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つまらない画面を見るくらいなら、いっそ砂嵐の方が落ち着くのではないか?


目の前をチラチラと動く画面を追いながら、そんなふうに思っていた。


キュッキュッとコックを捻る音がして、シャワーが止まる。


なぜか少し身を固くする。緊張しているのだろう。


そんな自分が少し馬鹿らしく思えた。


ガチャリとシャワールームの扉が開く。


俺はいっそう画面に集中した。ただ動きを追うだけであるが。


見たい衝動を必死に押さえ込む。まるで鶴の恩返しどころか、鶴による生殺しである。



ガサゴソと着替える音がする。


こちらに近づいてくる足音。俺は知らないそぶりを続ける。


次の瞬間、思いもよらない行動に声をあげそうになる。


急に後ろから抱きしめられたのだ。びっくりして振り向くと…彼女は泣いていたのだ。


どうして?わけがわからない。…が、とりあえずまだ水気の残る身体を抱きしめた。


桜色に赤みがさした身体。まるでこどもをあやすみたいに、俺は髪を撫でた。



『…いきなりごめん』


「いいけど…どうしたの?」


『あなたが優しいから…』


…どこがだろう?これも作戦の内か?涙を目の前にしても、そう考えてしまう俺は、やはりどこか傷ついているのだろう。



『普通ならね、もうとっくに押し倒されてもおかしくないじゃない。無理やり一緒に入ってきたりさ、下着を隠されたり…。でもあなたは、違った…』


…たったそれだけのことで、泣くなんて…どれだけひどい生活なのだろうか。



【騙されるな】理性が必死に警報を鳴らす。さっき裏切られたばかりじゃないか。いや、この子ではない。女なんてみんな一緒だ。違う。絶対に。いや、違わないね。


心の中の葛藤は続く。



「それはただ俺が臆病なだけじゃない?こんな状況でも何一つできないのだから」


彼女は少し黙り込み、そっと俺を慰めるように唇を重ねてきた。


『優しさのお礼。あなたは臆病なんかじゃないわ。目の前の感情に流される方が、よっぽど臆病だよ』


今まで何人とも唇を重ねてきたけれど、リコは誰よりも優しい感じがした。


「ありがとう」


中学生の時みたいになぜか照れくさくて。二人で顔を見合わせて笑ってしまった。


『ねえ…明日は仕事?』


「そうだね。明日まで」


『…明日も会える?』


…俺はその問いに何も答えられなかった。


別に会う気になれば会えるのだろうが、決定打がない。動くにも理由が必要だから。

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