまで減っていた。


(こりゃうかうかしてると他の連中に手柄とられるぞ。)

 攻撃の様子を見ていた緋村はそう心の中で呟くと、再度Bー25の編隊に向かい、攻撃を開始した。





「くそ、一体どうなってるんだッ!!」

 Bー25爆撃隊隊長のドーリットル中佐は、機長席でそう呟いた。すでに東京方面の爆撃に向かった十三機の内、六機が零戦(ジーク)によって叩き落とされた。ドーリットルの乗るBー25も、主翼やエンジンに被弾し、爆撃機の搭乗員(クルー)達が必死に防御機銃を打ち続けていた。


「中佐、このままではやられます。爆弾を捨てましょう。」

 操縦士がドーリットルにそう進言する。ドーリットルも攻撃を諦め、爆弾を投棄するべきか悩んでいた。


「いや、このまま進もう。こうなればどこでもいいから爆弾を落とせば勝ちだ。なんとかいくぞ。」

 ドーリットルは操縦手にそう伝えた。操縦士と副操縦士も覚悟を決めたのか、ゆっくりと頷いた。





 すでに爆撃隊は四機にまで減っていた。しかし、ドーリットルは諦めることなく機体を進める。すでに機体は穴だらけになり、搭乗員も半数近くが負傷していた。


「まもなく横須賀ですッ!!」

 操縦士がドーリットルにそう叫ぶ。ドーリットルもその目で造船所のクレーンやドックに入っている艦艇を確認した。


「よしッ!! 爆撃用意ッ!! 爆弾倉開けッ!!」

「イエッサーッ!!」

 ドーリットルが爆撃手に向かってそう叫ぶ。機体はゆっくりと爆撃進路に向かい、爆弾倉が開かれる。零戦隊も爆撃を阻止しようと必死に攻撃を仕掛けるが、ほとんどの機体が二十ミリ機銃を撃ち尽くし、七.七ミリ機銃のみでの攻撃であった。


「投下準備完了ッ!!」

「よし、全弾投下ッ!!」

 ドーリットルの号令により、Bー25から四発の爆弾が投下された。


「投下完了ッ!!」

「よし、このまま離脱ーー」

 ドーリットルが操縦士に命じようとしたとき、横須賀方面へ配備されていた高射砲の直撃を受け、機体は撃墜された。






「アメ公が爆弾を投下しやがったッ!!早く逃げろッ!!」

 横須賀工廠にいた工員の一人がそう叫ぶ。B-25から投下された爆弾は、工廠近くに着弾し、工廠施設の一部を破壊した。


「畜生...アメ公め...」

 防空壕から出てきた工員が破壊された交渉を見ながらそう呟く。その上空には、数機の零戦が上空で虚しく飛び続けてた。最終的に陸海軍航空隊は、Bー25爆撃機十三機の内九機を撃墜することができたが、ドーリットル中佐機を含む二機によって爆撃を受けてしまったのであった。

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