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つないだ手が震えてる。きっと…何かを抱えてるのだろう。
荒れ放題の生家を横目に、それを通り越して、坂道を上がる。
途中に石の階段がある。
『こっちよ…』
手を引かれるままに、石段を登る。はあはあと切れる息。タバコで衰えた心肺機能には酷な段数。
ゆっくりと一歩一歩、目の前の道を登る。
やっとの思いで登りきり、手をつないだまま振り返ると…眼前に広がるのは、空。
町を一望して、枯れた茶の大地と、鉛色の空とのコントラスト。晴れていれば…もっと。
『あたしが小さな頃ね…よく…弟の手を引いて…ここに来たんだ』
痛みをこらえるように、ゆっくりと吐き出すリコ。
「弟がいたんだ?」
『…昔ね…』
迂闊に聞いてしまって後悔した。そこは悲しみの地雷原。駆け抜けるには無防備過ぎて。
「ごめん…俺、知らなくて…」
『いいのよ。あたしも…言わなかったんだから…』
言わなかったのか…言えなかったのか。自分の弱さをさらけ出すリコに、少しの戸惑いを覚えて。
本当に戸惑っていたんだ。リコの変貌ぶりに。いつも笑顔で強く見えた彼女が見せる生身の表情。
信頼の証なのか?それとも…。いつもより小さな背中を抱きしめたい衝動に駆られる。
その気を知ってか知らずか、背中を向けて歩き出すリコ。
それを支えるでも見守るでもなく、私情を押し殺して、ついて歩く。
小さな林道を進む背中を追いかける。たぶん地元民だけが知る抜け道なのか、地図にはないであろう、踏みしめられた道を歩いていく。鉛色の空が不安を高める。枯れ木は切なさを増して。
それを抜けたところにあったのは、社。小さな神社だった。
『小さな頃ね、よくここで遊んだのよ』
幼い頃の記憶を噛みしめるように、悲しい微笑を浮かべて、落ち葉が舞う境内に二人立ちすくんでいた。
今は廃れてしまったのか、落ち葉がつもり、社もボロボロで神の不在を示すよう。
『小さい頃、よく探検ごっことかしなかった?唯人さんは?』
「ああ…自分だけの地図みたいに?」
『そうそう。ここに抜け道があって、ここは吠える犬がいるから注意とかね?』
妙に明るく振る舞おうとするから、それが余計に…痛い。
『あたしたちには…親がいなくてさ…』
衝撃的な告白もさらっと言われては…何も言えなくて。
リコは…何を考えて俺にさらけ出しているのだろう。すべてを伝えたら…今にも消えてしまいそうで、恐い。