表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋の双翼  作者:  カズヤン
18/38

18. 防空戦艦比叡、竣工ス

 昭和十四年 十一月 横須賀


 ノモンハン事件の終結からおよそ二ヶ月。季節は冬に近づき、少しずつ寒くなっていくなか、横須賀の追浜おっぱま飛行場上空に二機の九六艦戦が模擬空戦を行っていた。


「お、模擬空戦か。誰がやってるんだ?」

 格納庫の脇で見ていた緋村はそばにいた整備員に尋ねた。


「今は土方中尉と大島二空曹の二人がやってるところです。しかし土方中尉強いですね。大島二空曹を圧倒してますよ。」

「あいつは訓練生の頃も抜きん出て強かったからなあ。大島じゃ敵わんかもなあ。」


 緋村の言葉通り、土方が乗る九六艦戦が大島の機の後ろについたまま離れない。大島機もあらゆる手を使って振り切ろうとしているが、土方機は逆に距離を積めていた。


 しばらくして模擬空戦が終わったのか、土方と大島の機体が飛行場に着陸した。

「おい大島。どうだった土方との模擬空戦は?」

 緋村は少し意地悪な顔をしながら大島に尋ねた。

「いやあ、参りました。土方中尉には敵いませんよ。」

 大島はげっそりとした顔をして答えた。


「しかし土方。お前ももうちょっと加減してやれよ。あんなにしつこく追い回さなくってもよ。」

「実戦ならとっくに撃墜されてお陀仏だ。」

「ハハハ...お前なあ...」

 緋村は土方の言葉に苦笑いを浮かべた。


「しかし、横空の無線機は聞きやすいな。大村のやつは雑音だらけで全く使い物にならなかったぜ。」

「ああ、うちのやつは試験的に無線機の改良型を使ってるからな。」


 ノモンハン事件が終結してから、海軍は編隊空戦などの訓練に力を入れていた。横須賀航空隊でも編隊空戦の戦術研究や無線機の改良などを行っていた。特に、無線機の改良は陸海軍ともに力を入れており、これにより陸海軍は史実よりも速く無線機を多用した編隊空戦を取り入れるようになったのである。


「十二試艦戦(零戦)も来年には採用されるし、俺たちも航空隊のために頑張ろうぜ。」

「十二試か。あれは良い飛行機だよな。でかいけどスピードがある。」

 テストパイロットとして参加している緋村と土方はそう言った。


「そういえばそろそろ試験飛行の時間ですね。急ぎましょう。緋村中尉。」

「おう、分かった。」

 そう言って緋村たちは、格納庫の方へと駆けて行った。


 同日 横須賀港


 緋村達が訓練を行っていた頃、村田は艦政本部の神谷中佐とともに横須賀の海軍工厰に来ていた。そこにはある一隻の戦艦が改装工事のためドックに入渠していた。


「あれが比叡ですか。」

 村田はドックで改装が行われているその船の名を呟いた。そこには練習戦艦から戦艦として生まれ変わろうとしている比叡がいた。


 比叡はワシントン条約の際に練習戦艦に改装され、条約の期限が切れた際に大改装が行われていた。しかし、その内容は史実とは違っていた。


「しかし、比叡を防空戦艦に改装させるなんて、思いきったことをしましたね。神谷中佐。」

「山本長官の口添えがなければ、この改装案は通らなかったかもしれんな。」そう言って神谷中佐は改装内容の書かれた書類を村田に渡した。


 昭和十一年から始まった比叡の改装は、他の金剛型と同じく機関や装甲の強化が行われる予定であったが、昭和十二年に新たに対空兵装を追加し、防空戦艦とする変更案が出された。技術者達は突然の変更に戸惑ったものの、最終的に副砲を一部撤去させ、十二.七センチ高角砲四基から六基への変更、さらに二十五ミリ三連装機銃を大幅に追加させることで纏まったのであった。


「この比叡は機動部隊の護衛、つまり空母部隊の『盾』としての役割を担うこととなっている。比叡の運用実績次第で他の金剛型も同じ改装を行うそうだ。」


「昭和十六年の末までに最低でも二隻は欲しい所ですね。」

 そう言って村田と神谷中佐は、ドックの中にいる比叡を見つめたのであった。


その夜、緋村達は久し振りに神谷家への家路をまっすぐ向かっていた。

「ただいま帰りました。」

「あ、緋村さん。村田さん。お帰りなさい。」

 緋村達の帰宅を薫は玄関で出迎えてくれた。


「今日のご飯は焼き鮭ですよ。」

「やった。俺の大好物だ。」

「緋村さん本当に焼き鮭好きですよね。」

 そう言いながら緋村と薫が部屋へと進んでいくのを、村田はじっと見ていた。


(なんかノモンハンから二人の距離が近づいているような...)

 村田の予想通り、緋村と薫はノモンハン事件以来お互いにより親しい仲になっていた。事実村田は二人が頻繁に暇を見つけては一緒に出かけたり、二人きりで話したりする場面をよく見かけていた。


(いい加減告白してしまえば良いのになあ。)

 そう村田は少し呆れながら、自分の部屋へと向かっていったのであった。







ご意見ご感想お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ