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灰色人魚の婚約者  作者: 天嶺 優香
七 番外編
43/45

灰色人魚の誕生日

総合アクセス20万!

本編より糖度高め。砂糖を撒き散らしているので閲覧注意。

 白色を最も尊重し、崇拝するルテリア公国。国民はその白を帯びた髪を持ち、海の瞳(オーシャンアイ)を持つ女性を人魚と呼び、美人の基準とした。

 そんな中で濃い灰色の髪を持つルファは人魚としての素質は皆無。どこまでも透き通る透明度の高い海の瞳は持つものの、灰色の髪は人魚として中途半端で、周りから尊ばれたことなどない。

 ましてや、好意すら抱かれたことはないのだ。──だからだろうか。

 婚約者であるロジェになにかをしてもらう、と言うのが酷く困る。

「いいです。いりません」

「駄目だってば。なにか選びなさい。君の誕生日だよ」

 ルファがきっぱりと断るが、ロジェも簡単には引き下がらない。嫁ぎ先のハーキントン侯爵が所有する王都の別邸で、二人はお互いに仁王立ちしていた。ルファの部屋ではあるが、ロジェの後ろには仕立て屋や宝石商、靴職人など。様々な人達が待機していた。

「余計な散財はしないでください、ロジェ」

「散財じゃないよ、これは贈り物」

「だからその贈り物がいらないです」

 これがまだ仕立て屋だけが呼ばれ、ドレスを一着贈ると言うのならルファも有り難く受け取れるのだが、あろう事か彼はここにいる全ての職人にドレス、宝石、靴などをそれぞれ十は作らせろと言うのだ。

 彼としてはルファの誕生日にプレゼントをしたいだけなのだろうが、そんなもの貰ったことのないこちらとしては、どうしても受け取りがたい。

「君も変なところで頑固だね」

「あなたもですよ、ロジェ」

 さっきからこの押し問答はどれくらい続いただろう。やがてロジェは仕方なく肩を竦めて職人達を帰すよう指示した。部屋に二人きりになるとロジェは勝手にソファへ腰掛け、その横をぽんぽんと手で叩く。

「座って」

 声音こそ優しいが、頑固なルファにうんざりしているのでは。隣に腰掛け、不安になってロジェの顔を見上げる。白髪を持つ綺麗な顔をした自分の婚約者は少し疲れた顔をしていた。

「……あの、ロジェ。怒っていますか?」

 おずおずと尋ねて、彼の表情を見るのが怖くてルファは俯いてしまう。彼の返事が中々帰ってこないことも余計に不安を煽った。やっぱり怒っているのだ。

 床に敷かれた毛足の長いふわふわとした絨毯を見つめて動けずにいると──ルファの頬に何か柔らかく温かい感触のものが押しつけられた。小さなリップ音とともに離れたそれに驚いて、顔を上げると、やけに魅惑的に微笑んだロジェと目が合う。

──あ。

 いけない。これは怒っているのではない。目の前にいるルファを甘やかしたくて仕方ないという感情が、目に見えてわかる。

 そう思った時には既に遅く、ルファの唇に今度はしっかりと重なった。

 こちらを押し倒すようにいつの間にか彼の手がルファの背中と後頭部を支えて。気づいた時にはソファの上に寝かされ、彼が覆い被さっていた。

 しかしそれを抗議する暇もなく口づけを与えられ、彼の手が背中と後頭部から離れるとルファの頬や頭を撫で回した。

 口づけも唇だけではなく、額、こめかみ、鼻、また唇。それから首筋にも降りて来て、いよいよ狼狽した。

「あの、ロジェ……、ちょっと、そこは……っ」

 抵抗しようと動く両手は簡単に彼の片手で封じられ、その唇が胸元まで降りて来た時。──いきなり扉が開いた。

「この変態! 暴走するのも良い加減にしなさいよ!!」

 つかつかと無遠慮に入ってきたエリーチェはルファに覆い被さるロジェの後頭部へ手刀を繰り出す。

「ぅぐっ」

 そうしてロジェが怯んでいる間にエリーチェによってルファはそこから抜け出し、彼女に支えられながら立ち上がる。

「屋敷の主になんて事をするんだ、エリーチェ……」

「うるさいわね! こういうのは女を優先するの。男はどうだっていいのよ!」

 醜態を見られたことは恥ずかしいが助けに来てくれて助かった。思わずエリーチェにしがみつくルファを、ロジェが不満気に眺める。

「だって最近仕事忙しくて」

「キエルから聞いて知ってるわよ。ルファとの時間作るために最近頑張ったことは。だけどそうだとしてもこれはまだ駄目。ルファには早いわ」

「…………え」

 先程ロジェの疲れた顔をしていた理由を知り、ルファは状況も関係なくロジェに飛びつきたい気持ちになった。自分との時間を作る為に仕事を頑張っていたなんて聞いて、喜ばないわけがない。

 そんなルファを見て、エリーチェはこちらにもため息を漏らした。

「やだ。男も男ならこっちも同罪ね。……ルファ、そんなに目をきらきらさせないの。今度こそ食べられるわよ」

 そんなエリーチェの忠告も虚しく、ルファの耳には全く届いていなかった。二人だけの世界を作りだすこと数分。エリーチェが助けるんじゃなかったと呟きながら部屋を出て行った。

 その後、ルファもはっと我に返ってエリーチェの後を追って部屋を出ていく。

 結局、ルファの誕生日プレゼント騒動はお互いに譲歩し、三つずつ贈ることで解決するのだが、婚約者に食べられる日はそんなに遠くないかもしれない。

 怖がっているなら徐々に慣れさせればいい。そんなことをロジェが考えているとも知らず、今日もルファはエリーチェやキエル達に囲まれ、気ままな生活を楽しんだ。




 2014.05.29 天嶺 優香

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