Mission start!
三話、初の戦闘描写です
どうぞ!
「ふん…ここ、ほんとにどこだ?」
砕牙は一人、バック一つと栄養食品を片手に途方に暮れながら歩いていた
「分かったことと言えば、ここはあんまり文明自体が今に比べてかなり未発達ってことか。歩いてるここが獣道みたいだけど、人が歩いて草がなくなったような形跡があるし」
周りの状況、その他を注意深く見ていくことで、確実に情報を掴む砕牙。インターポールでの経験はここで生かされているようだ
「…しかしだ。人がここまで通ってるなら何でこの珍妙な草木が世に知れてない。普通ニュース位にはなってるはずだが」
そして砕牙は段々と現代との矛盾にも気付き始めていた。砕牙は近くにある緑の花を咲かす植物を抜き、じっくり観察する
「……いや、まさか…あいつの事が真実だとでも?」
砕牙が思い至ったのは、自分をこの場所に送った男、アトルの言葉
「情報がまだ少ないんだ。早とちりなんて俺らしくない」
砕牙はそこで突拍子もない考えを捨て、花を放り投げて再び歩き出す
キャアアア…
「っ!今の!」
しかしそんな中、彼の運命は確かに動き始める。一つの悲鳴が彼の始まりとなるなど、今の彼には想像もつかないだろう
「今の声の方角だとこの辺り…っ!あれか?」
砕牙が悲鳴を聞いて少しした後、彼は道の外れを進むと、悲鳴の主であろう女性を見つける。だが彼女を追い詰める者達を見た砕牙は驚きが初めに来たが、すぐさま右腰のホルスターからハンドガンを抜き、両手で構えて狙いを定めた
(今はあれが何かは関係ない。まずは目標の女性の安全を確保。次に敵戦力の排除、敵はナイフと棍棒を所持、状況からするに女性の生命の安全が最優先)
「あいつには悪いが、不可抗力による犠牲になってもらおうか」
そして砕牙は躊躇なく狙いである女性に最も近いターゲットに向けて、引き金を引く
「Hey!レディに向かって四対一とは…お痛が過ぎるぜ腐れ外道が」
一人目の敵の沈黙を確認すると、砕牙はゆっくりと前に進み出て、まずは女性から自分に気を逸らせる
「ニンゲン!キサマヨクモ!」
「コロス!」
「はっ、余り好意のある歓迎じゃないな。そこの人、ここから離れられます?」
砕牙はそう言いつつバックを下に落とし、敵に銃口を向けたまま女性に声をかける
「え?は、はい!」
「OK、なら離れて。こいつらは確実に殺しに慣れてる。出来るだけ俺の視野に入る位の場所に避難して下さい、後周囲の警戒も忘れずに。伏兵を考慮して動いて下さい。さあ行って!」
「わ、分かりました!あ!」
だが女性は動こうとするが、網が絡まっているので動けないでいた
「っ!嘘だろおい…一番最悪のケースだ!」
砕牙は思わず毒づく。一般人を庇いながらの戦闘は、成功の難易度を格段に跳ね上げるものだからだ
「コロセ!コロセ!」
「アノニンゲンカラコロセ!」
だが砕牙は敵である緑の小人の話であることに気づく
(あいつら、怒りで俺しか見えてない?)
「ギャアッ!ギャアッ!」
砕牙が思考する間に、棍棒を持った異形が襲い掛かる
「…なら好都合か」
そして砕牙は近付く敵の足元をハンドガンで撃ち、進行を止める
「フーッ、フーッ!」
警戒を始めた三体の異形。その姿を見る砕牙は不敵に片方の口の端を吊り上げ
「さあ、ミッションスタートだ」
始まりの狼煙を上げた
「ギャアッ!」
先ほど近付いてきた一体は再び砕牙に近付くと、棍棒を振るう
「おっと」
だが彼はそれを軽く半身をずらして避けた後、前のめりになった異形の顔面に右足の全力を込めた蹴りを叩き込んだ
「ギィィ!」
異形は声を上げて体を仰け反らし、地面を転がる。すると砕牙はすかさず前に前転する。その直後、彼のいた場所を風を切って矢が通り過ぎた
「狙いが甘いんだよちび助」
そして砕牙は片膝をついた状態からハンドガンを構え、ボウガンを持つ異形の頭を撃ち抜く
「危ない!」
「っ!」
そこに横から飛んできた悲鳴。砕牙はその声を聞くやいなや、肩を使って横に転がる
「ヒャハー!」
その行動の後の一瞬、彼の背後からナイフを持った異形の刃が空を切った
「恩にきるよレディ」
「あ…その、どう致しまして///」
すると砕牙の目にあるものが止まった
「…丁度いい、弾の節約になる!」
それは初めに倒した異形の死体。そしてその側に転がっていた短剣である
「ギィィ…」
「さて、お仲間はほぼ天に召されたが…どうする?」
砕牙は短剣を逆手に持ち、眼前に刃を運んで構える。彼はアメリカで戦闘訓練を受けているので、ナイフは勿論、総称した近接格闘術を会得している
「ギャアアア!」
異形は怒りに震えた面持ちでナイフを振り上げて近付く
「隙だらけだ」
それを砕牙はナイフを持つ手首を斬り飛ばすことで対処する。手首からは血が吹き出し、苦しむ異形。だが
「黙ってろ。すぐに楽にしてやる」
ゴキンッ!という鈍い音が鳴った後、異形は首をぶらぶらさせながら地面に倒れる。砕牙が背後から首を回して折ったのだ
「ふぅ、終わりか」
砕牙はさして疲れを見せずに肩を回す。そして死体を一瞥したあと、倒れて呆然としている女性に近付いた
「失礼、大事ありませんか?」
「へ?あ、はい!大丈夫です。その、助けて頂いてありがとうございます!」
女性は砕牙に向かって頭を下げると、砕牙はしゃがんで肩に手を置く
「別に感謝することじゃありません。命の危険を見過ごすよりずっと良かったから手を伸ばしただけです。それより、足の怪我は?」
「え?だ、大事ありません。これくらいなら歩けます」
女性は笑ってごまかしてはいたが、実際足は黒く泥だらけな上に怪我をしているので、余り良いようには見えない
「……少し待って下さい。ああ~、あった。案外色々持ってたんだなこいつら」
「?」
すると砕牙は女性から離れると異形の荷物を漁る。そしてお目当てのものを見つけると、短剣を使って女性の足に絡む網を切る
「とりあえずこれで足を洗って。消毒が出来ないのが気になるが、やることに越したことはないはずです」
「あ、ありがとうございます。そこまでして頂くなんて本当に…って何をなされてるんですか!?」
女性は砕牙がしている行動に驚く。砕牙は女性の足の網を切るやいなや、彼が着ている服の肩の部分からバッサリと切ってしまったのだ
「何って、それ以上細菌が入っては化膿します。だから気休めで足をこれで巻いてもらおうと」
「い、いや!そんな高そうな服を切ってまで私などの足を守って頂かなくとも!」
「といってももう切りました。それにあなたのような美しい女性に使われるなら、このシャツも報われます」
砕牙は努めて優しく微笑むと、女性の足を、異形の持っていた水で丁寧に洗う。それを見ている女性は終始顔を赤くして見ていた
「そうだ、名前を聞いていませんでしたね。私は獅頭砕牙、日本の者です」
「あ、はい!砕牙さん、ですね…私はシェリー、シェリー・メリーランドと申します」
そして二人は名前を交わす。砕牙にとってそれは初めての現地人との接触だった
「あの、砕牙さん…」
「ん?どうかしたか?」
あれから砕牙は助けた女性、シェリーの応急手当てを終えてその場を離れようと彼女を抱きかかえて移動を始めた。……お姫様抱っこで
「いえ、何でもありません///」
「?変な奴だな」
ちなみに砕牙が敬語を止めたのは、シェリーが頼んだことだ。彼女は18らしく、22と明かした砕牙に敬語を使われるのは慣れないということらしい
「方角は合ってるのか?」
「はい…砕牙さん、お願いです。捕まった村々の娘を助けて下さい!」
「…はあ、出来れば単独でやるべきではないんだが……時間がないなら仕方ないか」
二人が話していること、これも実は手当ての時に頼まれたことなのだ。何でも彼女を襲っていた異形はゴブリンと呼ばれる妖精らしく、略奪と色事を好む種族らしい。知能は低いが背丈の割に膂力があり、集団で襲ってくるので、村の人間からすれば厄介なのだそうだ。ここ最近、ゴブリンの活動が活発らしく、冒険者と呼ばれる言わば傭兵団に依頼を申し出たのだが、一足遅く襲撃に遭い女は誘拐され、食料も盗られたのだそうだ
「それで、今から行くゴブリンの住処は大きい集団で、幾つかの村の女がまとめて隔離されていて?おまけに今日は定期の宴で、女を好き放題に出来る日になっていると?」
「はい、1ヶ月に一度に宴が開かれているらしく、村の女は合わせても百単位は連れ去られているみたいなんです」
「はあ…これは隠密行動がベストかな。それにしても、シェリーは案外タフだな。どうやって逃げて来たんだ?」
すると砕牙は目線をシェリーに向けた
「捕まった人達の協力のおかげです。お互いに情報を取り合って連携したんです」
「はぁ、中々行動力がある…そういう奴は嫌いじゃない」
「へ!?そ、そうですか?」
「ああ、自分の道をきっちり自分で作れる女は、いざという時頼りになる。これを良い女と言わず何という」
「あ、あはは…そうですか。私が良い女ですか///」
終始顔が赤いような、と思いつつ砕牙はあえて気にせず、目的地へ向かう
「ここです。見張りがいるので身を潜めて下さい…」
すると唐突にシェリーの指示が入り、砕牙はシェリーを降ろしつつ指さされた方向を見る
「確かに…チビ共が見張ってるな」
砕牙が見た方向には三体のゴブリンが談笑するように下品な笑い声を上げて見張りをしていた
「……シェリー、作戦を立てる。一旦離れるぞ」
「は、はい」
だが砕牙はすぐに行動を取らず、一度その場を離れた
「シェリー、さっき中の女達と連携していたと言っていたな」
あれから住処の少し遠ざかった場所で、砕牙は座ってシェリーと作戦を立てていた
「はい、言いましたけど…」
「なら、中の構造については?」
「はい、聞いてます」
「良し。じゃあ地面に書いてくれ。書き終わったら言ってくれ」
すると砕牙は地図を任せて何やらバックを漁り始めた
「?何をしているんですか?」
「いや何。攻略法を考えてる所だ」
砕牙はそう言うとバックに入っていた大量のバレットの中から幾つかを取り出し、マガジンを用意する
「はぁ…砕牙さんが使っていたのは魔法ではないのですね」
「……まあな。この弾をこのマガジンってのに突っ込んで、この武器、ハンドガンに装填して引き金を引けば、まず人間が避けられる速度じゃない攻撃を可能に出来る。後は急所を当てればほぼ必殺の威力はある」
「…まるで魔法なのに、魔法じゃないんですね。それ」
「…だな。全くその通りだ」
唖然とするシェリーを見て、砕牙は少し疲労の色を濃くした。何故ならいよいよ本格的に自分のいる場所の重大さに気付いたのだ
(銃なんてありふれた存在を知らず…魔法ってワードを当然の如く言う人間、そしてゴブリンとか言うお伽話くらいにしか出てこない化け物の存在…そして俺をここに連れてきたアトルの話。余りにも非現実的な話…だが現実がこれじゃ認めざる負えない…か)
だが砕牙は頭を掻いて現実逃避を避けるように切り替えた
「ふん…今回はこれで妥当か」
砕牙は休めず手で取っ替え引っ替えしていたマガジンの中から特定したマガジンを取り出し、自分の腰の周りを囲むようにセットした。更に腰につかないマガジンは肩にかける専用のホルダーに入れて装備した
「砕牙さん、書けました」
「お、都合が良い。早速始めるか」
そして砕牙自身の準備が出来た丁度その時にシェリーも地図を書き終え、指示を煽った
「…砕牙さん。本当に一人でやるんですか?」
「君には道案内と地図の製作…これ以上ににないほど世話になった。更に応援要請まで請け負ってくれたんだ。シェリーがいなかったら恐らくこの救出そのものが成り立たなかった…だからここからは、俺の仕事だ」
砕牙の言う作戦会議とは、シェリーへ一方的な質問を煽り、それに応じてシェリーに指示を送るだけの簡素なものだった
「でも…」
「インターポール舐めんな?こちとら潜入は嫌って程体験したんだ。今更ちびっ子の秘密基地程度の潜入、お手のものさ」
そして彼は歩みを進め、ゴブリンの住処である洞窟を目指す
「砕牙さん!」
「?」
だがシェリーは何故かその行動を引き止めるように名を叫ぶ
「あ…あの、こ…さ……」
「シェリー?」
「…いえ、お気をつけて。決して!無茶しないで下さい!」
「…ああ」
シェリーは何かを言い淀んでいたが、砕牙はそれを心の端に置く程度で済ませ、ゴブリンの元へ向かった
「さて…ここからだ」
砕牙はシェリーから顔を背けた直後、鋭い目つきで前を見据え、不敵な笑みを浮かべながらハンドガンの弾をリロードした
一人目のヒロイン、シェリー登場。彼女の協力により、作戦の成功率が各段に上がった砕牙。彼は無事全員を救出出来るのか?運命はただ回る
では失礼!