-8-
つまらない画面を見るくらいなら、いっそ砂嵐の方が落ち着くのではないか?
目の前をチラチラと動く画面を追いながら、そんなふうに思っていた。
キュッキュッとコックを捻る音がして、シャワーが止まる。
なぜか少し身を固くする。緊張しているのだろう。
そんな自分が少し馬鹿らしく思えた。
ガチャリとシャワールームの扉が開く。
俺はいっそう画面に集中した。ただ動きを追うだけであるが。
見たい衝動を必死に押さえ込む。まるで鶴の恩返しどころか、鶴による生殺しである。
ガサゴソと着替える音がする。
こちらに近づいてくる足音。俺は知らないそぶりを続ける。
次の瞬間、思いもよらない行動に声をあげそうになる。
急に後ろから抱きしめられたのだ。びっくりして振り向くと…彼女は泣いていたのだ。
どうして?わけがわからない。…が、とりあえずまだ水気の残る身体を抱きしめた。
桜色に赤みがさした身体。まるでこどもをあやすみたいに、俺は髪を撫でた。
『…いきなりごめん』
「いいけど…どうしたの?」
『あなたが優しいから…』
…どこがだろう?これも作戦の内か?涙を目の前にしても、そう考えてしまう俺は、やはりどこか傷ついているのだろう。
『普通ならね、もうとっくに押し倒されてもおかしくないじゃない。無理やり一緒に入ってきたりさ、下着を隠されたり…。でもあなたは、違った…』
…たったそれだけのことで、泣くなんて…どれだけひどい生活なのだろうか。
【騙されるな】理性が必死に警報を鳴らす。さっき裏切られたばかりじゃないか。いや、この子ではない。女なんてみんな一緒だ。違う。絶対に。いや、違わないね。
心の中の葛藤は続く。
「それはただ俺が臆病なだけじゃない?こんな状況でも何一つできないのだから」
彼女は少し黙り込み、そっと俺を慰めるように唇を重ねてきた。
『優しさのお礼。あなたは臆病なんかじゃないわ。目の前の感情に流される方が、よっぽど臆病だよ』
今まで何人とも唇を重ねてきたけれど、リコは誰よりも優しい感じがした。
「ありがとう」
中学生の時みたいになぜか照れくさくて。二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
『ねえ…明日は仕事?』
「そうだね。明日まで」
『…明日も会える?』
…俺はその問いに何も答えられなかった。
別に会う気になれば会えるのだろうが、決定打がない。動くにも理由が必要だから。