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「乾杯」
グラスをカチンと鳴らして、ビールを喉に流し込む。
『なんだか…オシャレだね』と小さな声で話すリコ。
「別に普通に話してもいいんだよ?」と思わず、少し笑ってしまう。
彼女は思い出したようにカバンを探り、スッとこちらに差し出した。
免許証だ。
あまりジロジロ見つめるのも失礼だと思い、名前と年齢だけを確認してスッと返した。
『信用してもらえた?珍しいよね…』
不安と何かを押し殺したような言葉。
「何が珍しいの?」
『…大抵はね、ジロジロと穴が開くまで見つめたり、写メール撮ったりする人もいるぐらいなんだよ』
「…それに何の意味もないよ」俺はあくまで穏やかに言った。どうせ…偽物だろうとは言わずに。
『ふうん』わかったのか、わかっていないのかはわからないが、彼女はワインを口に運んだ。
絵になる。唇に運ばれるルビーのような赤。
相当飲んできた俺は何も頼まなかったが、やがて彼女が注文したベーコンサンドがやってくる。
それをワインで流し込むようにたいらげ、俺はそれを肴にただ黙って飲んでいた。
気を使える子なのだろう。ころころと表情を変え、会話も弾む。
酒の影響もあるのかもしれないが。
軽い食事を終え、これからどうするかを話している。どこかで落ち着きたいのもある。…が、家に帰るには不用心過ぎるし…何より帰りたくなかった。
…それは、彼女も同じようだったが。
『…帰りたくないな…』
「それは俺もだよ」
『…じゃあ泊まっちゃおっか?ゾラさんが変なことしないと約束できるなら』
「しないよ」
心の内を見透かされたように、先回りで釘をさされた。そりゃあわよくば…と考えてしまうのは男の性でもあるが。
そんなことよりもただ話していたかった。刹那の慰めより、何か明日へと残るもの。
『知ってるよ』と笑う彼女の方が一枚上手ではあるが。
タクシーに乗り込みホテルの名前を告げる。ドライバーの羨ましそうな眼差しは無視して。
『広いねー。あたしシャワー浴びてくるね』
恥ずかしげもなく次々と纏っている衣服を脱ぎ去る。本当に中は制服であったが。
シャワールームに消えた彼女を確認して、衣服を畳み、バスローブとタオルを置いた。
そしてベッドルームの端に移動した。ここからなら見えないはず。
シャワーの音をかき消すように、テレビの音量を上げ、つまらない画面を見ていた。