表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/101

-97-

どうしてこの人は立ち上がるのだろう。


ピタリと頭に照準を合わせながらあたしは考える。


もし、あたしなら…適当に切り上げて、反撃のチャンスを窺う。


一度くらいなら尻尾を振る真似くらいしてもいいわ。


あの時の痛みに比べたら、そのぐらい何てことはない。



無様に地面に転がりながら、目は一度もそらさず、未だに強い光を宿している。



なぜそんなに他人にこだわるのか、まったく理解ができない。


裏切ったあたしのことなど忘れて、日常に戻ればいいのに。


愛とかくだらない妄想に、取り憑かれているのではないかとさえ思う。



生殺与奪の権利はあたしにある。この人差し指に力をこめれば…あったものに変わるだけ。


他人の命などあたしに関係ないわ。…ただ、名前があの子と一緒なだけ。


それなのに、どうして引金が引けないのだろう?



キングの命令は絶対。


組織にいる者なら、一般常識以上に当然のルール。


もちろん命令は聞こえていた。


だけど…。



あたしは今までに一度も手を汚したことはない。組織には、そこにいるナイトのように実行部隊がいるから。


なのに、なぜ今回はあたしに引金を引かせようとするのだろう?


思考の癖を素早く読み取るように、反射して考える。



【どちらでも同じこと】とキングは言ったけれど、それはきっと不自由な二択。予め答えが決まっている。


では、なぜあたしにそれをさせたいのか。


本当に殺すだけなら、ナイトだっていい。なのに、一撃でトドメをさすやり方ではなく、まだるっこしい方法で、未だ生かしている。



これはきっとあたしに対する挑戦。いろいろな要素が絡んでいる。


忠誠心、度胸、痛みや悲しみ。



この人差し指を引けたなら、組織の中での地位は磐石なものになるだろう。


引けなかったなら…きっとあたしはまた一人ぼっちになってしまう。いや、すぐに会いに行けるかな。


唯人、お姉ちゃんバカだから、何かを間違えたみたい。



誰も巻き込みたくなかったのに、結局あたしは誰かを不幸にしてしまう。


同じ名前だからと、興味さえ持たなければ、こんなふうに傷つくこともなかったのに。


もう許してくれないよね。



霞がかった思考の果てには、あの頃の自分。弱かった、誰も守れなかった自分がいて。


遠い昔に無くしたはずの感情が、何度も立ち上げる姿に連動する。


あたしが唯人さんに見たものは憧れだったのかもしれないね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ