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『…痛みも苦しみもなく、考えることも、伝えることもできない…それが"死"よ…。どんなふうに思っていたかなんて、あたしたちの想像でしかないわ』
「俺は…わからないけど、残酷かもしれないけれど…生きるためなら都合よく考えてしまうかもしれない」
それもまた一つの本音。味わったことのない、甘い考えなのかもしれないが。
『唯人さんは強いから…』
「…リコ。そんな悲しいこと言うなよ。忘れたのかい?俺の痛みや弱さを…。何も強くなんて…ないよ」
そう…強くなんて…ない。
『ごめん…あなたを傷つけるつもりなんかなくて…ただ…』
暗黙のタイミングで、彼女の手にそっと触れた。いつしか温めてくれたみたいに、小さなその両手を包むように。
手は包めば温まる。だけど…あまりにも冷えきったリコの心は…どうすれば温まるのだろう。包み込むには…俺自身じゃ小さすぎて…。
確かに覚悟はあった。だけど…いや、よそう。今はできるだけのことを、するしかない。
「ありがとう。誰にも言えなくて…辛かっただろ?」
返事はなく、代わりに溢れるのは涙。
「今すぐじゃなくていい。ゆっくり…許していこうな…」
『許せるはずないじゃない。あたしが…殺したのよ。きっと唯人も…恨んでるわ』
「…それはない」
『どうして他人のあなたが断言できるのよ』
痛い言葉の飛沫が、胸に突き刺さる。そう…俺は他人だよね。知ってる。だけど…そこは譲れない。
「確かに、他人だけど…リコに感謝こそすれ、絶対に恨んでなんかいない。賭けてもいい」
『何を?』
「…命を」
もちろん死ぬつもりはないけれど、俺はそれぐらい譲れなかったんだ。
『もう…やめよう。証明しようがないじゃない。…意味がないのよ』
少し落ち着きを取り戻したのか、冷静に嘘の仮面を被ろうとする。
ダメだ、なにか決め手はないのか?
…わからない。でも、これじゃ…ふりだしに戻ってしまう。
『…でも懐かしいわ。よくあの子とあそこめがけて、いろいろ投げたわ』
リコが指差す天井に穴が空いている。
誰かが空けたと思っていたが…。
『でも、子どもでしょ?だから中々届かなくてね…。"脱走ゲーム"なんて言ってさ…あそこの上に入ったら…"自由"になれるなんてね…』
…ゲームにまで自由を求めるのは…きっと、誰よりもそれを望んでいたからなのだろう。子どもの感性は…時に大人を上回るから。