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こんな気分の時は、やはりUSよりUKを聴きたくなる。
バスタオルで頭を拭きながら、汚れた衣類を洗濯かごに放り込む。
Radio Headが耳に優しい。
まだ痛みの残る部屋の空気を変えてゆく。
お気に入りのジャケットに袖を通そうとして、ふと我に返る。…もし本当に制服で来たら、ヤバイのは俺の方じゃないのか?
俺は少し慌てて若づくりした。いや、そこまでの年齢でもないが。ちょうど25歳。幸い童顔ではあるが、やはりジャケットを身に纏うと、年上に見られるのは仕方ない。
黒のスキニージーンズに、赤いチェックのシャツ。
ダウンジャケットに、ニット帽。これでもし会社の人間に会おうと気づかれないだろう。
まるでスパイ。自分の変装に少しおかしくなった。もちろんおかしいのは、思考回路もであるが。
酔いが覚めるに連れて、冷静な自分が顔を出す。
"喪にふくせ"と。
今日ぐらい悲しんでもいいだろうと。自慢のコレクションの中から、これでもかというぐらい、憂うつな気分になれる曲を聴きながら…泣いてもいいだろうと。
だけど俺は生きているわけで。悲しみに囚われて、さめざめと別れを惜しみ、恨み言をつぶやくより、まだ見ぬ"リコ"と会った方がよほど有意義なのではないかと、冷静な自分に言い返した。
もちろん騙されているのは承知の上だが、とにかくこの部屋に一人ではいたくなかったのだ。
幸いというか、結婚資金だった貯金もあるし、ボーナスだって出たばかり。
多少の贅沢はしてもバチは当たらない…はずだ。
腕時計を見ると、約束の30分前。出るのにはちょうどいい時間だ。
リモコンでオーディオのスイッチを切る。
【good bye】と文字が流れる。
その羅列にさえ、感傷的になる。【サヨナラ】は…痛いよ。
思わず吐きそうになる衝動を抑えて、家を飛び出した。
ポケットを探り、イヤホンを探す。ミュージックはどんな時も平等だ。
気分によって多少表情を変えることがあるけれど。
UKな気分の俺はオアシスを鳴らす。
別れに傷ついた俺が求める音が"オアシス"なんて、笑えるよな?
寒さに少し首をすくめながら、駅までの道のりを楽しんだ。
帰路につく人の群れを見ながら、羨ましく思った。
帰る場所があるのだから。
俺にはもう…見当たらないから。
オアシスは。