21. 海軍提督と荒鷲
昭和十五年(1940年)七月 横須賀
日中の暑い日差しが去り、月が夜空に輝くその夜、山本連合艦隊司令長官は横須賀の料亭「小松」にて一人の男を待っていた。
山本は女将から出されたお茶をすすりながら、その到着を待っていた。やがて、山本のいる部屋に軍服を着た一人の男が入ってきた。
「よう。久しぶりだな、堀。」
「ああ。久しぶりだな、山本。」
その男は、山本の兵学校の同期であり、親友である堀悌吉海軍予備役中将であった。
山本は堀を座らせ、女中に料理と酒を頼んだ。その後しばらくは二人はお互いの近況を交えたりしながら話をしていたが、しばらくして堀が山本に質問した。
「ところで山本。俺を呼んだ理由とはなんだ?」
「理由?」
「とぼけるな。天下のGF(連合艦隊)長官が俺みたいな予備役の人間を意味無く呼ぶわけが無い。なにか理由があるんだろう?」
そう言って堀は酒を一気に飲み干した。山本は少しの間黙ったままであったが、しばらくして口を開いた。
「実は今日来てもらったのは、ある重大な話をするためだ。この事は絶対に他言無用としてくれ。」
「ああ、分かった。それで、その話とは?」
「堀、今の米国との関係はお前も知ってるな?」
「ああ、去年米国が屑鉄や工作機械の禁輸を発表したな。」
この頃のアメリカとの関係は、少しずつ悪化していっていた。特にドイツへの艦艇輸出を非難し、屑鉄と工作機械の禁輸処置を行った。
「米国は中国の利権を狙ってる。だから日本が邪魔なんだろうな。」
「俺は近いうちに米国との戦争が起こると考えてる。」
「そうなったらこの国は滅びるぞ。」
「いや、そうなったらじゃない。必ず起こると言っても良いだろう。」
「何?」
堀は山本の言葉に驚いた。
「山本、なぜそう断言できるんだ?」
「俺の予想では来年の終わりぐらいに開戦すると考えてる。」
「だがルーズベルト大統領は選挙の公約に国民を戦争には送らせないといってるんだぞ。」
「米国が攻めてくるんじゃない。こっちから手を出させようとあらゆる手を使ってくるだろう。」
「なぜそう断言できるんだ?」
「未来でそうなるからだ。」
堀は山本の言葉に驚き、持っていたお猪口を床に落とした。
「み、未来で?どういう事だ?」
「信じられんだろうが、未来からやって来たという少年がそう言ったんだ。」
「おい山本。ふざけるのも大概にしろ。いくら同期とはいえ、そんな法螺話を信じろと言うのか?」
堀は山本に対し怒気を交えながらそう言った。
「そう言うと思って証拠をちゃんと持ってきてるよ。」
そう言って山本はおもむろにスマートフォンを取り出した。堀も机に置かれたスマートフォンを見て驚きを隠せずにいた。
「これは...なんだ?」
「携帯電話という未来の電話機だ。文章を送ったり、カメラで写真を撮る事もできるらしい。」
堀は恐る恐るスマートフォンの画面を触った。画面に触れてみると画像が表示された。
「これは...確かに今の技術では作れる代物ではないな...」
「信じてくれたか?」
「こんなものを見せられたらな。」
そう言って堀は苦笑いを浮かべた。
「未来の事は分かった。だが話の本題を聞けてないんだが?」
「ああ、話してて忘れていたよ。」
山本は笑いながらそう答えた。
「実はな、海軍でお前を復帰させようという話をしていてな。すでに海軍大臣になった吉田が話を進めてるんだ。」
「何だって?俺が海軍に戻れるのか?」
「それでお前の気持ちを聞くために呼んだんだ。それで、お前はどうする?」
「ふうむ...分かった。こんな俺だが、精一杯やってみせよう。」
「ありがとう。堀。」
そう言うと山本は堀と固い握手をした。
それから一週間後、堀中将は正式に海軍に復帰し、第三艦隊司令長官に就任したのであった。
山本長官と堀中将の会談の翌日、杉野は陸軍航空総監である東條中将とともに明野陸軍飛行学校にやって来ていた。
二人は明野でテストを繰り返していたある試作機の視察のため、明野へとやって来ていた。
「ふむ、これがキ43か。」
東條は飛行場の駐機場に置かれた一機の戦闘機を見て呟いた。
その機体とは、後に陸軍の代表的戦闘機となる一式戦『隼』であった。しかし、その姿は史実とは異なっていた。
「見た目としては二型の後期型に似ていますね。」
キ43の姿を見ながら杉野は呟いた。
このキ43は九七式戦との比較試験の後に改良が行われた機体で、エンジンを三菱のハ102エンジンを搭載し、プロペラを三翅プロペラに変更、さらに推力式単排気管と蝶型フラップの装備などの多岐にわたる改良が行われた。
ちなみにエンジンについては当初中島飛行機は自社製のハ25エンジンの搭載を予定していたが、陸軍のごり押しにより三菱製のハ102が搭載されることとなった。
「エンジンや審査部のパイロットとかでいろいろ一悶着ありましたが、何とかここまでこぎつけましたね。」
「うむ、史実の機体よりも高性能に仕上がっているし、すでに先行量産型を一部部隊に配備させて訓練を行っているそうだ。」
陸軍ではすでに先行量産型として『隼』四十機を部隊に配備していた。配備された部隊は飛行第64戦隊と第50戦隊の二部隊であり、慣熟訓練が行われていた。
「中島では重戦のキ44の開発も行われているそうですから、航空機は万全ですね。」
「うむ、そうだな。」
そう言いながら二人は、滑走路を飛び立つ『隼』の姿を、じっと見つめていた。
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