19. 第零特別航空隊
今回は会話が多めです。
昭和十五年(1940年)一月 神谷家
年が明け、賑やかな正月が過ぎた神谷家では、いつもの静けさが戻っていた。緋村は正月休みを利用して鎌倉に薫とともに出掛けていた。
「正月も三が日を過ぎると、どこの神社も参拝客が減りますね。」
「そうですなあ。薫さん。」
鶴岡八幡宮の参拝を終えた二人は、石段を下りながらそんな話をしていた。ちなみになぜ二人が鎌倉に来ているかと言うと、緋村が鎌倉に行ってみたいと言ったため、薫が案内ついでに一緒に行くことになったのである。
「私はお父さんと友達のお土産を買いに行きますから、緋村さんは少し待っててください。」
「ええ、分かりました。」
そう言いながら土産物屋へと向かう薫を見送った後、緋村は近くの店を物色していた。
その時、緋村は土産物屋の前を歩いていた一人の外国人の上着のポケットから財布が落ちたのに気づいた。緋村はそれを素早く拾い上げ、持ち主の外国人に英語で話しかけた。
「すみません。財布を落としましたよ。」
緋村の声に気づいた持ち主はすぐに緋村の方に振り向いた。持ち主は男性で見た目からして緋村と同じくらいの年齢に見えた。
「おお、すまない。これが無ければホテルに帰れなくなるところだったよ。」
持ち主はそう言いながら緋村に感謝を述べた。
「いえいえ。しかし珍しいですな。お一人で日本に観光とは。」
「休暇を利用して子供の頃から行ってみたかった日本に来たんだよ。」
しばらくして二人はすっかり意気投合し、近くにあったベンチに腰かけ話を続けた。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は緋村隆一。日本海軍のパイロットだ。」
「私の名はグラハム・イェーガー。ヒムラと同じくアメリカ海軍のパイロットだよ。」
「へえ、パイロットなのか。空母乗りか?」
「いや。空母のパイロットではないな。ヒムラはそうなのか?」
「残念ながら俺も空母乗りではないんだよ。いつかは乗りたいと思ってるけどな。」
「まあ、空母にはベテランの凄腕しか乗れないからな。」
「そこはどこの国も一緒なんだな。」
「ハハハ、そうだな。」
そう言いながら二人はお互いの国の航空機やパイロット事情などを話し合った。
「もう少し話をしていたいが、もうすぐ汽車の時間なので行かなければならない。」
「そうか、こっちも長々と話をしてすまなかったな。」
「いや、私も楽しい時間を過ごせてとても嬉しかった。またいつか会おう。」
「ああ、またいつか。」
そう言って二人はお互いに握手をした。しかしこの数年後、二人は思いがけぬ形で再会する事となるのだった。
グラハムと別れて薫のいる土産物屋に向かうと、薫が店の前で膨れっ面で立っていた。
「緋村さん、どこへ行ってたんですか?」
薫は膨れっ面のまま緋村に尋ねた。
「あ、いや、グラハ...外人さんが落とした財布を拾って返した後、同じパイロットってことで気があって、そのまま話し込んでしまって...」
「本当ですか?」
「海軍軍人ウソツカナイ。」
「ハア...分かりました。そういうことにしておきます。ただし、帰りは私の荷物全部持って下さいね。」
「ア、ハイ。(信じてもらってないな...)」
そう思いながら緋村と薫は、鎌倉を後にしたのであった。
それから数週間後、緋村は横須賀航空隊の司令に呼び出された。
「一体俺に何の用だろうか?」
そう一人呟きながら、緋村は司令官室へと到着した。
「緋村中尉、入ります。」
「うむ、入れ。」
そうして緋村は部屋へ入ると、司令の前へと進みよった。
「司令、私に用があるとお聞きしましたが、なんでしょうか?」
「うむ、実は三月に新しい部隊がここ横須賀に設立されることになってな。」
「新しい部隊?なぜ横須賀にですか?」
「上からのお達しでな。横須賀に特別実験部隊を作ることになったらしい。といっても今の審査部から一部独立するだけだがな。」
「その特別実験部隊というのは、どのような任務なのですか?」
「基本的には新型機のテストだが、有事の際には最前線での実戦試験を行うということになっている。まあ詳しくはそこの資料を読んでくれ。」
そう言って司令は机に置かれていた資料を緋村に渡した。
「それでこの部隊と私にどのような関係があるのですか?」
「ああ、君にはその部隊の分隊長になってもらう。」
「え!いや、あの自分階級は中尉なんですけど?」
「三月付けで大尉に昇格することになってる。だから問題は無い。」
「いや、でも...」
「なんだ、嫌なのか?」
「い、いえ...そんなことはありません。」
「そうか。詳しいことは追って伝える。下がってよし。」
「は、はい。失礼しました。」
そう言って緋村は司令官室を後にしたのであった。
司令の話が終わった後、緋村は飛行場にいる土方に声をかけた。
「おーい、土方。ちょっと良いか?」
「うん?緋村。司令に呼ばれたんじゃなかったのか?」
「いやな、その事で話があってな。」
そう言いながら二人は格納庫の脇の方に移動した。
「実は三月に新しく横須賀に航空隊が設立されるらしいんだが、そこの分隊長になるように言われてな。」
「ふうん。良いじゃないか。」
「それがなあ...ちゃんと務まるか不安でな。」
「そんなのいちいち気にしてたら何にもできねえぞ。」
「そうなんだけど...どうしてもな。」
「...よし、分かった。俺もその部隊に入る。」
「エッ!!本気か!?」
「ああ、本気だ。それに、俺も一緒だったら心強いだろ?」
「土方...お前。」
「俺とお前の仲じゃねえか。遠慮すんなって。」
「ありがとう。土方。」
そういって緋村は土方に感謝を述べた。
それから二ヶ月後、追浜飛行場にて新たに『第零特別航空隊』が設立された。その中には緋村と土方、そして緋村の部下であった大島二空曹の姿があった。
「新しい部隊といってもそんなに変わりませんね。」
部隊の設立式が終わり、緋村と大島が話をしていた。
「そうは言っても新しい部隊なんだから、前みたいに同じ小隊じゃないんだぜ。」
「分かってますよ。そんな事より緋村隊長は分隊長がんばって下さいよ。私は応援してますよ。」
「ありがとな。大島。」
そう言って緋村は大島の所を後にした。
その後、緋村は自分の分隊の搭乗員割りを確認しにいこうとした時、一人の下士官から声をかけられた。
「緋村隆一大尉でありますか?」
「確かにそうだが、あなたは?」
「失礼しました。私は武藤金義と申します。緋村大尉の小隊の二番機を勤めさせてもらいます。」
(あ、あの『空の宮本武蔵』が俺の二番機かよ!!)
緋村はまさか自分の二番機が後に『空の宮本武蔵』として知られる武藤金義であるとは思っても見なかったのであった。
ご意見ご感想お待ちしています。ちなみに今回登場するグラハムのモチーフはガ○ダムのキャラです。




