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灰色人魚の婚約者  作者: 天嶺 優香
二 灰色少女、赴く
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6


    ***


 それぞれ輪になって会話を楽しむ貴族と淑女達。

 ルファとロジェがサロンへ足を踏み入れた、瞬間。ぴたりと会話が止んだが、すぐに元のざわ めきを取り戻す。

 それは一瞬のことで、嫌な雰囲気を感じ取ったが、ルファも隣にいるロジェもなにもなかったように振る舞う。

 ルファはロジェに連れられて屋敷の持ち主であるハイグラウ優男爵家の当主と挨拶を交わした。

 人魚が貴族に嫁ぐ場合その実家は名目上、爵位を手にする。名誉貴族と一般的には呼ばれ、定められた優男爵という爵位と、屋敷、土地が与えられる。

 もちろんルファは実家などないのでそのような取り計らいは不要だが、他の人魚達は割と多く爵位をもらっている。

 そして、ルファの記憶が正しければハイグラウ家は現大公妃の実家のはずだ。ということは目の前にいる、先程挨拶をした細身の老人は大公妃の父親で……。

「どうかした?」

 ルファの顔色が悪くなったのに気づいてロジェが声をかけてくれる。

「いえ、あの、お偉方ばかりに会っているので、少し緊張が……」

「そう? 偉いとはいってもそんなに緊張するほどじゃないよ」

 確かに生まれた時から貴族の彼は、通常なら庶民が顔を見ることも許されない上流貴族。対して、いくら名誉貴族でも元は庶民。人魚のお陰で成り上がったにすぎないのだ。

 実際に元庶民と馬鹿にして陰口を叩く貴族も多いはずだ。

「ロジェ!」

 突然名前を呼ばれ、そちらを見ると若い男女が立っており、男性がこちらに手を振っていた。

「ニコラス、もう来てたのか。早いな」

「まあな。 ……やっぱりお前は真っ黒なんだな」

「俺の正装だよ」

 ニコラスと呼ばれた青年は、こちらに歩きながらロジェの浮いた格好を苦笑しながら指摘する。

 ロジェはそんなニコラスに少し肩をすくめてみせ、ルファの腰に手を回して笑む。

「ルファ、彼はニコラス・ウィル・ゴードン伯爵。俺の古い友人だ。そしてその隣がニコラスの婚約者のコスタ嬢」

「君がロジェの婚約者だね。噂は聞いてるよ」

 どんな噂かは少し気なるが、どうせ良いものではないだろう。

 ルファはひとまず外用の笑顔を向ける。

 ロジェの友人やその隣に立つ美人な婚約者も、ルファはあまり興味がない。それよりも、自分の腰に回る腕が気になってしょうがない。

 にこやかに紳士面をしているが、果たして友人に紹介しやすい為だけなのだろうか。

 ルファを困らす算段は少しもない? それを信じるにはまだ彼のことを知らない。

 どうやってこの腕を離してもらおうかと考えをめぐらせていると、ニコラスの隣で微笑むコスタと目があった。

 コスタは長い黒髪を高く結い上げた少し外見はキツめの美人だが、にこやかな笑顔をこちらに向けてくれる。

「男同士、積もる話もあるでしょう? ルファさんは私の友達の所に行って一緒にお話しましょうよ」

 コスタに誘われてどうして良いかわからずロジェを見上げると、彼は微笑んでルファの背中を押す。

「行っておいで。後で迎えに行くよ」

 ロジェの言葉に頷き、コスタに誘われるまま歩き出す。

 サロンを出て庭に入ると、数人で輪を組む若い女性達がいた。

 彼女達はコスタに気がつくと振り向いて手を軽く振ってきた。

「あら、コスタ。早かったのね」

「もう少し時間がかかると思ったわ」

「私が手間取るわけないでしょ」

 ふんと鼻を鳴らして意地悪く笑うコスタは、先程の優しさのかけらもない目つきでこちらを見た。

 コスタの友人であろうその女達もそれぞれ遠慮のかけらも感じさせない視線で値踏みしてくる。

 連れて来た張本人であるコスタは、およそ淑女らしからぬ態度で──つまり、顎をしゃくって陰険な顔でルファをさした。

「これよ」

「え、 これ? まさか本当に?」

「人魚って聞いてたから期待したのに、まさかこんなのが?」

 いきなり複数の女性から罵られ、おまけにこれ呼ばわりをされてルファは戸惑った。

「……あの、 コスタさん?」

「ねえ、凄い髪色ね。まさかこんな汚い色でも人魚なの?」

 おずおずと名前を呼ぶが、彼女は冷めた目線を向けたままだ。

 罵倒されるのには慣れているので、さして深くは傷つかないがこの嫌な雰囲気の場所からは抜け出したい。

 どうしたものかと周りを見るが、人気のないところを選んだようで、木陰で談笑するグループなどコスタ達しかいない。

「ちょっと、まさか本当に結婚するんじゃないわよね?」

「まさか。もし本当に結婚したらロジェ様がその程度の方だったってことよ」

 ルファは少なからずあの婚約者に感謝している。

 たとえ貴族になんてなっても罵声を受け、再び耐え忍ぶ生活が待っている。

 しかし、あの魔女達の巣窟から抜け出せたし、毎日三食きちんと豪華な食事を取っている。

 綺麗な装飾品やドレスに囲まれるのも、やはり女性に生まれてきたからには憧れるし、もらえば嬉しい。

 なんの取り柄のないルファにも、一つ役に立つ能力を持っている。

 日頃から底辺で人の顔色ばかり窺ってきたために身に着いた、他人の表情を読み取る能力。

 しかしながら最近傍にいる婚約者についてはほとんど表情が読み取れない。

 嘘をついているか、真実を口にしているか、相手はルファを気遣っているか、妬んでいるか、見下しているか。

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