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【リコ】の部屋に入ると、チャット画面が開かれ、無機質に【6番様が入室しました】と打ち込まれる。
…なんだこりゃ。酒の効果でまだにぶる頭を一つ掻きむしり、濃いめのコーヒーをもう一口飲んだ。
【>>こんばんは】
無機質に画面にテキストが流れる。
…たぶんリコなのだろう。おそらくは偽名であるが。
【>>会話しようよ?】
…めんどくせえ。俺はタバコに火をつけ、黙って見ていた。
【>>癒されたいんじゃないの?】
挑発的なセリフにも俺は動じない。…いや、下手に動きたくないだけかもしれないが。
仕方ない。どうせ家に帰っても一人だ。暇つぶし程度にかまってやるか。
【>>目的はなんだ?】
【>>目的?あなたを癒すこと】
【>>テキストで?無理な相談だ。言葉だけで人を癒せるのなら、誰も医者には通わない】
カタカタとキーを叩く音だけがこだまする。
【>>深く傷ついたのね。テキストだけじゃないわ。あなたがそう望むなら。ねえ、名前教えてよ。ハンネでもいいからさ】
…名前。個人情報は出さないのが常識。今、この部屋すら監視されているかもしれない。
だから俺はいつも使っていない思い付きで答えた。
【>>じゃあ…ゾラで】
【>>サッカー選手の?】
いくつなのだろうか?それなりに知識はあるということか。俺はいつの間にか楽しくなっていた。
【>>そう。よく知ってるね】
【>>セリエA好きだからね】
少しの間、ゾラの不運とバッジオへの敬意。トッティの王子っぷりで盛り上がる。
【>>そういえば、さっきの望めば会えるっていうのは…2次元で?それとも…】
およそ愚かに見えるだろう。針が仕掛けてあるとわかっていて、食らいつく魚のように。
習性。目の前の餌を我慢できるほどは冷静ではないのだろう。笑うなら笑えばいい。自分でさえそう思うのだから。
【>>それともの方だよ。でも少しお金はかかってしまうんだ。それと本番とかはなし。そういうサービスではないからね】
…やはり、じゃないとおかしすぎるよな。逆にお金の話が出てほっとしたところもある。
ただ…チャットで会話してわかったことは、人間は誰も孤独を好まないということ。例え、傷ついた瞬間でさえ、誰かと会話することで少しは忘れられるということ。
【>>わかった。ただし、条件がある。君がいくつかは知らないが、犯罪に巻き込まれるのはごめんだ。まずは年齢を証明すること】