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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
16/38

16. ノモンハンは血に染まる.3

※11/27 修正しました。

 上田の戦死からおよそ一ヶ月後、緋村の所属する横須賀航空隊に新型機が到着した。


「これが新型の五号艦戦か...」

 緋村はそこに鎮座する九六艦戦改(九六式五号艦戦)を見ながらそう言った。この九六式五号艦戦はエンジンをこれまでの寿エンジンから、新型の瑞星エンジンへ換装した改良型である。武装もこれまでの七.七ミリ機銃と、新たに主翼下に搭載された十三ミリ機銃(ブローニング機関銃を元にした航空機銃)をガンポットとして装備している。


 また、防弾装備も新たにコクピット後方に厚さ六ミリの防弾板が追加されている。


「この防弾板があれば、上田一空曹もやられなかっただろうに...」

「おいお前...」

「あっ...すいません緋村中尉。」

「...いいよ、もう気にしてねえから。」

 仲間の失言に対し、緋村はそう答えた。


 緋村は上田が戦死してしばらくの間、ショックのあまり出撃できなかったが、仲間たちの支えにより今では立ち直っていた。


(もう二度と部下を死なせるもんかよ。)

 緋村は心のなかでそう決意したのであった。


 一方、陸軍では大規模な反抗作戦が開始されようとしていた。

「諸君ッ!!いよいよ反撃に出るときが来たッ!!思う存分戦い、露助どもをこのノモンハンから追い出してやるのだッ!!」

『オォーーーッ!!』

 小松原中将の熱のこもった訓示に、兵士たちは拳を振り上げて答えた。その様子を杉野は傍らから見ていた。


(勇ましいのは良いが...今の戦車師団で勝てるかねぇ...)

 杉野の不安は戦車師団にあった。現在ノモンハン方面に配備されている戦車の半数が八九式中戦車や九五式軽戦車であり、新鋭の九七式中戦車の数は少なかった。


(野砲部隊が掩護にあたるって聞いてるが、それでも不安だなあ。)

 そう思いながら杉野は、ノモンハンへ向けて進む歩兵部隊を見ていた。


「おお、壮観だなあ。」

 緋村は新たに受領した九六艦戦改のコクピットから、目下に広がる数百機の編隊を見ていた。海軍航空隊は陸軍の航空支援のため、陸軍航空隊とともに出撃した。爆撃隊は海軍の九六陸攻のほか、陸軍の九七式重爆、九八式軽爆が参加していた。


『緋村中尉、こんだけ爆撃機がいれば露助相手でも楽勝でしょうなあ。』

「大島、無駄口叩く暇あったらしっかり見張れ。」

『ア、ハイすいません。』

 緋村は新たな僚機である大島二空曹に、無線を通して注意する。


『敵機、方位20、高度30—』

 その時、先頭を進む隊長機より、無線が入った。緋村は敵機のいる方向を見ると、前方に敵編隊を確認した。数はおよそ数百機。とてつもない数である。


『第二、第三中隊は爆撃隊の護衛ッ!!第一中隊は俺に続けッ!!』

「了解ッ!!」

 隊長機の鋭い指示により、戦闘機隊は素早く増槽を切り離し上昇を始める。陸軍の九七式戦もそれに続いて上昇を始める。

「行くぞ大島、付いてこいッ!!」

『了解ですッ!!』

 そう言って緋村機は、前方に広がる敵部隊へと突っ込んでいったのであった。



「突撃ィッ!!」

『オォーーー!!』

 戦闘機隊が空戦を開始しようとしていたころ、地上でも激しい戦いが行われようとしていた。


「ヤポンスキーの攻撃だッ!!」

「急げッ!!速くしないとやられるぞ!!」

 日本軍の攻撃にソ連軍は大急ぎで戦闘準備を進めるが、補給路を攻撃され食料などが不足していたため、ほとんどの兵士は飢えのため満足に動けないでいた。


 その隙に日本軍は次々とソ連軍陣地に攻撃を仕掛ける。

「進めぇッ!!ソ連兵どもを叩き潰せぇッ!!」

 軍刀を片手に持った歩兵隊長が、後続に続く部下へ檄を飛ばした。


「隊長殿!!前方に機銃陣地です!!」

 三八式歩兵銃を持った部下の二等兵が指さす方向を見ると、ソ連兵が陣地の中で機関銃を手に撃ちまくっていた。


「手榴弾を使えッ!!」

「はッ!!」

 そう言って部下は素早く手榴弾を取り出し、機銃陣地へと投げ入れた。


 手榴弾を投げ込まれた機銃陣地は、ドンッという爆発音とともに吹き飛んだ。

「よし、このまま進むぞッ!!」

 歩兵隊長が先へ進もうとしたその時、突如あたりがとてつもない爆発に包まれた。


「な、なんだ!?」

「隊長殿、前方に敵戦車です!!」

「なんだと!!」

 見ると、前方にT-26戦車数台がこちらへと向かっていた。


「この野郎これでもくらえッ!!」

 一人の兵士が進んでくるTー26に火炎瓶を投げつける。しかし火炎瓶は戦車の正面装甲に当たり、撃破することはできなかった。他の兵士達も三八式小銃や九六式軽機で攻撃するものの、Tー26の足を止めることはできなかった。

 

「クソ、このままでは...」

 歩兵隊長がそう思ったその時、突如前方のT-26が爆発した。

 驚いて後方を振り向くと、三台の九七式中戦車が砲撃を行いながら進んでいた。


「友軍の戦車だ!!」

「やった!!これでいけるぞ!!」

 歩兵たちは九七式中戦車の姿を見て歓声を上げた。中には戦車に向かって手を振っている兵士もいた。


「よし、このまま戦車隊の後ろについて進むぞ!!」

「ハッ!!」

 そう言って歩兵隊長は部下を率い、進撃をつづけていった。




「落ちろッ!!」

 九六艦戦改に乗る緋村は、前方を飛ぶI-16をめがけ十三ミリ機銃を発射する。十三ミリの直撃を受けたI-16は、錐揉み回転しながら地面へと墜落していった。


「よし、これで二機目だ。」

『緋村中尉、後ろにつかれました!掩護してください!』

「分かった!チョット待ってろよ!」

 緋村はそう言って大島機を探す。そして、二時下方でI-153二機に追われている大島機を見つけた。


『中尉、早くしてください!このままじゃやられます!』

「今来たからもう少しの辛抱だ!」

 そう言って緋村はI-153の二番機に狙いを定め、機銃発射レバーを引く。Iー153はこちらの気配に気づいていたのか、左旋回で攻撃を回避する。しかし、すぐさま緋村も急旋回で後方につき、もう一度機銃を発射した。パイロットに当たったのだろう。機銃弾をもろに食らった敵機は、煙も噴かずに墜落していった。もう一機の機体は緋村機を恐れたのか、急降下で離脱していった。


『ありがとうございます。緋村中尉。』

「礼は後だ。まだまだ敵機はごまんといるぞ。」

『分かってますよ。』

 そう言って緋村達はまた、空戦の中へと戻って行ったのであった。




日本軍の攻勢により、ソ連軍は戦車部隊の半数、航空隊、歩兵部隊の多数を失った。それに対し日本軍は、戦車部隊の三割、歩兵部隊の四割というものであった。大打撃を受けたソ連軍は、撤退を開始していったが、日本軍はそれを追撃することはなかった。なぜなら、独ソ不可侵条約が結ばれ、ノモンハンで戦っている場合ではなくなったからである。



 

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