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灰色人魚の婚約者  作者: 天嶺 優香
六 彼の言い分と、真相
38/45

4

 ロジェは地図から人気の少なそうな、さびれたところを除外し、人気の多くて夜でも集まる所を限定して考えていく。

 夜でも多数の人が行き来する場所。賭博場、娼館、演劇舞台、食事場。

 大勢が出入りしても目立たない場所。それなりの規模があって、一般客には目のつかない部屋が用意できる所──それも比較的広い部屋。

 出入りも、一般客として行っても不思議じゃない所──そう考えると男性に限定される娼館は省かれる。

 そしてバセット夫人に協力する恐れのある者。逆に大公に忠誠を誓っている所は省いて良い。王族も使う食事場、ホール。

 怪しいのは国が認めていない賭博場。しかし、そんなわかりやすい所など、バセット夫人も選ばないだろう。

 今まで隠し通せていたのだから、決して馬鹿ではないはずだ。

──ならば残るは……。

「比較的大きく、王族と懇意ではないホールハウスだと、どこがある」

 残るは演劇舞台。

 コリアランは問いにすらすらと答える。

「西にあるアラノ、その近くにあるカミロ、出来たばかりのファウス、それからこの間ルファ様と行かれたロぺになります」

「いや、ロぺは省く」

「なぜです?」

「この間、ロぺでリエルダ様と会ったからだ」

 簡潔に答え、詳しい話は省いた。

 コリアランは少しの間、ロジェをじっと見つめていたが、「さようですか」と答えて大公妃の話は終了にしてくれた。

「過去に、今まで闇オークションが開かれたと思われる時期は?」

「去年と今年で絞るなら、去年の四月、九月、十二月、そして今です」

 現在は二月だ。やはり開催時期はばらばらのようで、一貫性がない。恐らく良い品物が入った時に行われるのだろう。

「その時期にしかやらない演目はあるか?」

「今すぐにはわかりませんが、調べることは難しくないと思います」

「じゃあ頼む。八月に出来たばかりのファウスは省いて、アラノとカミロを調べてくれ」

 事前に参加者──闇オークションの運営資金を寄付して高額な買い物をする反政府の人間──に手紙を送り、まず開催を知らせる。その後、開催場所はおそらくいつもと同じで、開催のサインはその時期にそのホールでしかやらない演目。それを目安に主催者たるバセット夫人は参加者に知らせるのではないか。

 コリアランはすぐに調べるために部屋を出て行った。アラノとカミロはどちらもここからそう離れた距離ではない。馬車で飛ばして急げば一刻とかからないだろう。

 闇オークションは夜開催される。授かったこの任務は、きっと参加者が揃い、開催された後に乗り込んだ方が反政府派を一掃出来る。

 しかし、それではルファが売られた後になる可能性も高く、最悪の場合は買い手がわからずルファの行方もわからなくなるかもしれない。

 それだけは避けたい。出来れば開催前に乗り込み、バセット夫人の首を締め上げ、ルファの居所を吐かせてやりたい。

──それが出来たら、どんなに良いか。

 バセット夫人がいるかもしれない人魚館に乗り込んでしまえば、こちらの立場が危うくなるが、もし今人魚館にいるなら駆け込んでやりたい。

 今すぐ、銃口を奴に向けたい。

 ルファが、恋しかった。

「ロジェ様、演目がわかりましたよ」

 コリアランが紙を手に、部屋に戻ってきた。

 かなり早い。コリアランも時間がないのがわかっているのだろう。

「早かったな」

「ホールに問い合わせるとバレますから、メイドに聞きまわっただけです」

 噂好きのメイド達は意外と細かい話を知っている。もらった給金を使って舞台を見に行った者もいるはずで、ここからもそう離れていない──しかも王族が行かないような所はそんなに 料金も高くないために訪れやすいのだ。

「それで?」

「これらの時期に必ずアラノではウィリアム・シェイクスピアの戯曲・マクベスをやっています」

「アラノだけか?」

「はい。カミロではもっと頻繁にマクベスを扱っていますが、アラノはなぜかこれらの時期にだけです」

 著名なシェイクスピアの作品であればもっと公開しても良いだろうに、これらの時期の一日しか──しかも夜にのみ行われるのは、確かに不自然だ。

「逆にカミロは一定の作品を何度も取り扱うことが少ないようで、同じものは年に一度。それもシーズンを通してやっているそうです」

 ロジェはここより西に位置するオペラホール・アラノをぐるりとペンで何度も囲む。

 ここだ。ここで、彼女に会える。

 しかし、ロジェはまだ解けていない難問が残っていた。

「それで、誰か参加者はわかったか?」

 闇オークションの参加者を見つけるのは難しい。怪しい貴族達のリストは手元にあるが、その人数が膨大すぎて時間がかなりかかっている。誰か一人でも目星をつけれれば現地で困ることも、ある程度は回避出来る。

 一般客とは異なる部屋に案内されるのだから、恐らく誰かになにか合図のようなものを用いて闇オークションへ入場するはずだ。

 それを見つけなくては現地に到着しても入れず時間だけが過ぎてしまう。

 そこで、誰か一人でも検討をつけて尾行し、合図を盗み見る──もしくは盗み聞く、と言うやり方だ。

「参加者はまだ絞れてませんね」

「協力者がバレたのが手痛いな」

 テーブルに広がった参加者かもしれない人物達のリストを手に取る。

 時計を見れば時刻は夕方にさしかかっていて、もう考えている時間はない。

 これでもだいぶ絞れた方だ。

 ロジェは上着を羽織り、ハットを被った。空いた片手にカラスを模したステッキを持ち、歩き出す。

「時間切れだ。もう行くしかない。馬車の用意は出来ているな?」

「はい、整っております」

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