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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
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20. 鬼の副長

 昭和十五年(1940年) 三月十五日


 第零特別航空隊(通称「特零空」)の設立後、緋村達はいつもの料亭で会合を行った。

「ソ連が冬戦争を終結させたが、フィンランドへの武器輸出は続けるのかね?」

 会合に集まった東條が杉野に尋ねた。


「続けるべきでしょう。三八式野砲も改造型を含めてまだありますから、それを送りましょう。」

 東條の言葉に杉野が答える。

 日本は冬戦争勃発後に陸軍の在庫一掃を兼ねてフィンランドへ武器輸出を行った。輸出した武器は三八式野砲とその改造型と三八式歩兵銃などで、それらの武器をフィンランドに格安で提供していた。


 それらを積んだ輸送船はフィンランドで陸揚げされた後、ドイツから輸入する工作機械を受け取って日本に帰港している。


「旧式の武器ばかりがあっても意味はないからな。武器の更新もこれで進むだろう。」

「そういえば九九式歩兵銃の配備が始まったと聞いていますが?」

「うむ、既に配備は開始させている。」

 九九式小銃(九九式短小銃)は史実の欠点を改良したもので、既に各師団に少しずつ配備されている。


「ところで山本長官、海軍の方はどうなっておられますか?」

「海軍は今のところマル4計画の艦艇と松型駆逐艦、白鷹型護衛空母を中心に建造しています。それと、雲龍型航空母艦の建造の準備も進められているそうです。」


 東條の問いに山本長官が答えた。マル4計画は巡洋艦などの艦艇は史実通りだが、ある大きな変更が行われていた。


「しかし、110号艦と111号艦を建造中止にしたのはさすがに驚きましたよ。」

 緋村はそう言いながら苦笑いを浮かべた。

 海軍では半年前、山本や米内の差し金によりマル4計画で計画されていた第110号艦と111号艦(大和型戦艦三番艦と四番艦)の建造が中止された。これには軍令部等の海軍各所が大反対したが、大艦巨砲主義者であったはずの伏見宮殿下が山本長官達の側についたため、渋々認めざるを得なくなったのであった。


「まさか殿下が裏でこちらと繋がってるとは思わなかったでしょうね。」

「まあ殿下も敗戦の未来は望まれてはいないからな。」


 実は伏見宮殿下は山本長官から緋村達の未来情報を聞かされていた。当初はその話を疑っていたが、第二次大戦の勃発や冬戦争等が起こったため、山本長官達に協力すると決めたのであった。


「殿下の協力が無ければこうも上手くいかなかっただろう。感謝するしかないな。」

「しかしこれで山本長官に恨みを持つ連中が増えることになります。長官もお気を付けてください。」

「それは緋村君達もだろう。特に村田君は神谷中佐とともに裏で動いているから、用心した方がいい。」

「備えはしてますよ。」

 そう言って村田は胸元から十四年式拳銃を取り出した。


「そういえばアメリカとの交渉はどうなっていますか?」

「・・・やはり上手くいってないらしい。日中戦争が起こらなかったとはいえ、関係は悪化の一途だ。」

 山本長官は苦い顔をしながらそう答えた。


「アメリカの動向には注意していくべきですね。」

「うむ、そうだな。」

 山本長官達はそう頷きながら答えた。




 それから三か月後、緋村の姿は横須賀飛行場にあった。

「おい武藤、調子はどうだ?」

「あ、分隊長。上々ですよ。」

 着陸した零戦の操縦席から降りた武藤に対し、緋村は声をかけた。


 零戦は今年の六月に正式採用され、機動部隊や各基地航空隊に配備が開始され始めていた。しかし、基地航空隊への配備は今のところ横須賀と岩国航空隊のみであった。


「急降下制限ですが、650キロの辺りで振動が激しくなるので、630キロ程が妥当かと思います。」

「分かった。上にはそう具申しておこう。」

「しかし改めてこの機体は良いですね。ノモンハンで戦ったIー16なんかイチコロですよ。」

「当たり前だ。こいつならドイツのメッサーシュミットやイギリスのハリケーンにも勝てるぜ。」

 そう言いながら緋村は零戦の主翼に手を置いた。


「そういえば土方はどうした?」

「土方大尉なら編隊飛行訓練で飛んでいます。そろそろ戻る時間ですよ。」

「そうか。ならいいや。」

「ところで分隊長。最近土方大尉なんて呼ばれてるか知ってますか?」

「いや、知らないな。なんて呼ばれてるんだ?」


「『鬼の副長』だそうですよ。」

「『鬼の副長』?何で副長なんだ?」

「若いやつから聞いたんですが、新撰組の土方歳三とかけてそう呼んでるらしいですよ。」

「ハハハ、確かにあいつの訓練は一段と厳しいからな。」

「誰の訓練が厳しいって?」

 緋村が驚いて後ろを振り向くと、そこには飛行服を着た土方が立っていた。


「土方、急に後ろから声をかけるなよ。びっくりするじゃねえか。」

「緋村こそなに俺の話してんだよ。気にもなるだろ。」

「すまんね副長さんよ。」

「その呼び方やめてくれ。あまり好きじゃねえんだ。」

「良いじゃねえか格好いいし。それに結構似てるしな。」

「それはどういう意味だバカヤロウ。」

「痛い痛い。殴んなって。」


 その後しばらくの間、緋村が土方をからかって追いかけられるといった光景が続いたと言う。



 

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