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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
15/38

15. ノモンハンは血に染まる。2

※11/27修正しました。

緋村たち戦闘機隊が激しい戦いを繰り広げていたころ、爆撃隊は敵補給基地の爆撃を行っていた。


「敵戦闘機がいない今が好機だッ!!全機攻撃開始ッ!!」

 爆撃隊長の号令で爆撃隊が爆撃を開始する。九六陸攻から放たれた二五十キロ爆弾や六十キロ爆弾は次々に命中し、補給基地に集められていた燃料や弾薬を燃やしつくしていった。


「よし上々だ。引き返すぞ。」

 爆撃によって破壊された補給基地を見ながら、爆撃隊長はそう指示をだし、ハイラルへと帰還していった。



「ふう...」

 爆撃隊の護衛を終えた緋村は、無事ハイラルの航空基地へと帰還した。飛行場に着陸した緋村の機体には、整備員達が機体の点検を行うべく集まって来ていた。


「お疲れ様です、緋村中尉。」

「ああ、ありがとう。」

 九六艦戦から降りた緋村に、顔見知りの整備員が話しかけてきた。


「やりましたか?」

「おう、Iー15を一機撃墜した。墜落するのを見たから確実だ。」

「初陣で初撃墜なんてすごいじゃないですか。」

「いやいや、まぐれだよ。上田一飛曹なんか二機も撃墜してるんだから。」

「へえ、やっぱりベテランは違いますね。」

「そうだな。じゃあ俺は指揮所に報告にいってくる。」

 そう言って緋村は指揮所へと歩いていった。


 それから数日間は敵の補給基地や補給路を中心に攻撃がおこなわれた。これは、ソ連軍の補給をとだえさせ、継戦能力をなくすためである。そしてその効果は、早くも出始めてきた。



 ハイラル 第六軍司令部


「ここ数日ソ連軍の攻撃が減ってきている。」

 ノモンハン方面指揮官である小松原道太郎中将は、作戦会議にてそうつぶやいた。


「おそらく補給路の攻撃が効いてきているのでしょう。」

 特務参謀である杉野中尉(昇格)は、地図を見ながらそう答えた。


「小松原中将、直ちに全軍を率いて露助どもを叩き潰しましょうぞッ!!」

 参謀のひとりが小松原中将に対し、そう具申した。


「今は無理だ。先日の戦闘で消耗した戦車部隊の補充がいまだ完了していない。攻めるのなら戦車部隊が揃ってからだ。」

「しかし...」

「君の言うことも分かる。だが、相手はソ連だ。万全の状態でなければこちらの損害が増えるばかりだ。それは君も分かるだろう?」

「・・・・・・」

 小松原中将の言葉に参謀は黙り込んだ。


「杉野中尉、航空隊には引き続き補給路の攻撃を行うよう伝えてくれ。海軍の航空隊にも同じようにな。」

「了解しました。」

 そう言って小松原中将は会議を終わらせた。



 一方、緋村たち航空隊は、いつもと同じく爆撃隊の護衛についていた。

『ここ最近護衛任務ばっかりで少々ヒマですな。』

 僚機の上田一飛曹が無線を通じて緋村にそう話してきた。


「そうだなあ。敵さんもあまり迎撃に上がってくるやつも減ったし、地上に残ったのを機銃掃射するくらいだしな。」

『そうですね...上空にI-16接近!!』

「なに!!」


 上田の言葉に緋村が上空を見上げると、I-16四機が急降下で攻撃を仕掛けようとしていた。

『全機散開しろッ!!』

 戦闘機隊長の言葉で戦闘機隊は素早く散開する。その直後、一機の九六陸攻がIー16の攻撃を受け、火を噴いた。


「チクショウッ!!」

火を噴きながら墜落していく九六陸攻を見ながら、緋村はコクピットの中でそう叫んだ。戦闘機隊は突然の奇襲に混乱していた。その隙にもI-16はまたも急降下からの一撃で九六陸攻を撃墜した。


『気を付けろ。こいつら今までの奴と違って手練れだ!!これ以上好き勝手暴れさせるな!!』

 戦闘機隊長が無線でそう叫ぶ。

 緋村は急上昇で再度攻撃をかけようとしているI-16に狙いを定め、機銃発射レバーを引く。緋村の発射した機銃は、吸い込まれるようにI-16のコクピットに命中し、そのままバランスを崩して墜ちて行った。


「よしッ!!」

 緋村が撃墜を確認したとき、機体に連続した衝撃が走った。驚いてあたりを見まわすと、後方にI-16がいた。I-16は機銃を発射しながら緋村機を追いかけてくる。


 緋村は何とかして振り切ろうと機体を大きく動かす。しかしIー16はピタリと後ろについて離れない。

「まずい...」

 緋村がそう思ったその時、前方から一機の九六艦戦がI-16に攻撃を仕掛けようとした。I-16もその機体に気づいたのか、すぐさまその機体に狙いを変えた。二つの機体はそのまま正面から突っ込み、すれ違いざまに機銃を発射した。


 攻撃を受けたI-16はエンジンをやられたらしく、フラフラとエンジンから煙を吐きながら離脱していった。一方九六艦戦も機体の数か所に被弾しており、少しふらつきながら緋村機の右横についた。


緋村は自分を助けてくれたパイロットが誰なのか見ようと思い、横を飛行する九六艦戦のコクピットを覗き込んだ。


「上田かッ!!」

 それは緋村の僚機である上田一空曹であった。


「上田、ありがとう。助かった。」

『いえ...どうってことありません。』

 そう言って上田は答えた。しかし、上田の声はいつもより弱々しく感じた。


「上田、どうした?」

『どうやら...さっきのやつの攻撃で...腹に二、三発食らったみたいです...』

「大丈夫か!?」

『多分...無理です...こうなったら華々しく敵地で...』

「バカ野郎ッ!!諦めるなッ!!基地に戻れば手当てしてもらえるはずだ。とにかく戻るぞ。」

『はい...分かりました...』

 そうして二人は、基地への帰還を開始した。


数十分後、緋村たちは飛行場上空に到着した。緋村はすぐに地上にいる部隊に伝えるべく、先に飛行場に着陸した。


「おーい、担架持ってきてくれ!!上田がやられてるんだ!!早く手当てができるよう準備してくれ!!」

 緋村の言葉を聞いた地上要員は大急ぎで手当てができるように準備が進められた。


 やがて上田機は、フラフラとした操縦で着陸動作に入った。先に帰還した搭乗員達は固唾を飲みながら、上田機の着陸を見ていた。


 そして上田機は指揮所の前で停止した。搭乗員達は上田機に駆け寄り、上田一飛曹の無事を確認しようとした。


「上田一空曹!!しっかりしてください!!」

「上田、大丈夫か!!しっかりしろ!!」

 搭乗員達は上田に対し口々に話しかけるが、上田はコクピットの中でぐったりとしたまま動かなかった。


 やがて医務室から軍医がやって来た。

「軍医、上田一空曹は生きてるのですか?」

 緋村は軍医に対しそう聞いた。しかし軍医はうつむきながら首を横に降った。


「残念ですが...すでに事切れています...」

「そんな...」

 緋村はショックのあまり言葉を失った。この日、昭和十四年六月、横空きってのベテラン上田一空曹は、二十六歳という若さで戦死した。上田一空曹の戦死は全軍に布告され、二階級特進となったという。

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