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Sleep-Walker~夢と現~  作者: 桜椛
第3章   順応せし学習者
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34話  練習とな?

 と言ってもまだ春だ。梅雨すら向かえていないのに蝉がどうのってのもおかしい話だが、まぁ俺はみんみんじんじん喧しいあいつらが嫌いなのだ。

 というか急にバタバタ動かれるのが駄目。じじじじうるせえんだよ。全く。




 とか考えていたところで、右肩をぽんと叩かれた。


 俺は一体誰だ?悦受かと思いながら、振り向いたが、全然違った。



「扶來雷架だよね。随分と古いヘッドフォンしてるんだね」



 顔はキリッとしててかっこいい。髪の毛は長く、片目だけ軽く隠れている。それは何処となく茶色が混ざっているようにも見え、耳には微かに穴が見えた。きっと普段はピアスでもしているのだろう。


 俺はそいつに、ははっと笑われた。えーっと名前は確か……



「国崎……だったよな?」



 ヘッドフォンを片方だけ外す。こいつとはあまり話したことはない。だから名前を覚えられない。


 俺は確証が無かったからそう伺ったが、目の前の男はあからさまに落胆の色を見せ、肩を竦める。



「おいおい。もういい加減1カ月経つんだぜ~クラスメートの名前くらい覚えてくれよ」



 と言われてもな。俺は顔と名前を一緒じゃないと覚えられないうえに、話さない奴の名前は覚えない主義だ。



「悪い……下の名前は?」



「響……国崎響(くにさきひびき)だ。それよりそれ、いい加減新しいのに替えたらどうだ?」



 と言って俺のヘッドフォンを指差す。



 俺のヘッドフォンの色は黄色。あまり大きくない。



「いや……替える予定はないかな……」



 俺は目を伏せ、口を噤んだ。国崎はそれを見ては何かを悟ったように軽く笑った。



「そっか……きっと大事なものなんだなっ!俺そういうの好きだぜ!物は大事にしなきゃなっ!!」



 見た目のチャラさとは裏腹に、国崎は中々にいいことを言ってニカッと笑い去った。

 何か不思議な奴だなーとか思ったところで、担任の近江遥(おうみはるか)先生が、両手に大きな段ボール箱を抱えて、えっちらおっちらと入ってきた。




 気付けばいつの間にかクラス全員揃っていて、俺はヘッドフォンを外し鞄に仕舞った。


 先生はふふふっと微笑み、教卓へそれを置くと、朝からいつも通りのテンションで縦ロールの髪を揺らした。



「みんな~☆おっはよ~!☆週の最後だからって気を抜いちゃダメだぞ~☆」



 因みにこの人はいつも語尾に「☆」をつける31歳独身ボロアパート住まいだ。



「扶來君~そろそろ先生怒るよ?☆」



 先生はそう言って微笑むが、目が笑っていないため非常に怖い。



「すいません何でもないです先生」



 なるべく早口で言った。因みにこの人エスパーです。まぁ嘘だけど。


 そうして視線をクラス中へ向けた先生は、段ボール箱に手を突っ込み、それを頭に巻きつけた。



「はーい☆今度の月曜日は体育祭ですっ!☆みんな~気合入れて頑張ってこー!おー!☆」



 そう。俺たちは今度の月曜日に開催される体育祭へ向けて、普段の体育の授業をそれの練習へとあて頑張っていたのだ。頑張らされていたのだ。


 先生は「それじゃあみんなにこれ配るね~☆くれぐれも~く・れ・ぐ・れ・も!失くさないようにね~☆」と言って列ごとにそれを配った。


 黄色いハチマキだ。体育祭ではこれをつけて臨む。


 

 体育祭では、3つの組に分かれて競技する。


 1組と2組は赤。


 3組と4組は黄。


 5組は白となっている。


 ん?これじゃあ圧倒的に5組が少ないって?心配なさるな。そこら辺はちゃんと考慮され厄介な組み合わせになっている。


 まず、赤組。


 1、2年の1、2組と、3年の1組だ。


 次に我らが黄組。


 1、2年の3、4組と3年の2組。


 最後に白組。


 1~3年の5組と、3年の3、4組だ。


 どうだ?綺麗に別れただろう?


 まぁ白組に3年が固まっているから卑怯だなどの声が上がったが、ハンデと考えればいいのではとよく分からん形で一応の解決をした。



 取敢えず次学校来る日には本番ということだ。全く休日を潰してまでやらないのは非常に嬉しいことだが、週明けいきなり体育祭ってのも中々に面倒くさい。


 しかもその次の日には普通に授業と来た。皆筋肉痛で悲鳴を上げてやる気など起きないだろうな。



 


 放課後、それは誰もが喜びはしゃぐ時間。


 全てのしがらみから解放され、自分の自由な時間を謳歌できる時間。


 友達と過ごすもよし、家に帰ってゆっくりするのもよし、今俺の視界の隅で頑張っている人たちのように、部活動という青春に汗を流すもよし。


 俺は校庭でユニフォームを着ながらシュート練習している三浦を流しながら、校門へゆらゆらと歩いていた。


 別にやりたい部活動なんて無いし、運動部なんかめんどくさいし文化部は俺の興味あるようなものはなかった。

 あぁ、でもそう言えば科学部があったかな?どうしようかな、今度覗いてみるか。




 俺は家に帰り、母さんにただいまと言って、リビングでソファにどでっと座りながら、テレビをつけてぼーっとしていた。



『K県久利浜市、兎角高校の全校生徒が、1週間眠りから目覚めなかったとのこと』



 俺は男性アナウンサーが読み上げるその原稿内容に、我が事かのように聞き入っていた。



『専門家によると、この症状は「クライン・レビン症候群」と呼ばれるものではないかと判断したものの、生徒たちの体には眠りつづけたことによる体重と筋力の低下が見られただけで、それ以外の異常はなかったとのこと――』



 その後もあーだこーだと言っていたが、俺の目にも耳にもその情報は最早入ってこなかった。


 待て……これはもしかしてこの前の俺らと同じ状況……?


 いやでも待て、あの時俺らは3日間で済んだ。なのに何故こちらは一週間?

 高校の全校生徒だからきっとプレイヤーに違いないが、この時間の差は何だ。



 

 俺らは先月、とある男の手によって…………いや違うな、まずはもうちょっと前から説明しよう。


 俺らは先月、何者かの手によって、夢想世界(ドリームワールド)と呼ばれるゲーム世界に連れられた。


 その目的も方法も未だに分からないが、誰かが何かしらの思惑で俺ら……全国の高校生をゲーム世界へと連行した。

 

 行く方法……行かされる方法としては、睡眠をとること。


 つまり、眠ることで俺らはゲームの世界へ誘われるのだ。



 そこでは現実の世界と同様の街並みが広がっているのだが、夢魔(ナイトメア)と呼ばれる化物が現われ人……俺らを襲うのだ。


 

 現実へ帰る方法は唯一つ。


 必須任務エッセンシャルミッションと呼ばれるものをクリアすること。そうすることで俺らは現実世界へ帰れるのだ。


 しかし、先月の中旬。とある男の手によって、物理的に帰る方法を塞がれた。



 男は名乗った。逆巻反転(さかまきはんてん)と。



 奴の奇行により、必須任務エッセンシャルミッションを提示するAI(人工知能)を破壊された。


 破壊されたという表現が正しいのかは分からないが、傷つけられ、結果的に3日間現われることなく、俺らは夢想世界(ドリームワールド)に3日間現実世界に帰ることができず、閉じ込められたのだ。


 

 だが確かに、AI(人工知能)の一人である、リアは言った。


 『一週間は帰れない』


 と。


 だがしかし、実際に俺らは3日間という短い期間で帰還できた。


 リアにどうして予想期間より短かったのか聞いたが、口を濁された。


 


 もしかしたら……もしかしたらだが、あのときの俺らと同じように、逆巻反転の手によってゲーム世界に閉じ込められてしまったのだろうか。


 というか寧ろそれしか考えられない。


 K県といえばこの県からは近いが、この街からは遠かったよな……まさかあの男懲りもせず『モホウ』とか言う人を探すためにそんなところまで行き、同じように残虐な行為を繰り返しているってのかよ。



「くそっ!!……ふざけんなよあいつっ!!」



俺は拳を握りしめ、叫んでいた。


 奴への怒りが込み上げて来ていた。性懲りもなく人を傷つけるあいつをやはり許してはいけない。


 だがそれと同時にどうしようもないという思いが浮上する。


 奴はその目的を果たさない限りその手を止めることはないだろう。


 被害ばかりが絶えない。どれだけの人間を傷つけようとあいつは悪びれることなく、ただ無邪気な笑顔とダーツを向けて殺戮の限りを尽くすのだろう。


 正義という大義名分を振りかざし……



「ら、雷架……?どうしたのいきなり」



 俺の怒号を聞いて不思議そうにこちらを覗く母さん。今から夕飯の準備しているらしく、今日はカレーだ棟ことが窺えた。


 俺はなるべく心境を悟られないように、目線を合わせず「大丈夫だよ」と言った。


 母さんは「そう?何かあったら母さんに言ってね」と鍋に向かった。





 部屋に戻ると、コミュニケーションアプリツール「LINK」が通知音を響かす。


 それは夢咲高等学校全校生徒……もとい、夢の徒党(レーヴファクション)のグループリンクだった。


 発信者は遠月さん。内容はこうだった。



『皆。私から一つ提案がある』



 すかさず佐藤という名前の奴が返事する。



『提案ってなんだ?』



『来週の月曜日は、体育祭だ。リハーサルも終えもう準備は整っているだろうが、此処で一つどうだ?試しにこの金、土、日曜日の夜を使って、体育祭練習をするというのは』



 あまり反応はよくないだろう。返事もすぐには返ってこない。きっと皆悩んでいるか発現を控えているかのどちらかだろう。


 かくいう俺もあまり気乗りはしないのだが、発言はしなかった。


 だってわざわざ休日に体育祭練習って、どんだけ本気なんだよって話。


 確かに眠るとゲーム世界に連れられる。連れられるが、あんな世界に一秒たりともいたくないという事実は変わらない。だからとっとと現実世界へ帰るために行動はすべきなのだが……



 『皆の言いたいことは分かる。だけどこれも必要なことだと私は思うんだ。夢の徒党……最早我々は一全校生徒という繋がりではないのだ。同じ世界に巻き込まれ、同じ目的を持って手を取り合った同志だ。ならばお互いに絆を深めることは大事だと思うのだが?』



 それに、と続く。



『高校生活は3年間しかない。3年後なんてちょっと遠い話だとは思うかも知れんが、意外とあっという間だ。1年はまだ実感がわかないだろうが、3年は特にその速さを感じているのではなかろうか』



『だからだ。だから、体育祭というイベントを全力で楽しみ、皆で楽しい思い出というものを作ろうじゃないか。そのためには、やはり練習が必要だろう?お互いに全力で勝負するんだ』



 ふむ。いかにも体育会系の考え方だな。俺はあまりそういうのは好かん。


 だが、化物生徒会長である遠月さんの申し出では、断ることは出来ん。というか何をされるか分からん。


 だからだろうか、暫くして大多数の人間が肯定の意を示した。


 俺はめんどくせぇと思いつつも、「自分はいいですよ」と送ってしまった。


 取敢えず生徒会長の反感を買うことはないだろう。








 夜。


 と言ってもまだ8時前で、寝るには早い。


 俺は1階へ降り、木製のテーブルを前に座った。それと同時に、俺の目の前に皿に盛りつけられたカレーが置かれる。



「ありがとう母さん。小鳥は?」



 母さんは自分の分のカレーを置いては、首を傾げた。



「それがさっきから呼びかけても返事が無くてね~」



 っておいおい、つい先月息子が同じ状況になったのを忘れたのか母よ。


 まぁ小鳥はまだ小学生だし、あんな殺伐としたゲーム世界に関わり合いはないだろうがな。というか今のところ俺達高校生しかあのゲーム世界には現われていないから心配する必要はない……のだが、やはり心配になる。



「ちょっと様子見てくるよ。気付かなかっただけかもしれないし」



 と言って俺は立ち上がり、2階へと赴いた。



 妹の部屋の扉の前まで行き、俺は軽くノックした。



「小鳥ー?ご飯だぞーいつまで寝てんだー?」



 返事が無い。


 俺は一度息を吐き、頭をぼりぼりとかいて、ノブに手を掛けた。



「開けるぞー」



 一応断っておいた。


 まださほど色気のある部屋ではないが、端々に見える小物などが、やはり女子なんだという印象を与える。

 小鳥はというと、ベッドでTransDisplayトランスディスプレイを握りしめながら、すやすやと眠っていた。


 何だろう。嫌な予感がする。ただ寝ているだけだとは思うのだが……


 やはりまだ小学生。寝顔はあどけなさが残っている。

 というか、改めて見ても、こいつと俺ってあんまし似てないよなー。まぁ小学生の妹が自分の顔に似ているってのも可哀想だし嫌だけどな。



 「おいっ……小鳥!…………たくっ……」


 俺は肩を揺さぶり起こそうとしたが、むにゃむにゃと寝返りをうつだけで目覚める気配はない。

だから俺はTransDisplayトランスディスプレイを取り出し、目覚ましを1分後にセットし、音量を最大に上げて小鳥の枕元に置いた。



 ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリ



「アイ……」



「愛……?」





「アイッ……キャンフラァアアアアアアアアアアアアアアアイ!!」



「のわぁおっ!?」



 目覚ましの音に反応してか、体をがばっと起こし、そう叫んだ。



「あぁ。お兄ちゃんおはよう」



 目を擦りながら軽く欠伸をする小鳥。

 


「おはようじゃねえおはようじゃ。いつまで寝てんだお前」



 てかアイキャンフライって。小学生じゃまだ習わんだろ。



「お、お兄ちゃん……何で私の部屋にいるの?」



 まだ寝ぼけているのだろうか、いつもより少し高い声でそう言った小鳥は、段々と頭が明瞭になって来たのか、顔を見る見るうちに赤くさせている。



「いや、お前がいつになっても部屋から出てこないから呼び来たんだろ。もう8時なるぞ?」



「分かった!!今すぐ下行くから出てって!!お兄ちゃんのばか!!」


 

 そう言った小鳥は更に顔を赤くさせ、怒りと恥ずかしさを露わに、いるかのぬいぐるみや豚のぬいぐるみなどを手当たり次第投げられ、仕方なく俺は退散した。





「ったく……なんなんだよあいつは……」



 俺は階段をとことこと下り、改めて食卓へついた。



「小鳥はやっぱり寝てたよ。珍しいな。あいつがこの時間に寝るなんて」


 

 もう冷めてしまったカレーを前に、母さんは物憂げな表情でそれを眺めていた。


 扶來家では、食事は基本的に皆揃ってからいただくというのがマナーだった。


 家族がいるのに、差し置いて誰かが食べ始めてしまうと、そこに家族がいても一人で食べているような、そんな孤独感があるからそうしていると母さんが前に言っていた。


 確かにそうすれば、食べ終わる時間も大体同じだから、ばらばらに終わるよりはいいのだろう。

 とは言え、何故母さんがそんな事を考え始めたかと言うと、きっとそれは父さんの死が関係しているのだろうと思う。


 ただでさえ母さんはあまりポジティブな方ではない。最近ではそういうふうに見えても、やはりどこかで無理をしているのだろう。

 

 薄々だが感じてはいる。


 逆に感じるなと言う方が無理あるだろう。高校生ともなれば、家族の心境の変化ぐらい分かってもいいはずだ。

 分からないのは、本当の意味でその人に歩み寄っていないから。見ていないから他ならないだろう。



 やがて小鳥がふらふらと入ってきて、俺の左隣に腰掛ける小鳥。


 そして、声を揃えて「いただきます」と言って、スプーンを手に取り口に含んだ。

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