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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
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30. マレー沖の死闘

 第一機動艦隊が真珠湾を攻撃していたころ、マレー方面でも陸海軍が動き始めた。


「撃ち方始めぇッ!!」

「撃てェッ!!」

 南遣艦隊の戦艦『伊勢』がマレー半島の海岸陣地へ向けて砲撃を始める。『伊勢』の放った砲弾は次々と海岸陣地に命中し、海岸陣地を破壊していく。二番艦の『日向』も『伊勢』と同じ様に砲撃を行い続ける。


「・・・砲撃は順調なようだな。」

「はい。敵さんからの反撃は今のところありません。」

 南遣艦隊司令長官の南雲中将の言葉に、参謀長の澤田虎夫少将がそう答える。


「角田の機動部隊はどうなっている?」

「すでにシンガポールへの攻撃を開始しているようです。攻撃隊からの電文が続々と届いています。」

「さすがは角田だな。」

 そう言って南雲はニヤリと笑う。この時、シンガポールへの攻撃を担当した角田少将率いる機動部隊は、シンガポールに停泊していた艦艇や地上施設を徹底的に破壊していた。


 角田は搭乗員の出撃前の訓示で発した言葉はただ一つであった。

「シンガポールを徹底的に破壊してやれッ!!」

 搭乗員達は角田の訓示の通り、シンガポールに停泊していたイギリス艦艇を攻撃し、多くの艦艇を沈めた。しかし、イギリス東洋艦隊の旗艦である『プリンスオブウェールズ』と『レパルス』の二隻は、シンガポールを無事脱出し、退避していた。


「すでに角田少将が、『プリンスオブウェールズ』の捜索を命じているそうです。」

「そうか。では、『プリンスオブウェールズ』と『レパルス』の二隻も、角田に任せるとするか。」

「分かりました。」

 そう言って参謀長は、すぐに命令を下した。




ーー空母『山城』艦橋ーー


「そうか、南雲さんは俺に任せてくれるか。」

 第三航空戦隊の旗艦である『山城』の艦橋で、角田が呟く。


「航空参謀、攻撃隊の状況は?」

「シンガポール攻撃を終えた部隊の収容が完了し、搭乗員に休息をとらせています。機体の方は、損傷した機体の修理などが行われている状態です。」

 角田の問いに航空参謀が答える。第三航空戦隊の搭載されている零戦は少なく、旧式の九六式艦戦が半数を占めていた。そのため、長距離からのアウトレンジ攻撃を行うことはできなかった。


「航空隊には敵が見つかり次第出撃出来るように命じろ。見つけ次第徹底的に攻撃させる。」

「分かりました。」

 そう言って参謀はすぐ航空隊に待機を命じた。





 それから二日後、『山城』から発艦した九七式艦攻が『プリンスオブウェールズ』を発見した。

 報告を聞いた角田はすぐに攻撃を命じた。


「全機、何があっても奴らを沈めろ!!航空機が戦艦を沈めることが出来ることを世界中に知らしめてやれ!!」


 角田の号令の下、攻撃隊が次々と発艦していく。攻撃隊はフィリピン攻略の支援に向かった『龍驤』を除いた『扶桑』、『山城』の二隻であり、二隻から発艦した五十七機(零戦十八機、九九式艦爆十二機、九七式艦攻二十七機)が『プリンスオブウェールズ』に向かっていった。





ーー戦艦『プリンスオブウェールズ』艦橋ーー


「レーダーに反応!!ジャップの攻撃隊です!!」

「やはり来たか...」

 イギリス東洋艦隊司令長官のトーマス・フィリップス提督は『プリンスオブウェールズ』の艦橋でそう呟く。



「敵は何が何でも我々を沈める気だな...だが、そうはいかんぞ。全艦、対空戦闘用意ッ!!奴らを丁重にお迎えしてやれッ!!」

 フィリップスの号令で対空砲が攻撃隊に向けて火を噴く。攻撃隊は怯むことなく『プリンスオブウェールズ』に向けて攻撃を行う。



「撃て撃てッ!!アイツ等を近づけさせるなッ!!」

 『プリンスオブウェールズ』の高角砲やポンポン砲が水面スレスレを飛ぶ九七式艦攻に向けて唸りを上げる。しかし、九七式艦攻の速度が速く、高角砲弾のほとんどは九七式艦攻の後方で炸裂していた。



 弾幕を突破した雷撃隊は、『プリンスオブウェールズ』に向けて一斉に魚雷を投下する。『プリンスオブウェールズ』は投下された魚雷を回避しようとするが、一本の魚雷が艦尾に命中した。



「報告しますッ!!操舵装置、雷撃により故障ッ!!」

「なんだとッ!!」

 伝令員の報告にフィリップスは驚く。舵をやられた『プリンスオブウェールズ』は右に舵を取り続け、大きな航跡を描き続けていく。



 攻撃隊はそれを見逃すはずが無く、次々と『プリンスオブウェールズ』に殺到し、攻撃を浴びせかける。



「左舷機関室に浸水!!速力二十ノットに低下!!」

「右舷高角砲二基損傷!!」

「応急班を急がせろ!!」

 艦橋にいるフィリップス提督に次々と被害報告が届く。日本軍の攻撃により『プリンスオブウェールズ』の高角砲やカタパルトはまるでスクラップのような状態になり、艦橋の目の前に設置された第二砲塔も大きくへしゃげていた。



「なんということだ...」

 フィリップス提督は艦橋で立ちすくんだまま呟く。すでに『レパルス』は日本軍の集中攻撃により、深い海底へと沈んでいた。『プリンスオブウェールズ』も既に七本もの魚雷を受け、左に大きく傾き、沈没するのも時間の問題だった。



「提督...」

 参謀の一人がフィリップス提督に声をかける。その顔は、真っ青に青ざめていた。



「全乗組員に次ぐ...総員、退艦せよ...総員退艦せよ...」

 フィリップス提督は絞り出すようにそう言った。そして、一隻の駆逐艦が『プリンスオブウェールズ』に横づけし、乗組員の救助を開始した。



 フィリップス提督も退艦を促されたが、フィリップスは「ノーセンキュー」と答え、退艦を拒否した。そして、『プリンスオブウェールズ』は、フィリップス提督とともにマレー沖に没した。生き延びた乗組員達は、その様子を涙を流しながら眺めていたという。






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