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Sleep-Walker~夢と現~  作者: 桜椛
第1章:微睡みの科学者
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7話 今日はなんだか


「──て! お──ちゃ──!」


 

 微睡みの中に身を委ねていた俺は、喧しい音によってそこから連れ出される。


 何だ……? なんて言ってんのか聞こえねーよ……。



「起き──!──兄──ん!」



 未だ覚醒し切らず朧げな思考を回転させてみる。

 え……と、繋げると……『起・き・て・!・お・兄・ち・ゃ・ん・!』ということになる……。



 ドカッドカッ。ドカドカッッ。小鳥が朝を彩……っておい!



「何で……お前がいんだよ」



 俺こと扶來雷架は体に感じる重量感と違和感を感じながら起こされる。



「朝だから起こしに来たの。昨日寝坊したから」


「だったらもっと優しく起こしてくれないか?」



 我が妹である扶來小鳥は俺の脚のあたりに乗ってきて、胸のあたりを殴って起こしてきたのである。

 何とも乱暴な子娘である。昨日俺の小指ぶつけたのも偶然を装った故意な攻撃なのでは?



「何度呼んでも起きないんだもん。だから、昨日裸見た罰って意味でも」


「完全後者(そっち)が理由ですよね!? 小鳥さんだって悪いじゃないですかあれ!」



 怖いよこの妹、10歳にして罰としてお前殴らせろこの野郎って言ってきましたよ。



「ハッ! 胸じゃなくて頭殴ればよかったかな?」



 無邪気な顔して何言ってんだこの子……誰に似たの?


 ……本当に誰に似たの?


 とそこで俺は置時計を見る。なんだ……まだ8時じゃないか……って8時!? 何事!? 何時!?



「遅刻する! どけ小鳥!」



 俺は上半身を起こしてするすると抜けだすようにベッドから降り、部屋を出る。

 どけと言っときながら乱暴に扱えないあたりやはり兄なんだろうなって思う。





 雷架が部屋を出るのを確認して、小鳥は置時計を手に取り、その針を40分戻す。



「昨日の罰だよ?」



 10歳、小学五年生、不敵な笑みを浮かべている。





 俺はそのまま、本人不在の妹の部屋を横切り階段を下りる。

 顔を洗い歯を磨き寝癖を直す。どんなに急いでいると言えど、最低限の身だしなみはするべきだ。そして父さんへの挨拶も忘れない。



「父さんおはよう。聞いてくれよ、俺身長3cmも伸びたんだぜ! 3cm! でも父さんの身長にはまだまだ追いつきそうもないわ……今日は時間がないからここらで終わるね」



 言って俺は母さんから弁当を受け取ると、鞄に入れながら玄関を飛び出す。

 何故か母さんがニヤニヤしてたがなんなのだろう。



 時間がないため俺は走る。商店街を抜け、踏切を抜ける。

 ……ん? 踏切を越えたのか。いつも待たされる踏切をなんなく走り抜けたというのか?

 まぁ今は気にしてる暇はない、遅刻してしまう。


 既にパンパンになった脚を叩き、無理にでも動かす。とはいえこの坂結構キツイ。

 肺に酸素を供給しつつ、体を一つの機械のように動かしていたところ、スタイルの良い二人の女性の姿が見えた。



「生徒会長さん、会計さん。おはようございます!」



 俺は走りながら横を通り挨拶をする。



「あぁ、おはよう」「おはよーう!」



 二人は俺の姿に気づくと、気持ちよく挨拶をしてくれる。

 何というか随分余裕だな。生徒会長ともあろう御方は遅刻してもお咎めなしってか?


 そこで後方から、「こんな朝から元気だなあの少年は」「ね! 鍛えてるのかな」という声が聞こえた。

 そこで俺は一つの疑問を抱く。

 待てよ? 走りながら携帯を取り出し、電源を入れる。


 日付「4月11日火曜日」、時間「7:35」と表示されている。




 時間「7:35」。



「え!? 8時じゃないの!?」



 あの野郎!? いつの間に置時計を!?

 急ブレーキをかけ叫ぶ。急な坂を全力疾走、からの急ブレーキ。足への負担が半端ないっす。



「大丈夫か君? 時間は確認してから家を出ることだぞ」「あ、鍛えてたわけじゃないんだ」



 後ろからクスクスと笑いながら、会長と会計さんが来る。



「あぁ、……はい、妹に嵌められました……また朝ご飯食べれてないですよ……」


「日頃から早起きしてないからそういうことになるのだぞ」「おぉ~妹さんいるんだ」


「なんでしょうかね? 最近全然起きれないんですよ。全く暴力的で困ってますよ、妹には……」


「早寝をすれば早起きもできるさ。さぁ、今日から始めてみてはどうだ。気持ちがいいぞ」

「でもいいね~私たち一人っ子だからさ~ちょっと羨ましいよね? 火戀(かれん)?」

「あぁ、そうだな。でも弟の方が父的には嬉しいだろうがな」「またそんなこと言って~」



 なんだろう……すごい自然に上級生、しかも生徒会会長と会計さんと一緒に登校することになったぞ。

 二人で仲良く話してる中、時々こちらに話しかけてくるもんだから場を離れるに離れられない。



 そんな少し居心地の悪い気分を味わいながら──決して嫌なわけではないぞ?──白く綺麗な校舎が見える。そのまま正面玄関へ向かいそれぞれの下駄箱へ。



「あぁっと、失礼……君の名前は何かな?」



 思い出したかのように、生徒会長は実におどけた表情で聞いてくる。この人こんな顔もするのか。



「えっと、扶來雷架(ふらいらいか)です」


「扶來雷架……か、私の名前は遠月火戀(とおつきかれん)だ」


 会長……遠月さんは両腕を組みながら言う。鼻につく感じではないのがまた面白い。人柄だろうか。



「私は久米島貫弥(くめじまぬきや)だよ~よろしくね」



 会計……貫弥さんは手を挙げて言う。見た目とのギャップが意外だ。



 そのまま3人で階段を上り、二人とは3階で別れる。



 そのまま4階へと上がり自分の教室へと入る。



「お? 誰もいねーのかよ」



 壁掛け時計を見ると、時間は7時50分を示している。この時間で誰もいないのか? 

 さぁ……どうしたものか。



 とりあえず俺は自分の席へと向かい、鞄からヘッドフォンを取り出し、Air SupplyのSweet Dreamsを聞く。

 私的翻訳だが「目を閉じて、私の甘い夢の中、空に乗りたいの。目を閉じて、今夜あなたを見たいの、私の甘い夢の中で」

 ふーむ、こうやって改めて歌詞を考えると実にメルヘンチックな恋愛ソングのように感じるな。だが俺はこの曲が好きだ。何故かはわからない。

 何かを好きになるには、理由がある好きと、理由のない好きの二種類がある。

 頭で考える方、回路が繋がることによる好きは「理由がある好き」だ。

 体で感じる方、直感的に電気信号が送られることによる好きは「理由のない好き」だ。

 俺がこの曲が好きというのは、後者である「理由のない好き」の方だ。

 逆に頭で考えてしまうとこっ恥ずかしくなってくる。



 その間に、生徒が教室へ入ってくる。8時10分になったが、今はまだ俺を合わせて5人しかいない。その4人は実に寝不足といった感じだ。



 それから、10分が経ち、出席を取る時間になる。生徒は10人。どうした皆。

 しかしそんなことなどお構いなしに、担任の近江遥(おうみはるか)先生が入ってくる。



「あっれ~みんな~今日はお寝坊さんかな~?☆ちゃんと早寝早起きしないとダ・メ・だ・ぞ☆」



 出席簿を左手に抱え、右手で人差し指を立てて言う。クラスの皆──といっても10人だが──は無反応。

 寝不足だろうと窺えるため、今はこの人のテンションについていけないと言った感じか。俺はいつもついていけません。



「じゃぁもういっそ全員遅刻にしちゃうか~☆」


「何言ってんのアンタ!?」



 絶対めんどくさくなっただけだよね!? 妹に嵌められた兄は報われないよ!?



「はいはい、扶來君黙ろうね~☆今現在ここでは私が最高権力者で~す☆」


「それを俗に職権乱用と言う!!」



 今更だが何でこの人教師になれたんだ?



 10分経ち、1時間目の授業が始まり、更にそこから5分経つと、クラス全員が集まる。

 後ろの桜も、右の悦受もやはり寝不足なのだろうか、珍しく隈が付いている。



 一時間目を終え、休み時間。悦受が机に突っ伏しながら話しかけてくる。



「お前何でそんなに元気なんだよ……あれか? 人の電話無視してゆっくり寝たからか?」


「わけあってな、早く起こされたから……そーいや昨日の何だったんだよ?」


「あぁ……昨日の?……んーっと……あぁそうそう。昨日の健康診断、おかしいとは思わないか?」



 ん? 健康診断?



「おかしいって?」


「いやぁよ? そう思ったのはMRI検査何だけどよ、どう考えてもおかしいだろ。あそこの空間は人を安らぎへと誘うのにお誂あつらえ向きなんだよ。事実気持ちよく寝ちゃったしな。話に聞くとほかの人も全員そうだったらしいじゃねーか」



 ほぉ……これは驚いた。

 ただの変態の癖にそんなことに気が付いていたのか。実は俺もうっすらとだが、そう思っていた。

 だがそれをはっきりと意識する前に一日が終わった、そんな気がする……!?……おいおいこえーよなんだよ……

 そこには眼鏡をぎらつかせた、黒髪の女がすごい形相で悦受の横に立っている。



「おい……エテ公……ツラ貸せや……」



 ふしゅうううと蒸気が見えるのは気のせいだろうか……



「はぁあああレイカ様!? 今すぐイキます!!」



 ガタタっとうるさい音をたてて、悦受は悪魔……冷夏さんについていき、教室を出ていく。



 2時間目、右の席は空いている。あいつら授業サボってなにやってんだ……。いや知りたくはないけどな。



 3時間目は委員会と係決めらしい。まずは係決め、係と委員会には必ずどちらしか入らなければいけないらしい。

 さぁさぁ一体なにやろうか……一時期しか仕事がなさそうな文化祭実行委員でもやるか……?



「はいは~い☆早く決めないと4時間目も係決めになっちゃうぞ~☆」



 因みに係も委員会も決まってないのは1年だけ。

 というのも、委員長も副委員長も1年ではなれないため別に急ぐ必要がないから……らしい。

 気づけば悦受は帰ってきていた。頬が上気し、首に縄の跡が見えているのはきっと気のせいでも疲れているわけでも、ましては寝不足からくる幻覚でもない。見たくなかったー知りたくなかったー。



「ライ君何入るの~?」



 これまた机に突っ伏しながら後ろの席である桜が話しかけてくる。



「文化祭実行委員でも入ろうかなって」


「え~大変そうだけどね~わたしも一緒のにしようかな~」


「いやいや自分の意志を持てよ」



 まぁ俺が言えた話ではないがな。



「はい! 自分の意思に従ってライ君と同じ文化祭実行委員になります!」



 右手を挙げて宣言。集まる視線。



「舞園さん?☆今は係決めですので後でお願いしますね~☆」


 

 桜の顔はみるみる赤くなっている。トマトみたい……いや林檎か?



 係は難なくと決まり、後回しにされていた学級委員を決める話になった。



「誰かやってくれる人いませんか~?☆」



 誰も手を挙げようとしない。まずは男子の学級委員を決めようとしている。



「じゃぁ私が決めちゃいますね~☆」



 名簿を開き、目を閉じ指をなぞるように彷徨わせている。「えいっ!☆」という掛け声とともに指を止める。おいおいそんな決め方でいいのかよ……。



「は~い☆じゃぁ立杉悦受たちすぎえつじゅ君よろしくお願いします!」



 まじかぁああああああいいの!? このクラス破綻するよ!? 高校生活始まったばっかでやだよ!?

 その本人はというと、呆けた顔をしている。



「ほぇ? 俺が学級委員? ……え、い、いいんですか!? このクラスを俺色に染めても!」



 よくねーよやめろや。



「大丈夫です~☆」



 いやダメでしょ!? 何言ってんの!?



「その時は教師として全力で止めまーす☆」



 お、おぉおそうだよこういう時に職権を使いなさい。



「はいじゃぁ次は女の子!☆」



 ビシッと指をさしながら言う。また沈黙が続くかと思われたが、音も無くスッと手が挙げられる。



「じゃぁ本田さんよろしくお願いします☆」



 本田……下の名前はなんだろう。

 そのまま委員会決めに移る。順々と決まっていき、文化祭実行委員の名が挙げられ、俺と桜は手を挙げる。



「お前本当に一緒のやるのかよ」


「ライ君と一緒がいいの~」



 またこいつはこういうことをサラッと言いやがって。



「二人ともよろしくね~☆私たちのクラスの文化祭は君達にかかっている!☆」



 えぇ~そんな大事にしちゃう? 無難に食べ物屋台でもやればいいだろ……。



 後悔先に立たずという言葉がある。この時にした選択によって、雷架はそれを思い知らされる。それが一体何なのか、それが分かるまで、それに気づくまでまだ期間はあるということだけは言っておこう。





 学校を終え家に帰るや否や、自分の部屋に行き、ベッドへと横になる。

 決して眠るためではなく、時間を潰すためにゆっくりしているだけだ。

 俺はTransDisplayトランスディスプレイを取り出し、ダウンロードしてあるアプリを起動しようとする。

 しかし、その前にメールが届いていることに気づき、それを開く。

 差出人は分からない。件名も書いてない。宛先は当然俺のアドレス。

 内容はこうだった。『新規登録ありがとうございます!どうぞ楽しんでください!』とだけ書いてあった。URLも貼ってない。

 なんだこれは? 迷惑メールかなにかだろうか? 未だにこういうのやる奴いるんだな……と考えそのメールを削除する。なぜか興を殺がれた俺は、ただただボーっとする。



 今日の夕飯はジャガイモが入った味噌汁、豚の生姜焼きにポテトサラダだ。

 俺の左隣に妹が、俺と向かい合って母が座っている。「いただきます」と声を揃えて箸を進める。



「あ、そーだ小鳥。今日はよくもやってくれたな。いつのまに置時計まで細工したんだよ」



 味噌汁をすすり一息ついて、小鳥は答える。



「ほら、昨日は40分寝坊したでしょ? だから40分進めて置いてあげたの。お兄ちゃんが寝たの確認してからいじらせていただきました」


「お前その心遣いをもっと優しく相手に伝えることはできないのか」



 俺はその時、「昨日裸を見た罰」という言葉がリフレインする。それに気付いたのか小鳥はニヤリとして母親と顔を見合わせる。まさか……母さんまで?



「……二人して俺の事嵌めやがったな」



 肉を喰らい、白米をかき込み、汁を流し込み、「ごちそうさまでした!」と言って食器を片す。



 23時。俺は時間を確認してから風呂に入る。いつもこの時間帯に入っている。


 部屋を出ると丁度風呂上がりの妹と出くわす。



「その年からボケないでね」


「余計な御世話だ!」



 風呂を上がり髪を乾かし、俺は布団に入り眠りについた。

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