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【>>あたしは20歳だよ。会った時に免許証を見せるわ】
…少しひっかかる。免許証と言えば、住所や生年月日が記載されている"身分証明書"だ。それを見たこともない俺に…いや、チャットの相手に見せるというのか?
…ならば。
【>>もう一つ。俺は制服が好きだから、女子高生の制服で来ること。もちろんこの季節だから、上着は来てもいいけど】
…さあ…どうでる。それでも来るようであれば、斡旋の可能性が極めて高い。
来なければウオッチマン(案内人)の言う通り"自由恋愛"なのだろう。可能性はゼロに等しいが。
【>>わかったわ。何時にどこで待ち合わせる?】
左手の時計を見ると、21時をまわったところだ。
変なことが起きないよう、人が多い場所がいい。
"駅"がいい。
【じゃあ中央駅に、1時間後で。】
【いいけど…補導されない?その格好だと】
【長めのコートで隠せばいい。じゃ…どうやってコンタクトを取る?】
【じゃあ携帯鳴らして。番号は090-****-****だから。もちろん非通知でかまわないよ。ゾラは心配性だね】
…当たり前の自己防衛を若い子は"心配性"と表現するのだな。覚えておこう。
そういや"元"彼女にもいつも文句言われたな…。"石橋も割れちゃうわよ"なんてね。
嫌なことを思い出した。まだ見ぬ"リコ"に思いを馳せながら、俺は外に出た。
冷たい風が頬を撫でる。"お前は何をやっているんだ"と言わんばかりに。
一つだけ言い訳をするのなら、俺はずいぶんと疲れていたんだ。冷静な判断なんて忘れちまうくらいにね。
ただ、目先のことしか見えていなかったんだ。
帰りにウオッチマンに挨拶しようと探したが、見つからなかった。またどこかで客を見つけているのだろう。
ここから自宅までは15分。
酔いも覚めてきて、幾分足取りもしっかりしてきた。
誰も待たない部屋に帰り、衣服を脱ぎ捨てる。もう誰も拾ってはくれないのに。
コックを捻り、熱目のシャワーを浴びながら、むせ返る思い出に襲われる。
二つ並んだシャンプーも、一つだけになっていた。
愛がなくなれば、もう"ホーム"ですらないのかもしれない。
少なくとも"戻るべき場所"とは思えなかった。
ベッドの下の引き出しを開けると、数えきれないCDの列。俺はそこから2枚取り出し、チェンジャーのスロットに滑り込ませた。
音と共に流れ出るのは…思い出。始まりの音。