27.開戦前
昭和十六年(1941年)十一月二十六日
この日、第一機動艦隊は択捉島の単冠湾に集結していた。湾内には『赤城』、『加賀』等の空母六隻を中心とした空母部隊に、防空戦艦『比叡』、『霧島』。護衛部隊の第十戦隊等の艦艇がひしめき合っていた。
「うー寒い寒い。さすがに北方は冷えるな。」
第一機動艦隊の特務参謀として就任したばかりの緋村は、支給された防寒着を羽織ながらそう呟く。第一機動艦隊の旗艦である『赤城』では整備員達が機体の整備をしたり、乗組員が艦の端で釣りをしたりするなど思い思いに過ごしていた。
「やあ特務参謀。調子はどうだね?」
緋村は声の掛けられた方へ振り向くと、艦隊司令長官である塚原中将が後ろに立っていた。
「つ、塚原長官。どうされたんですか。」
「なに。少し艦内の様子を見て回ってただけだ。おかしな事はしておらん。」
「そうですか。草鹿参謀長はどうされたのですか?」
「草鹿は源田と一緒に作戦の確認をやってる。だから俺は今手持ち無沙汰というわけだよ。」
そう言って塚原はニカリと笑った。
「しかし、ハワイ攻撃か...」
「今頃はアメリカで最終交渉をしてるところでしょう。」
塚原の呟きに緋村はそう答える。
「えらいことを引き受けてしまったかもな。」
「長官らしくないですよ。もっと堂々とするべきです。」
「確かにな。引き受けたからには、徹底的にやるしかない。」
「その通りです。長官。」
そう言って緋村は、飛行甲板に並べられた零戦の姿を見つめたのだった。
その頃、首相官邸では米内をはじめとする内閣の大臣が集まっていた。
「こんなものを認められるか!!」
東條は手渡された紙の内容を見てそう叫ぶ。他の大臣達も皆その内容に驚きを隠せないでいた。
「...吉田さん。アメリカはこれを飲まない限り交渉には応じないと?」
米内も表面上は落ち着いた様子を見せていたが、内心はとても驚いていた。
「(この内容は酷すぎる...)」
アメリカは今後の日米交渉はハル国務長官から渡されたハル・ノートを飲まない限り交渉に応じないとハル長官は駐米大使の野村大使に言っている。
ハル・ノートの内容は史実とほぼ同じだったが、史実の中国からの撤退の代わりに、台湾、満州国からの撤退と、仏印、南樺太、千島列島からの撤退も含まれていた。
「国際世論はあてにならんでしょう。おそらく英米が工作しているでしょう。」
吉田大臣は葉巻を吸いながらそう答える。
「...皆さん。」
その時、米内は口を開いた。
「こちらも覚悟を決めるしかないでしょう。最早今の日本の状況は四面楚歌と言っても良いでしょう。」
「ではやはり...」
「はい。残念ながら大日本帝国は、十二月八日に米英蘭に宣戦布告を行います。」
米内の言葉が部屋内に響いた。この日、日本は戦争の道へと進むことが決定されたのであった。
ーー十二月一日 皇居ーー
この日、皇居の千種の間にて天皇陛下を含めた御前会議が行われた。
「...米内よ。やはりもう開戦しか無いのか?」
一通りの報告を聞いた陛下は米内に尋ねた。
「...残念ながら...アメリカはイギリスを助けるため、太平洋を手中に入れるため我が日本と徹底的にやりたいようです。」
「...やむを得ぬか...」
そう呟いた陛下は、千種の間を後にした。そして、陛下がいなくなった千種の間で米内は東條達を見た。
「...開戦だ...」
米内はそう言った。
ーー同日 空母 『赤城』
「そろそろハワイか...」
艦橋から海を眺めていた緋村は、そう呟いた。艦橋には塚原長官や草鹿参謀長。航空参謀の源田実中佐などの面々がいた。
「やはり対米戦となるのでしょうか?」
緋村は隣にいた源田参謀にそう尋ねた。
「恐らくはそうなるだろう。しかし、なにも起こらなければ、我々は引き返すだけだ。」
そう言って源田参謀は鷹のような目を細めながらそう答えた。
「しかし、開戦になれば、アメリカに見せつけてやればいい。」
緋村と源田参謀の会話を聞いていた塚原長官がそう言った。
「長官、何をですか?」
「...我々日本人を怒らせたら、どうなるかと言うことだよ。」
塚原長官の言葉に、艦橋にいた全員が気を引き締めた。運命の開戦の日は、刻一刻と近づいていた。
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