31. マレー攻略作戦
ーー十二月十八日 旗艦『長門』ーー
「そうか。『プリンスオブウェールズ』は撃沈できたか。」
「はい、さらに角田少将の部隊は、ペナン島等周辺の航空基地を全て叩いています。また、陸軍もブルネイに上陸を開始したそうです。」
「うむ、是非とも油田施設は無傷で手に入れたいものだな。」
堀長官は東南アジアの地図を見ながらそう呟く。
シンガポールは開戦日に角田少将率いる機動部隊が徹底的に叩いたため、イギリス東洋艦隊に関してはさしたる心配は無かったが、インドシナ方面にはオランダ海軍がいるため、油断はできなかった。
「内地に帰還予定の第一航空艦隊は、今はどのあたりかね?」
「大体ウェークの北方あたりでしょう。」
宇垣参謀長が堀長官にそう答える。
「となると、第一航空艦隊が帰還するのは、年明けといったところか。」
「それまでにシンガポールを落とせればいいのですがね。」
「まあ、それは無理だろう。」
「でしょうな。」
そう言いながら二人は、太平洋の地図をじっと見つめていた。
ーー空母『赤城』ーー
「あと二十日で内地か...」
空母『赤城』の飛行甲板で緋村はつぶやく。第一航空艦隊は現在、ウェーク島北方を航行していた。史実では第二航空戦隊がウェーク島攻略支援として分離していたが、史実とは変わっていた。
「しかしまあ、村田が護衛空母を着けさせたおかげで、攻略は上手くいってるみたいだな。」
緋村はウェーク島を見ながらそう呟く。史実ではウェーク島攻略は駆逐艦『疾風』と『如月』を失い、第一次攻略は失敗したが、この世界では護衛空母二隻から発艦した九六艦戦の上空援護により、F4Fの攻撃を防ぐことが出来た。
第二次攻略も護衛空母から発艦した九七艦攻や九六艦戦により、地上部隊の攻撃を行うなど、攻略部隊の支援を行っていた。
「『疾風』は沈んじまったが、『如月』は無事だし、このペースなら一週間もすれば攻略は完了するかもな。」
そう言いながら緋村は、艦橋の方へと歩いて行った。
ーー昭和十七年(1942年) 二月下旬ーー
その後、日本軍は破竹の進撃を続けていた。マレー半島、フィリピンには合わせて五師団ずつ上陸しており、シンガポール、マニラを目指していた。
米英軍はこれを阻止しようとM3軽戦車等を投入して食い止めようとしたが、陸軍の九七式中戦車によって撃破されていった。
その後二月にシンガポールの攻撃を開始し、二月十五日には陸軍はシンガポールへと突入した。パーシヴァル中将は徹底抗戦を唱えたが、相次ぐ敗退により、既に英軍の士気は最低にまで落ちていた。
そのため、戦闘開始の三時間後には英軍司令部に白旗が掲げられた。
「降伏するのかしないのか。イエスかノーかッ!!」
シンガポールのフォード工場での交渉で日本軍司令官の山下中将は、パーシヴァル中将に突き付けた。これに対しパーシヴァル中将はイエスと答えシンガポールは占領されたのであった。
この時、シンガポーのセレター軍港には角田機動部隊の攻撃によって損傷し、動けなくなった東洋艦隊の艦艇が数多くいたが全て接収された。
接収された艦艇はシンガポールに入港した工作艦『明石』によって修理が行われ、日本に曳航された。
その後南遣艦隊の角田機動部隊は、パレンバン空挺作戦の援護としてスラバヤに集結した連合軍艦隊を攻撃し、これを撃破した。
パレンバンには陸軍の空挺部隊が百式輸送機とロ式輸送機に乗り込み、マレー半島から出撃した。この時、空挺兵には百式短機関銃(空挺兵用に折り畳みストック式に改良したもの)が全員に支給された。
陸軍の飛行第64戦隊の一式戦の援護の元、空挺作戦は決行された。
落下傘で降下していく空挺部隊にオランダ軍は反撃を行うが、日本軍の攻撃に耐えきれず油田施設を占拠された。その後空挺部隊は、スマトラ島から上陸した部隊と合流することが出来た。
最終的に油田、精製施設の三分の一がオランダ軍によって破壊されたものの、残りは無傷で手に入れることが出来た。
「三分の一は破壊されてしまいましたが、三分の二は手に入ったので良しとしましょう。」
料亭の会合で緋村はそう言う。
「うむ、すでにスマトラにタンカーを十隻を向かわせている。内地に帰還予定は四月となっている。」
海軍大臣の山本大臣がそう報告する。
「フィリピンやマレー半島ではM3軽戦車などを鹵獲した。すでに海路で内地に送って技術研究を行っているところだ。」
「そう言えば戦車開発の方はどうなっているんですか?」
「ああ、すでに七十五ミリ砲を搭載した新型戦車の試作が完成したところだ。」
村田の問いに東條はそう答えた。
陸軍では戦前から対M4戦車対策として七十五ミリ砲搭載の戦車の開発を進めており、昭和十六年十一月には九〇式野砲を戦車用に改良したものを装備した新型戦車が完成した。また砲戦車の開発も進めており、八十八ミリ砲搭載の砲戦車の開発も開始されていた。
「それと、今後の予定ですが...」
緋村の言葉に、皆の顔が変わった。
「東南アジア、ニューブリテン島などは四月に占領予定だ。」
東條がそう答える。すでにトラック諸島には第四艦隊に護衛された輸送船団の出撃準備が整えられていた。
「はい、史実ではセイロン島作戦が行われましたが、これにもう一つ追加させましょう。」
「追加だと?」
「アッヅ環礁にいるイギリス艦隊の攻撃とアッヅ環礁の攻撃です。」
『ッ!?』
緋村の言葉に皆が驚いた。
「アッヅ環礁を攻撃するのかね?」
「はい。アッヅ環礁には残りのイギリス東洋艦隊がいるはずです。さらにアッヅ環礁を叩けばイギリス海軍は完全にインド洋から駆逐することが出来ます。」
「...成る程、しかし四月には帝都空襲があるぞ。」
山本が緋村に問う。
「帝都空襲は基本的に迎撃に徹するべきだと思います。横須賀、木更津基地に陸攻隊を配備し、敵空母部隊が来たら陸攻隊でたたく。発艦してきた爆撃隊は関東周辺の部隊で迎撃することで対処できると思います。幸い横須賀には『特零空』の試作戦闘機がいます。これらを投入するのも良いでしょう。」
「...だが、油断は禁物だな。」
「はい、一応自分も横須賀で待機しようかと思います。空技廠の試作機も完成しているとのことなので。」
「陸軍も高射砲部隊を配備させておこう。」
東條はうなずいた。
会合はそこで終了し、緋村と村田は神谷家へ帰った。
「どうしました、緋村さん?」
「何です、薫さん?」
「さっきから暗い顔をしてますけど...」
「あ、いえ、何でも。」
(何だ...この胸騒ぎは?)
緋村は何か釈然としなかった。
それは四月ですべて分かり、緋村は後に深く後悔したという。
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