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灰色人魚の婚約者  作者: 天嶺 優香
四 友人と街へ、調香師は笑う
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2

「え、 外ですか?」

 公女を外に連れて行ってもいいのか。危険ではないのか。自分に果たしてそんな大仕事、出来るのか。そんなことが一瞬でルファの頭の中を駆け巡り、さあっと顔色が悪くなっていく。

 そんなルファの表情を読んで──と言うのはまさかないと思うが、おそらく沈黙の間で感じ取ったのだろうカロラティエは、くすりと笑った。

「大丈夫よ。そんな大げさなことじゃないわ。ただ同い年の女の子達みたいに外へ出かけてお 買いものをして、食べ物を買って──そう言う普通のことをやりたいの」

 華やかな笑顔が、少しだけ曇ったのをルファは見逃さなった。

 気分が落ちたのを無理矢理上げようと、カロラティエは背筋を伸ばし、明るい声を出して 続けた。

「それにティカも一緒に来てくれますし! ティカとわたくしと、あなたと、エリーチェと。あとキエルも。女の子だけで遊びに行きましょ?」

「私はもう年齢的に女の子ではないけどね」

「細かいことは気にしちゃだめよティカ」

 庶民は貧しいその日暮らしや、厳しい労働から、貴族に憧れる。

 王族は崇めるもので、しかも庶民が願うには遠すぎるから。

 貴族は自分の地位確立や、権力欲しさに、やがては大きな野心を抱きだす。自分が政治の中心にいたいから。

 王族は色々なものに恵まれ、色々なものを我慢しなくてはいけない。気軽な外出も、親しい友人も──自由がない。

 公女として今までも、これからも我慢し続けなくてはならない。王族だからとすべてが恵まれているわけではない。

「……どうかしら。わたくしと、遊んでくださる?」

 公女ならお願いではなく命令した方が早いだろう。

 でも、カロラティエの外出はそれでは意味がない。仲の良い女の子同士で遊びに行きたいのだ。王族、とかは関係なく。

 ルファは椅子に腰かける彼女に歩み寄り、驚かせないようにそっと小さなカロラティエの白い手に触れる。

「もちろんです。遊びに行きましょう、カーラ様」

 カロラティエはほっと息をつき、顔を綻ばせた。ルファの手を握り返し、こくこくと頷いている。

「カーラ様、おいしいパイとかどうですか? 最近人気らしいですよ」

「いや、パイよりもケーキはどうですか? ジャム入りの紅茶が流行っていて、かなり評判の店があるのですが」

 カロラティエの座る椅子の後ろでそれまで静観していた護衛二人が、急にいそいそと何やら冊子を手に、街で人気の店や今の流行を進めている。

「香水売りとかはどうです? あ、帽子屋とかもいいですよ」

「いっそ食べ歩きを実行してみてはどうでしょう! もしくはピクニックとか!」

 カーラは口元を押さえて楽しそうに笑い、ルファの手を離して少し後ろへ顔を動かす。

「パイもケーキも香水も帽子もいいわね。食べ歩きも面白そう。でもピクニックまでする時間はないと思うわ。……また、今度にしましょうね」

「今度って……」

 ティセルカが何かを言いかけ、口をつぐんだ。カロラティエにもそれがわかったのか、少し俯いて、笑う。

「今度よ。また、今度。いつか。そのうちに、ね」

 定かではない不確定な約束の言葉を繰り返す。

「はい。絶対です」

 ティセルカが曖昧なカロラティエの言葉を確実なものにする言葉を口にする。

 それが叶うと良い、とカロラティエ。

 それは叶えてみせる、とティセルカ。

 心の通じ合った主従は言外でも、表情でそれが伝わってくる。

 何か、カロラティエは病を患っているのでは、と勘繰ってしまうが、真相はわからない。

「さ、早く行きましょう。ぐずぐずしていてはパイが売り切れてしまうわ」

 はい、とルファは笑顔で返事をする。考えてもわからないのだから仕方ない。

 今日は、楽しく女同士で遊ぶのだ。


    ***


 留守番を主人から言いつかったサルークはかなり残念そうに未練たらたらで見送っていたが、それに慣れているのだろう女性二人は特になんの反応も返さず素早く馬車に乗りこんでいた。

 向かい合わせに二人ずつ座り、なぜかキエルはティセルカの膝の上に座っている。これで二十歳とわかれと言う方が酷だろう。

 かなり堂々と座るので、おまけにティセルカがなにも言わないので、果たして周りが突っ込んでいいのか迷う。

「あ、あたしパイが気になるわ!」

 ならばと早速女同士の話題に入ろうとするエリーチェはさすがと言うべきか。どもってしまっても仕方ない。

「パイか。やっぱり定番のミートパイを攻めるべきかな? どう思います?」

 何食わぬ顔で会話に参加したティセルカが隣のカロラティエに振る。 二十歳のキエルがティセルカの膝に座る、と言う場面を見れないカロラティエはにこりと笑って希望を口にする。

「コーニッシュ・パスティも気になります」

「あの弦月のパイですか」

 コーニッシュ・パスティとは牛肉と薄く切ったじゃがいも、カブに良く似たルタバガ、玉ねぎを具材にして焼いたもので、折り畳んで具材を包むので形は半円形。同じ半円形をした月を模して弦月と呼ぶのも理解できた。

「エリーチェは?」

「んー、あたしはシェパードパイかしらね。マッシュポテトが乗ってて、とってもおいしいのよ」

「私は断然ポークパイです!」

 キエルが胸を張って主張する。

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