表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色人魚の婚約者  作者: 天嶺 優香
五 私と、彼女と
31/45

2

 エリーチェが羞恥で顔を真っ赤に染め上げ、握った拳を震わせながらこちらを睨んでくるが、にっこり微笑んで気にしないふり。

「少女趣味ですって!?」

「そうでしょ」

 一方は笑顔で鉄壁を作り、もう一方は般若面をしてゴゴゴ、と怒りの炎を燃やしている。

 そうしてばちばちと火花を散らせていると、菓子を運んできたグルテが頬に手をそえて、ふうと呆れた様子でため息をついた。

「仲がよろしいのは結構ですけど、お茶が冷めてしまいますよ?」

 菓子をテーブルに並べながらグルテはそう言い、忠告を受けた二人ともが同時に「仲なんてよくありません!」と声をはもらせた。

 グルテはぱちぱちと目を瞬かせ、やがて思いっきり呆れ顔になる。

「そうですか。とっても仲がよろしく見えますけど」

「やめてよ! 誰がこんな根暗女!」

「私だってごめんです! あなたみたいな自己中女!」

 お互いの本を冒涜し合い、なぜか今は引くに引けなくて意地を続ける。

 ルファは別にエリーチェを怒らすせるつもりは毛頭無く、ミステリー小説を馬鹿にするエリーチェに少し言ってやりたかっただけだ。

 意地になって引けなくなっているのはおそらくエリーチェも同じで、顔をしかめながらもこちらをちらちら見ている。

 彼女はグルテの持ってきた菓子を食べながらそっぽを向き、実に不服そうな顔をして言った。

「ねえ、そろそろ面倒だからこのへんにしない?」

「……はい、疲れます」

 お互いが和平を認めたところで、エリーチェはグルテに尋ねた。

「また今日もロジェは仕事なの?」

 今聞きたくない堂々一位に位置する男の名前に、ルファの体が思わずこわばる。

 あやうく持っていたカップを落としそうになってしまい、平静を装ってカップをテーブルに置いた。

 グルテがそれを見ていたのかは定かではないが、エリーチェのカップに淹れたての紅茶を注ぎながら答えた。

「はい、 お仕事でございますね」

「あいつはなにしてんのよ。婚約者を放置だなんて良いご身分だことね」

 エリーチェは悪態を付きながら紅茶に口をつける。

 彼女なりにルファを心配していたらしい。ほんのり頬を赤く染めながら、顔をしかめて飲ん でいる。

「確かにルファ様と最近お会いになられていないようですが、大丈夫ですよ」

「……なによ、大丈夫って」

 ルファも一体なにが大丈夫なのか知りたくて、目線をグルテに向ける。

 グルテは柔らかく微笑んだ。

「ふふ。だって、ロジェ様ってばルファ様のことが大好きなのですから」

「は?」

 エリーチェがぐっと眉間を寄せてグルテを凝視している。

 ロジェから好意を感じたりはするが、大好き、というほどではないだろう。

 なぜグルテがそんなことを思っているのか。彼女の表情には嘘など見当たらなくて、困惑す る。

「大好き? でもそんな素振り一つもないわよ?」

 確かに、ロジェがルファに取る態度は、社交辞令を言って褒め、そつなく相手をする紳士的 な──少しそっけないくらいの態度しかない。

 優しくするも他の人にするように平等に、という接し方で、どこをどうみたら大好きに繋がるのかがまったくわからない。

「なにを根拠に言ってるのよ」

「根拠など、ロジェ様のお顔を見たらわかります」

 うふふ、と笑うグルテに、ルファもエリーチェも訳がわからない。

 ロジェはきっと別に、好きな人がいる。──あの美しい、現ルテリア大公妃のリエルダを、慕っている。

 年だって親子ほどは離れていないし、もしかしたらリエルダもロジェに気があるのではないか。 美しい白髪の者同士、きっと並んだら絵になる。

 それに、リエルダは泣いていた。

 涙の理由は知らないが、結ばれないお互いを想って、かもしれないし……。──考えたら頭が痛くなってきた。

 余計なことは考えたくないのにぐるぐる頭を回る。

 心が乱される。

 いつの間に自分は、 こんなにロジェでいっぱいにされていたのだろう。


    ***


「え、カロラティエ様が?」

 エリーチェと二人きりになると、彼女は唐突に切り出した。行儀悪くテーブルに肘をつき、悪戯っぽく笑っている。

「そうよ。迎えの馬車も来るわ。だから、ちょっと提案があるのだけど」

「提案?」

 エリーチェの話では、屋敷に戻ったティセルカがエリーチェに伝言を託したらしい。

 カロラティエから話があるので来て欲しい、と言うことだった。

 そこでなんの提案があるのかと不思議に思って耳を傾けると……。

「最近ロジェがかまってくれないから寂しいでしょ? だから、ちょっと心配させてやろうじゃないの」

 つまり、ルファがカロラティエに呼ばれていると言うことはティセルカと、伝言者のエリーチェ、それから本人であるルファしか知らない。

 ティセルカは今日も昼頃からカロラティエの元へ行っていて、屋敷にはいない。

 誰にも告げず、カロラティエの元へ行って、ロジェを心配させてやろうと言う作戦なのだろう。

「でも仕事があるでしょ? あまり煩わすことはしたくないのだけど」

「なに言ってるのよ! あんたは婚約者でしょ? 婚約者を放置する方が悪いのよ!」

 親身になってくれるエリーチェの気遣いは有難いが、そんなことして良いのだろうか。

 しかし、 彼がルファを心配してくれるのかも気になる。

「ロジェを試す最大のチャンスなのよ!」

「……チャンス」

 試すもなにも、ロジェは好きな人がいる。 ──でも、少し。ほんの少しでも心配してくれるのなら……。

「そうですね、やりましょう」

 あの人の心が少しでも見れるなら、馬鹿なことを一つやってみよう。


    ***



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ