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Sleep-Walker~夢と現~  作者: 桜椛
第1章:微睡みの科学者
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3話  まるで人間ドッグ

叶訪(きょうと)総合健診センターの内装は茶色と白というシックな趣きとなっていた。

 こんな予定でもなきゃ訪れる事の無い健診センターに戸惑いを隠せず、思わず辺りをキョロキョロと見回してしまう。なんか勝手にもう少し汚い所を想像していたのだが叶訪のでかい病院と考えれば当然清潔感や真新しさはあるべきか。

 入ってすぐ、エントランスへと向かった児守さんは全員が入ったのを確認してから、自分の話が通るようにと適当に並ばせた。

 引率と言うこともあってか、児守さんは堂々とした態度である。寧ろその笑顔が嘘くさいほどだ。



「はいはい、皆さん。今日は学校単位での健康診断ですので、その内容は通常のそれとはちょっと異なります」



 皆を静かにさせるように、手をパンと叩きながら児守(こもり)さんは言った。

 


「何がどう違うんですかー?」



 何処からかそんな声が聞こえた。

 黙ってれば説明するものを。

 俺は少々うんざりしながら、反応を待つと、児守さんはその笑顔を崩さず答えた。



「健診内容は全部で5つ。身体測定、視力検査、聴力検査、尿検査、そしてMRI検査です」



 手を開いて小指から順に折って説明をした。小指からとはまた珍しい。

 と言うか最初の4つは想像の範囲内だが、MRI検査……? こりゃまるで健康診断と言うより人間ドックだな。



「それじゃぁ皆さん、まずはこれにお着替えください。あと携帯電話をお持ちの方は電源を切ってくださいね」



 それぞれのセクションについての説明はここではしないらしい。まぁしても聞く耳もたんだろうしな。

 

 児守さんの指示で、看護師さんが緑の検診着を配っている。

 これだけの人数分を一度に用意、一度に健診とは大変じゃないのか?

 そんな事を思いつつ、俺は制服のベルトループにつけたTransDisplayトランスディスプレイの電源を消した。



 携帯電話。

 スマートフォンは外と内のカメラをそれぞれ一つずつ増やすことで、立体映像を映し出したり立体撮影を可能としていた。

 それとは別にもう一つ、TransDisplay-トランスディスプレイ-(略称TD)がスマホに並ぶ携帯端末機となっていた。

 その大きさや形は様々であるが、80%は透明なディスプレイで、タッチ操作もでき、専用のアタッチメントを付けることにより腕時計のようにすることもできようになっていた。

 カメラ機能も付いており、触ることは叶わないが空中に映像を投影することも可能である。

 当然音声認識ソフトも搭載されており、自分で設定したボイスコマンドを唱えることによりそれに対応した機能を発揮する。ロックの解除は声紋又は指紋認証のため本人以外に開けることは叶わなくなった。

 

 今までの使い勝手の良さから、スマホユーザーが多いと言うのも事実。俺も前まではスマホだったが、なんとなくTransDisplayトランスディスプレイに変えてみたら気に入ってしまった。


 児守さんに言われた通り、周りは携帯の電源を消している。ところどころボイスコマンドも聞こえる。







 3階にある更衣室へ行き着替えを済ませてから、一階から四階全ての待合室を使って、一組から出席番号順で待機している。俺ら三組は四階での待機となった。

 MRIは一階入り口奥で検査をし、それ以外は2階で検査を済ますということらしい。

 壁掛け時計に目を見やる。9時10分。このペースじゃぁいつ終わるか分からんな……お腹が空きました。



「なぁ雷架(らいか)



 待合室のベンチ、身を乗り出すように前に座っていた悦受(えつじゅ)が気持ちの悪い笑顔を浮かべながら振り返ってきた。



「なんだ? 生憎とお前の性癖を満たすことは出来ないぞ」


「男に罵られて何が気持ちいいんだ!!」



 いきなり大きな声で変なこと言うもんだから、周りの視線が一気に集中する。

 軽くあしらうつもりで言ったのだが、これでは逆効果じゃないか。

 知らない人の振りしよ……。



「おい! 放置プレイやめて! 男では興奮しないから!!」



 とか言いながら体を抱きしめて、もじもじしている。

 言動と行動が合ってねえぞ。



「いやいやいやぁよ? そんなことはどうでもいいんだよぉ。雷架な? 俺はこういうとこ来るとな、中学2年の夏を思い出すんだよ!」



 何事もなかったかのように話し出す悦受。

 中2の夏? 何かあったけか。



「あれだよあれ! 中学2年の夏休みに二人で自転車でふらふらした時あっただろ?」



 そんなありきたりなシチュエーションじゃ特定出来ねえな。



「おいおいたかだか2年前だぞ? 記憶力大丈夫か?」



 うるさい、お前に頭を心配される謂れは無い。



「んでよ、それで土手をふらふらしてたらさー向かいからつり目のOLさんが! 仕事で失敗でもしたのかなんのか『気持ち悪い顔で見てんじゃねー! あのくそ上司思い出すだろうがー!!』っつって俺もろとも自転車の横蹴っとばしてきてよー……って聞いてるかー?」



 どうでも良すぎて内容が入ってこない。



「んで、俺はそのまま土手から滑り落ちて、全治2カ月の重体、見事に中2の夏休みはパァとなりましたとさ」



 両手を開いて顔を覗かせてくる。何のポーズだそれは。

 てか言われて思い出したわ。あったなそんなこと。それで確か入院して……



「それで入院して、とある新人看護師に言われた一言。『なんで猿が病院にいるんですかー? あのクソ野郎思い出して気分悪いです。あぁ……めまいが……』って。俺はあの時右手がじんじんと熱くなったのを今でも覚えているぜ」



 上を向き目を閉じうっとりとした表情になる悦受。それ痛みぶり返しただけだから。

 つかお前ろくでもないひとに似てるってことだよな。よかったじゃん。



「とどめを刺したのはその人だろうがきっかけはOLさんだな〜んっふふぅ〜」



 デヘッと鼻の下を伸ばして体を捩じらせている悦受。非常に気持ちの悪い光景だ。

 えーOLさん、新人看護師さん、あなた達のせいでとんでもない変態を生み出してしまいました。

 この責任とってくれませんかね? マジで。




 変態の相手をしているうちに、どうやら3組の番が来たようだ。

 時刻は10時30分。随分待たされた。





 まずは身体測定。

 身長計へと体を預ける。背筋をぴんと伸ばして顎を引く。慣れない体勢のためか少しきつい。

 後頭部にひやっとする感覚に耐えながら、そのまま体重計へと促される。

 そうして記録を渡されてみてみると、なんとなんと、たった一年で3cmも伸びていたのだ。

 因みに168cmだ。あともうちょっとで170cmに到達するぞ。

 体重は52kg。これまで運動もしてこなかったから筋肉も特に発達しておらず、平均より少し低い値となった。



 さてお次は視力検査。

 今までやってきた、片目隠して~ってやつを想像していたんだが、顕微鏡みたいなものを見て、あの黒い輪っかの切れ目を判断するものとなった。

 因みに視力はいい方で両方2.0だった。



 その次は聴力検査。

 これは今まで同様ピーっと音が鳴ってる間はボタンを押しつづけるといったもの。特に問題無くスルー。


 

 そのまた次は尿検査。

 コップを手渡され検査用のトイレヘ行き採尿。ここは特筆すべきことは無い。というか書かせるな。





 そして来ました。最後の最後、謎のMRI検査だ。

 MRI検査は1階で行われているため、既に終わった人は、更衣を済まそうと三階へと戻って行く。

 すれ違いざまに顔を見ているが、誰も彼もやけに気だるそうにしているな。

 なんか眠そうというか寝起き? って感じ。

 にしても、やけにここだけ時間かかってるな……。



 俺は案内されるがまま中へ入る。どうやらMRIだけで3部屋もあるらしい。

 中に入り直進するとMRIが、そのまま左にはフロートガラスを隔てて白衣を着た人を数人確認する。

 何故か部屋にはいい匂いが充満し、スピーカーからは波の音が聞こえてくる。やけに落ちつく。MRIってこんな空気感でやるもんか?



「それじゃあこちらに寝てください」



 案内してくれた男が、MRIの筺体へと手を添える。

 男の声は低音で、この波の音と混ざって確かに耳に届いてくる。それが何故だか心地よく、俺は思わず顔を見やる。

 細い目に泣きボクロ。口角を上げた笑みは親しみすら感じるようであった。歳としても若そうだ。まだ20代後半と言ったところだろう。髪の毛も清潔感があって、あまり悪い気はしない。

 初対面でこう思うのも中々に珍しい。これもここの待遇の良さと関係しているのだろうか。

 俺は言われた通りに寝そべった。何だか変に緊張してきた。

 


「頭を絶対に動かさないでくださいね。検査が出来なくなってしまいますから」



 頭を固定され、男は離れる。


 そして機械の駆動音、今俺の体を丸裸にされているのだろう。

 目を瞑って終わるのを待つ。


 待つ…………BGMも相まって眠くなってきたな……。

 あぁ……波の音が心地いい……………。

 海とか小学生以来行ってないなぁ……。

 確か……5年前に家族4人で行ったきりだ…………その4カ月後に父さんは…………くそ……っ…………この気持ちから逃げよう………………。



 気づくと俺は涙を流していたのだが、それを拭うことは出来なかった。

 絶賛傷心中な状態にこの落ち着く匂い、心地よい波の音、そして男の人の声、それら全てが俺の心を癒す材料となっており、気づくと俺は……







 ────俺はそのまま眠りについた……。

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