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フィルターの端っこを噛んで、深く吸った。苦みばしるのは味か気持ちか?


ラッキーストライク。幸運が当たるという名前も、戦時中では…爆弾が当たるって意味を持つ。ちょうどベトナム戦争時の戯れ。


リコの過去を知るごとに"普通"とは違う重みと痛みを感じた。否定はしないが…理解するのには時間がかかる。全くもって、自分の過去の経験が通用しないのだから。


リコの自分語りはまだ続く。


『身体を売らないで生きていくには、やっぱりそれなりのリスクもあって』


「…ああ」


およそ触れてはいけないラインに、達しているようにも思える。気にしてないフリを続けるにも限界はある。



『あたしが生きていくだけなら、そんなことをする必要はないのよ。どうして…それを続けるかわかる?』


…借金だろうか?よくある話なら。


「借金かな?」


『ふふっ。普通そう思うよねえ』


小さく微笑みをたたえて、明るい声を出そうとする。


「じゃあ…なに?」


『さっき見たでしょ?あの家を買いたいの。もう誰も住まないけど…あの子の思い出はあそこにしかないから』



…きっとそれが彼女なりの償いなのだろう。忘れろなんて軽々しく、口に出さなくてよかった。


「…そっか…それが終われば…自由になれるのかな?」


希望的観測も含めて口に出すと、あの冷たい表情で、無理よ、と吐き出した。


『一生許されることなんてないわ』


…そうか、リコの冷たい態度と表情は、傷つけないための優しさなんだろうね。だけど…それだけは違うんだ。


「…あの紙飛行機にも、君への恨み言がつづられていたのか?違うだろ?」


憶測でしかないが、もし彼が生きていたなら…絶対に違う答えだろう。同じ名前のよしみで、一度だけ、彼女の気持ちを溶かす力を貸してくれ。



『でも、あの子は、きっと…』



フロントガラスに水滴が跳ねる。ポツポツとアスファルトを黒く染めて。


…冬の雨は冷たく感じるね。きっと…リコは、あの夜からずっと…雨に打たれているのかもしれない。


隣でグズつくリコの手から、紙飛行機を奪い取った。


そこに書いてあった言葉は…【お姉ちゃんありがとう】と。



「これを見てもまだお前は縛られ続けるのかいい加減許してやれよ自分を」


泣き崩れるリコ。それを支えるにはまだ早くて。彼女が自分の意思を取り戻すまで、雨が叩きつける車内でただ黙って見つめていた。

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