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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
26/38

26.嵐の前

 昭和十六年 十月十五日


 この日、村田と杉野の二人は参謀本部の場所に設置された陸海軍の大本営に来ていた。集まった場所には陸海軍の参謀達が顔を揃えていた。


「それで...対米戦における作戦についてだが...」

 集まった参謀達は前に立つ村田を見つめた。


「今回は連合艦隊司令部が作成した作戦を説明したいと思います。」

 そう言って村田は参謀達に一人二枚の紙を手渡した。


「こ、これは...」

「なんと...」

 参謀達は口々に話す。


「質問はあとでお聞きします。では説明を行います。」

 そう言って村田は指揮棒を持って前に貼っている世界地図の場所を指した。


「まず海軍ですが、開戦始めにアメリカ太平洋艦隊の根拠地である真珠湾に奇襲攻撃を行い、ハワイの航空戦力と太平洋艦隊、基地施設等を徹底的に攻撃します。この作戦には空母部隊を主力とした第一機動艦隊が担当します。」


「いきなりハワイをかね?」

「はい。開戦当初は南方の資源地帯を素早く押さえねばなりません。そのためには、ハワイの太平洋艦隊は必ず叩かねばなりません。」

 そう言って村田は質問してきた参謀にそう答える。


 村田が説明しているこの作戦は、史実の真珠湾攻撃のことである。しかし、南方作戦はいくつか変更点が加えられていた。


「その後、ウェーク島はトラック島で待機させた第四艦隊で攻略します。また、第四艦隊には海上護衛隊の護衛空母二隻も追加させます。」


「南方方面はどうなのだ?」

「南方方面に関しましては陸軍はタイから進撃する部隊と南遣艦隊に護衛させた輸送船団をコタバルから上陸する部隊に分けます。そして南遣艦隊の空母扶桑、山城、龍驤などの空母部隊はシンガポールを攻撃します。」


「イギリスに気づかれる事は無いのか?」

「南遣艦隊の派遣はタイの訪問と言うしかありません。まあ向こうも此方が動くまでは手は出せないでしょうが。」


「南方作戦支援として、堀長官は伊勢と日向の派遣を予定しております。」

『オオオッ!!』

 連合艦隊から派遣された宇垣参謀長の言葉に陸軍関係者は大いに喜んだ。海軍の主力は戦艦から空母へと変わりつつあるが、その存在感はいまだ大きなものであった。








 ー十一月初旬 ホワイトハウスー


「プレジデント。日本は戦争の準備をしているようです。」

「そうか。ようやく日本は我々の誘いに乗ってくれたか。」

 ホプキンスの報告にルーズベルトはニヤリと笑った。


「しかし、本当にアメリカにいるジャップどもを返してよかったのですか?」

「構わん。日本にいた同胞たちが帰ってくるのだ。」

 そう言ってルーズベルトは机に置かれていた別の資料に目を通す。


「...ジャップは東南アジアを攻める気なのだな?」

 ルーズベルトは海軍作戦部長のハロルド・スタークと陸軍長官のヘンリー・スティムソンに尋ねた。


「イエス。台湾方面に偵察に出したB-17からの報告によりますと、多くの輸送船団が台湾に集結しており、海軍情報部の考えでは開戦後に東南アジアに攻め込むと考えています。」

 スタークはルーズベルトの問いにそう答える。


「...そうなるとフィリピンは捨て石になるな。マッカーサーからの要請で支援は送ってはいるが、おそらく陥落するだろう。」

「では、支援を打ち切るのですか?」

「いや、時間稼ぎのために数を減らして送れ。」

 ルーズベルトはフィリピンを捨て石にすることを決め、スティムソンにそう命じた。

 

「分かりました。すぐにそう手配しておきます。」




 同日 横須賀基地


「なんかガラーンとしてますね。」

 大島は指揮所の椅子に座りこみながら緋村にそう話しかける。


「仕方ねえだろ。武藤は台湾、土方は新設の第五航空戦隊に異動して、ほかの連中も別の部隊に転属しちまってるんだから。」

 そう言って緋村は大島の問いに答える。この頃海軍の多くのパイロットは、開戦に向けて台湾などの基地に異動となっており、緋村の部下である武藤や親友の土方も別の部隊へ異動していた。


「俺たちは留守番組ってわけですか。」

「まあそう言うな。留守番も大事だからな。」

「そりゃあそうですけど...」

 そうやって二人が話していると、一人のパイロットが緋村を呼びに来た。


「緋村大尉。司令が呼んでます。」

「司令が?なんでだよ。」

「良く分かりませんが、とにかく大事なことらしいのですぐに来いって言ってます。」


「ああ、今行くよ。じゃあ行ってくるわ。」

「緋村大尉、まさか転属じゃないですよね。もし緋村大尉まで転属になったら俺一人ぼっちですよ。」

「まあまあ。あとで伝えるから。」

 そう言って緋村は基地司令のもとへ歩いて行った。


 司令のいる部屋に入った緋村は折り目正しく敬礼を行い、司令のもとへ歩みよった。

「緋村君、良いニュースだ。」

「何がですか。」


「君に第一機動艦隊への転属命令が出た。光栄なことだぞ。」

「分かりました。それで、どこの空母の所属ですか?」

「いや、君はパイロットとしてではない。」

「ハイ?どういうことですか?」

「まあ詳しくはこれを見たまえ。」

 そう言って司令は一枚の紙を渡した。そこに書いていたものは...


 

 --緋村隆一海軍大尉、十一月十日付で第一機動艦隊特務参謀に命ずる。--



 緋村は驚きのあまりしばらく呆然とした。しかし、すぐに気を取り直し司令に尋ねた。

「あ、あの...これは一体?」

「書いてある通りだろう。第一機動艦隊の特務参謀に君が選ばれたのだよ。良かったな。」

「いや、あの...マジですか。」

「本気と書いてマジだ。すぐに転属の準備をした方がいいぞ。近いうちに大きな作戦があるらしいからな。

「は、はい...分かりました。」

 そう言って緋村は司令に敬礼し、大急ぎで司令室を去った。


 そしてその数日後、緋村は柱島泊地に到着し、第一機動艦隊特務参謀に就任したのだった。

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