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少し感傷的になりながら、その波を見つめる。
この時間からじゃ圧倒的に帰る方が多いのは、ごく自然なことで。
その中で、異質な存在を見つける。
本当に浮き出ているような感じで…オーラがある。
行き交う人も、思わず振り返ってしまうような。
モデルなのか?圧倒的な美貌は、ひどくこの街には似合わない。
人の流れに逆らって、スッと構内のベンチに腰かけて、携帯を開いている。
白のロングファーコートに、カーキ色のロングブーツ。すらりと伸びる脚がなまめかしい。
…まさか…な。
俺はゴクリと唾を飲み込み、彼女の番号が出ている画面を握りしめた。
一つかぶりを振って、息を大きく吸い込んで、震える手と心を落ち着かせようと試みた。
…違う。あんな綺麗な子であるはずがない。そう確信しているのに、汚い心は正直で。(あんなに綺麗な子だったらいいのに)と、余分に緊張感を高めていた。
約束の5分前。184と打ち込んでから鳴らす。
目はあの子に釘付けのまま。
コールが鳴るかならないかの内に彼女が出る。
『ゾラさん?着いたの?』
俺は震えて動かない口をもぐもぐと動かそうとした。
「…ああ。…リコは着いたの?」
あの子も電話に耳をつけている。いや…偶然かもしれない。
『とっくに。白のファーコートを着てるわ。南口のベンチ』
…間違いない。あの子だ。俺は震える手で電源を…切った。
…そして、背中合わせでベンチに座った。
少しの沈黙のあと、急に彼女が口を開いた。
『もしかして…ゾラさん?』
「ああ」
『…どうして隣じゃないの?』と笑う彼女はまるで可憐な少女のよう。
「自信がなくてね…。こういうの初めてだしさ」
『…よかった』
何に対してのよかったなのかはわからないが、それは俺の気持ちを落ち着かせる薬のようで、ひどく即効性があった。
「それでどうすればいいんだい?」
『…じゃあご飯でも食べる?』
「そうしようか」
背中合わせから正面を向き合う。綺麗だ。どうしてこんな子が…いや、深くは考えないようにしよう。
どうせ同情してしまうだけだから。それならば、この瞬間を楽しもう。
まるで当然のように腕を絡ませる彼女。
並んで歩くと、少し鼻が高かったが、どうしてアイツなのと言われてるようで、変な気持ちがした。
とりあえず少し奥まったカフェバーに入り、俺はビールをリコはワインを注文した。