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『あたしなんかと違って、よくできた弟でさ…。お姉ちゃん、お姉ちゃんってあたしの後ろにくっついてきたわ』
きっと誰にも話せなかったであろう、心の闇。信頼の証なのか、都合がよかったのか…今は目の前のリコに集中しよう。…そうじゃないと、壊れてしまいそうだ。
『でもさ…生まれつき身体が弱くてね。風邪なんかしょっちゅうひいてて』
「…ああ」
俺の目も見ないで、ただ独り言のように。
『…あの時も、いつもの風邪だと思っていたんだ…』
空気がズンと重くなり、表情は痛みを増した。大きな…波が来る。
『ずっと咳が止まらなくて、あいつは血を吐いた。じいちゃんも、ばあちゃんも…面倒だから…って…』
言葉にならない。声が掠れ、嗚咽混じりに吐き出す。
『…救急車を呼ぼうとしても、恥ずかしいからやめろって言われて。あたし…あの時は呪われていたの。命令に逆らっちゃいけないって。…だから…雨の中、あたしはあいつを背負って…走り出したんだ…』
…心の呪縛。きっと彼女も…被害者なのだ。
『…でもさ、ドラマみたいになんていかないんだよね。名医がいて、奇跡みたいに助かるなんてさ…。現実は、保険証も持ってない子ども二人に、誰も手なんか差しのべちゃくれなかった』
…現実。それは心に重くのし掛かる。どうみても…「厄介」に見えたのだろう。常識的に考えて。
『結局、あいつはあたしの腕の中で死んだわ。あたしが殺したの』
雨など一つも降っていないのに、すごく肌寒く感じる。"死"というものの重みをまだ、俺は実感したことはないけれど…肉親の死は、相当心に爪痕を残すだろう。まして…救えなかった実感が、まるで拷問のように、身を苛む。彼女は幾度、そんな夜を過ごしてきたのだろうか。
「…リコ。それは違う。君は…精一杯救おうとしたじゃないか」
『…救えなかったなら同じことよ』
「違う違うよ絶対に悪いのは…リコじゃない」
なぜか俺は叫んでいた。心が思うままに。きっと…許したかったのだろう。
『あたしもね…冷たくなったあいつを抱きしめながら、ずっと雨に打たれていたの。そうしたら…きっと…一緒に…。でも…あっけなく死ぬくせに、あたしは死ねなくて…』
「それはきっと…弟さんの意思だよ」
小さく笑って、それは生きている人のエゴよ、とささやくように吐き出した。




