-71-
『憎かったのよ。すべてが』
静かに語り出すリコ。
『あの子が死んで本当に一人になった時、あたしはあたしじゃいられなくなった。唯人さんの言う通り、卑怯者だったんだろうね。転がるように地元を飛び出したのはいいけど、あてもなくツテもないあたしは…』
一度視線をはずし、下に向ける。過去を振り返ると痛みが伴うのだろう。
『あたしは…どんどん染まっていった。善悪の判断なんて忘れちゃって、自分を正当化してさ』
責任転嫁なんてよくある話だ。
「それだけ…傷ついたんだろ」
『…かもしれないわね。でも、自分が傷ついたから、他人を傷つけていいなんて話でもないわ』
やんわりと微笑みを浮かべるリコ…なんて悲しい表情。
『アザーサイドのシステムを聞いた時に、すぐに飛び付いたわ。汚い大人を見過ぎたせいか、洞察力には自信があってね』
確かに、それは言う通りなのだろう。まるでシナリオライターのように、ここまでの脚本を書き上げたのなら。
「じゃあ…どうして俺を?」
『今ではわからないわ。…良心?出来心?ちょっと違う。あなたの心を折りたかったのかも…』
残酷な言葉には違いないが、気持ちはわからないわけではない。
慎重に慎重を重ねれば、試すためのハードルは高くなる。…ちょうど神の試練のように。
「けれど俺はここにいる。それが…答えだろ?」
『そうね…』
ため息を一つついて、小さく笑う。後悔もあり、懺悔もあり。
『あなたは諦めなかった。あたしは諦めてしまった。もっと早く出会いたかったわ』
「今からだって遅くないよ」
『…無理よ。今さら戻れるはずなんて…ないのよ』
「そんなことはない」
人はいつからだって変われるんだ。
『もう計画は動き出しているの。今さら止められないわ』
「計画?」
『アザーサイド計画よ。あなたも見たでしょう?』
これまでの行動を見透かすように、さらりと言われる。もちろん見たには見たが。
「一応は…」
『あの半分は嘘なの』
「それは一体?」
『あたしがシンに確信に触れるような情報を流すと思う?』
…確かに、そうだな。彼の浅はかさは…危ういんだ。