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涙、涙…また涙。心の汚れを落とすには、たくさんの純粋な水が必要なんだろうね…そう、ちょうど涙のように。
ずっと泣き続けているリコにかけるべき言葉が見つからない。拭うハンカチさえ持っていないんだ。運転席と助手席の近くて遠い距離がもどかしい。手を伸ばせば届く距離なのに…何かが邪魔をして手を伸ばせないんだ。
背筋にザワリとしたものを感じ、ヒーターのツマミを一つ上に上げる。雨音だけが響く車内に、ごうごうと風の音が追加された。
…音楽が聴きたい。この雨音にはレイ・チャールズが似合う気がして。チック・コリアでもいい。ベン・フォールズ・ファイブでも。とにかく、この気が滅入りそうな雨音を、消してくれれば…。リコも笑ってくれる…そうなぜか思って。
緩やかなカーブを曲がり、黒く濡れるアスファルトを駆ける。もうすぐ…見えてくるはずだ。俺たちが…生きる街が。涙は止まったみたいだけど、糸の切れたマリオネットみたいに、椅子に深く腰かけたまま動かない彼女。
「寒くないか?」
あまりに見ていられなくて、声をかけてみる。
だけど、小さく頷くだけで、言葉を発することはなかった…。
見慣れた街並は、俺にとっては温かい。街灯の一つ一つが出迎えてくれるみたいに感じる。
…もう、着いてしまう。あの角を右に曲がれば…スタート地点、いや、ゴールか。
俺は間違っていたのだろうか?あそこでただリコの過去を受け止めて、ぬるく同意して、かわいそうだね、と同情の一つでもしたらよかったのか?
いや…もう過去でしかないな。たらればなんて、言い出したらきりがない。ただ…あまりにも荒療治。事を急ぎすぎたのかもしれない。感情に任せて、よかれと思い…ただ傷つけてしまっただけなのかもしれない。
心に残るカサブタを剥がしてしまったことに、後悔していた。それは、他人が剥がすものではない気がして。
そんな失意の中、もう目の前に…ゴールは見えていた。
緩やかにスピードを落とし、ハザードをつける。カチカチと規則的な音が鳴る。
「リコ」
呼びかけても反応はない。
肩を叩いて、もう一度呼びかける。
「リコ?」
『なに?』
「…もう着いたから…」
…どこの世界へ行っていたのだろう。…危うい匂いがした。
『うん…』
言葉少なに頷いたけれど、一向に足は動く気配がなかった。
一人にはできない。まだ帰すわけにはいかない。




