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灰色人魚の婚約者  作者: 天嶺 優香
六 彼の言い分と、真相
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1

最終章です。

もう少しお付き合いよろしくお願いします!

 ごとごと馬車に揺られながら、窓の外を眺める。

 別に外の景色が自分の目に写るわけではないが、音で大抵は判断できる。今日は昼まで晴天だったのに、夕方から夜にかけて雨が降り出してしまった。

 ざあざあ振る雨粒の音は、ただでさえ陰鬱(いんうつ)な気持ちが、更に滅入る。

 時刻が遅くなってしまった為にお忍びで城を出なくてはならず、御者はティセルカが勤めてくれている。

 ばしゃりと水を踏む音が響いた。

 そして馬車はやや荒い動きで停止し、そのまま待っていると扉が開いた。

「着きました、カーラ様」

 失礼します、と断りを告げてカロラティエを抱き上げてくれる。

 ティセルカの体は雨で濡れていた。目が見えることなら彼女はかぶったフードの上から、兵士用の皮底ブーツまでぐっしょり濡れてしまっているだろう。

 急にわがままを言って頼んだので、申し訳なくて俯くと、ティセルカが笑う気配がした。

「いいんですよ、これくらいのわがまま。もっと言ってください」

 優しい言葉をかけてくれるティセルカに、冷え切っていた心がじんわりと温かくなる。

 ティセルカはカロラティエを腕に抱えて、軒下に入った。彼女が配慮してくれるおかけで、カロラティエは雨に濡れてはいない。

 何度か扉をティセルカがノックし、すぐにガチャリと音が聞こえた。

「なんだ、こんな時間に。なにか急ぎの用か?」

 昨日聞いたばかりの調香師の声が、カロラティエの耳に響く。カロラティエは手を握りしめた。

「あなたに、 ご相談がありますの」

 迷いたくなかった。

 もうこれ以上、人を傷つけたくない。彼女ならなにか答えをくれるかもしれない。


    ***


 こんな夜更けに尋ねたことは迷惑に違いないのに、暖炉で温めた部屋でスープまで出してく れた。

 ティセルカは案内された部屋にカロラティエを座らせ、馬車を連れてハーキントン家に向かってもらった。

 彼女には聞かせたくなかった。

 帰りにまた迎えにくるように言ってある。

 スープの入った小さなカップを手に持たせ、オレーシャは尋ねた。

「で? 私に相談とはなんだ?」

 ゆっくりと落ち着いた声で聞かれ、カロラティエは深呼吸をして、話し出す。

「わたくしが、公女がどうあるべきかを教えてほしいのです」

「私にそれが答えれるかどうかはわからぬが、話してみろ」

 カロラティエはぽつりぽつりと話し始める。自分の結婚のこと。ルファに当たったこと。ティセルカと離れたくないこと。

「わたくしは、怖いのです。目の見えないわたくしでも政治の駒として使うお父様が怖い。一人で知らない土地に行くのが怖い。また、なにもない真っ暗な世界になってしまう」

 カロラティエの世界は、たとえ見えていなくても決して暗くはなかった。

 ティセルカがいる限り、そこは温かくて安心できる、優しい世界だった。

「ルファに当たったことは間違いでした。愚かでした。だけど、ずるくてたまらない。わたくしを置いて、幸せになってしまう人全員が羨ましくてたまらない。わたくしは一人なのに」

 ぐつぐつと暗い感情が湧き上がる。

 この陰鬱なものを、吐き出してしまいたい。

 ひたすら、叫びたい。罵りたい。泣きたい。喚きたい。──そしてなにより。

「わたくしは一人ではないと、思いたい」

 情けなく泣き声になってしまうカロラティエをからかうこともなく、オレーシャは静かに耳を傾けていた。

「で、どうしたいんだ?」

「……ルファに当たってしまったように、わたくしはこの感情を止められない。止めるには、どうすればいいの?」

 公女としてどうするべきか。どうこの感情を制御するのか。オレーシャに教えてほしかった。

「止めるには、だなんて私が示唆(しさ)することはできない。それぞれ王族が抱えて、個々の考えで処理をするものだ」

「そう、ですわね」

「だが助言くらいはできる」

 カロラティエは俯きがちになっていた顔を上げた。

 助言、とは一体なんなのだろう。

「楽しみを見つければいい」

「楽しみ?」

「嫌なことばかり考えるから暗くなる。だから楽しいことを考えるといい」

 なにを馬鹿な、と思った。

 そんなこと考えれたら苦労しない。楽しいことなんて、一つもないのだ。

 カロラティエの不服が滲んだ顔を読んだのか、オレーシャは笑って続けた。

「なにもないか? 本当になにもないか? お前はどこの国に嫁ぐのだ?」

「わたくしは、ミデラ王国に」

「ミデラ! お前はミデラになにがあると思っている」

 聞かれて、答えがわからなかった。

 ミデラミデラ、と名前を何度か口の中で繰り返して──はっとする。

「ミデラはどこにある? このルテリアみたいな内陸国じゃない。海に面した、漁港が栄えている国だ」

 海、とカロラティエは呟いた。

 ルテリアはなぜ白髪と海の瞳、そして美声を持つ女を人魚と呼ぶのか。

 簡単だ。海など縁もゆかりも無いから──広大でどこまでも続く海を見ることが叶わないからそれに憧れたのだ。

「でも、わたくしには海なんて見えないわ」

「馬鹿だな。海は見なくてもいいんだ」

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